黎明記~宇宙の章~⑥【**視点②】
『私がこの魄を導き、私の【影】を目附に。全責任は我等が請け負う』
その言葉にある神が頷かれた。
『信に』
『他神は如何か』
神々が次々と賛成の意思を示される。
主様が頭を下げられて、対象の魄を導くとまで言われたのだ、否を唱える神は少ないだろう。
『歪めた魂を戻すならば異存なし』
『然り』
『我も』
『●●様の処遇に感謝せよ』
どうやら審判が下ったようだ。
『お前を地上に派遣しような。長い長い時間をかけて、犯した罪を償うしかない。連れ帰った霊獣と、人間を地上に戻す、辛い旅になるだろう。出来るか?』
主様の優しい声が対象にかけられる。
『出来ないなら、お前はここで消えてしまう。私がお前を導き、正しき道を示そう』
出来るか?…と訊かれているが、拒否権のない、決定事項なのだ。
対象が頷いたのが確認できた。
『神々に謝意を…』
主様の感謝のお言葉に、一柱、二柱、と神が元の場所に戻られていく。
主様と私がその場に残された。
『さて、お前の処遇も決まった。早速だが、今の肉体が朽ちてしまう前に私と契約をしてもらおう』
その言葉を合図に、抑えていた本来の神気を解放してしまう主様。
『他神の姿を見せるわけにはいかなかったが、私なら許されるだろう』
対象はその場に膝をついていた。
なにものでも、この方には逆らえないだろう。
主様の細く白い指が、対象の額に触れる直前で静止する。
なにかを呟いたあと、軽く対象の眉間を弾いた。
『契約終了、悪いがお前は私の呪縛から逃れられないよ』
なんという酷い宣言だろう。
それでも、美しい顔で微笑まれたらそんな言葉さえ、甘美に聞こえる。
なぜそう思うのか、私がそうだからだ。
この神には絶対に逆らえないし、美しい微笑で命令をされると、それすらご褒美になってしまうのだ。
我ながら気持ち悪い。
まあ、躾けたのはこの神なのだが。
『行こうか。私は【●●】。お前を導くものだ。そして、お前を影から見護るのが、目附である【**】』
私たちの名前は、対象には理解できないだろう。
言葉は理解できても、名前はわからないはずだ。
紹介されて、私は主様の後ろから頭を下げた。
『今はまだ必要ない名前だが、そのうち必要になる時が来る』
そうして、差し伸べられた白い手を、対象は恭しく取ったのだった。
主様と対象、そして私の長い旅が、今から始まる。