黎明記~砂漠の章~①
太陽が容赦なく照りつける。
じりじりと肌を焼く気温。
ここは砂漠に現れたオアシス。
夢の国と言ってもいいかも知れない。
私の母は女王様だった。
数多の女性達の頂点に君臨する、美しき女主人。
その姿は美しく、神に等しいとまで言われたらしい。
長く艶やかな流れる黒髪に、褐色の肌。
その肌に薄布を纏い、瑞々しい唇は紅く、手足にはキラキラと輝くたくさんの装飾品をつけていた。
誰よりも気高く、誰よりも美しく、誰よりも愛され、そして誰よりも孤独だった、そんな母の姿をいつも見てきた。
ここは王が作った、女達の楽園。
王妃が君臨する、ハレムと呼ばれる愛憎渦巻く宮殿だ。
王が愛した女達を集め、世継ぎを作るために住まわせた。
世継ぎとなる男児を産んだ女は、妃になるしきたりだ。
たとえ身分が低くても、頂点を目指すことができるのだ。
男児を懐妊すれば。
女達は王の寵愛を受けるため、美と学を磨く。
そして、王に見初められ側に侍り、一夜限りの情けをもらうのだ。
もちろん、きれいごとだけではない、そんな世界。
私は世継ぎとなる男児を産んだ、頂点に君臨する母から生まれた。
物事ついた時から、身の回りの世話は誰かにされていた。
ハレムには、妃以外にも女がたくさんいた。
それは、私のように妃となった女が産んだ、女の子供。
男児は世継ぎとなる可能性があるが、女児の場合は、世継ぎ争いに巻き込まれることなく、ハレムで大切に育てられた。
成長すると、王の側近の誰かの元に輿入れすることが常だった。
他には奴隷市から買われてきた奴隷。
主に女の身の回りの世話をするのに、買われた少女が多いらしい。
奴隷身分だとしても、王の目に留まれば妃になれるのだ。
妃になれなかった奴隷は、ハレムで女主人に仕えながら一生を終える。
主人によっては、読み書きや礼儀作法を教えるものも多いので、意思の疎通ができない奴隷は少なかった。
あと、女とも男とも言えないものもいた。
もとは男性だったが、なんらかの罪を犯して去勢されたもの。
または、尊きひとに仕えるため、間違いが起こらないようにと去勢されたもの。
それは、宦官と呼ばれていた。
力がいる厨房や、洗濯、また王との連絡役として、彼ら(?)がハレムには常駐していた。