表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/108

第101話:屋上で交わす静かな約束

放課後の屋上は、夕日を受けて赤く染まっていた。

風はまだ冷たいけれど、どこか冬の終わりが近づいているような空気。


制服の上からコートを羽織った美月は、凪人のすぐ後ろを歩きながら、鼓動の高鳴りを押さえようとしていた。


ふたりきりの屋上。

凪人が“話したいことがある”と言ったときから、ずっと気になっていた。


何かあったのかな。

それとも――。


扉を閉める音が静かに響き、凪人はいつものようにフェンス際へ歩いていく。

美月はその少し後ろに立ち、彼の隣に並ぶ。


しばらく、無言のまま。

でも、不思議と居心地が悪くはなかった。


「…あのさ」


不意に凪人が口を開いた。

美月は、はっとして彼の横顔を見る。


「冬休み、お前といろいろ過ごして、改めて思った」


「え?」


凪人は視線を前に向けたまま、言葉を選ぶように間を置いてから、続ける。


「俺は、昔から一人でいるのが普通だった。誰かと関わると面倒だし、期待されるのも嫌だった」


その言葉に、美月は少しだけ表情を曇らせる。

けれど――


「でも、お前といる時間だけは……面倒じゃなかった」


彼の声が、冬の空気に溶けるように響いた。


「むしろ、楽だった。……それに、もっと一緒にいたいって思った」


凪人の言葉は、少しだけ震えていた。

それが本心である証のように、美月には響いた。


「……うん」


美月は、小さく笑って頷いた。


「私もね、冬休みの間、毎日がすごく楽しかった。凪人くんといる時間が、一番落ち着いた」


目が合う。

ふたりとも、照れくさそうに視線を逸らしながら、でもどこか安心したように笑った。


「これから、春になって……いろんなことが変わっていくと思う」


「進級とか、クラス替えとか?」


「うん。でも、もし離れたとしても――私は、凪人くんと、これからも一緒にいたいって思ってる」


そのまっすぐな言葉に、凪人は少し驚いたような顔をしながらも、すぐに静かに頷いた。


「俺も、同じだ」


その言葉は、約束のように心に刻まれた。


風が少しだけ強くなり、美月のマフラーが揺れる。

凪人がそれをそっと押さえた手に、ほんのわずかに指が触れた。


美月は、そっとその手に重ねる。


それだけで、言葉にしなくても、すべて伝わった気がした。


この時間がずっと続けばいい。

けれど、続かなくてもきっと大丈夫。


そう思えるのは――隣に、彼がいるから。



ふたりは、まだ少しだけ冷たい空の下で、言葉少なに寄り添いながら、これからの季節を静かに見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ