黎明記~宇宙の章~③
独占欲から、たった一度の規則違反を犯した私は、長い時間をニンゲンと美しい獣と過ごした。
いくつもの季節を越えて、小さかったニンゲンは大きくなり、その姿のまま生活し、先に動かなくなった。
壊れたのだろうニンゲンの、側を動こうとしない獣とそれを見ている私。
要らなかったニンゲンは動かなくなったのに、獣は私を見ようとしない。
動かなくなったニンゲンは時間とともに形を変えて小さくなり、最後にはその姿形は消えてなくなった。
美しい獣は姿を変えることはなかったが、ニンゲンがいなくなってからしばらくして動かなくなった。
私がいつしか壊した、獣の核のような赤い瞳は次第に力を失い、一度も私を見ることもなく閉じた。
あんなに欲しかったのに、手を出すことも、愛でることも許されず、白くて美しい獣は私の前から消えてしまった。
ニンゲンも、獣も、命が尽きたのだと後で気がついた。
生き物には寿命というものがあるという。
そうして、私の命ももうじき尽きるらしい。
白かった肌は蒼くくすみ、瑞々しかった肌にも張りがなくなってきた。
そんなある日、私は知らない場所に呼び出されていた。
肉体が呼び出されたのではない。
動きが鈍くなった肉体ではなく、精神体の状態で召還された。
広い部屋に沢山の人影が見える。
暗い部屋ではないのに、人影しか見えないのだ。
こちらからは見えない仕組みになっているのだろう。
私は自由に動くこともできず、ただそこに立ち尽くしていた。
何が始まるのだろうか。
『お前が犯した規則違反はよく理解しているな』
直接語りかけられた言葉に私は小さく頷いた。
『本来は連れ帰ってはいけない対象を、自分の欲で連れ帰り、無関係だった人間まで巻き込み、輪廻から外してしまったのは重罪である』
『生物は生まれ、死んだ後はなんらかの形で生まれ変わるという規則がある。それをお前は自分の欲で、霊獣の核を破壊しあの場所の護りまでもを消滅させてしまった。それはわかるか?』
いくつもの声が私の意識にアクセスしてくる。
『護りを喪った地場は狂い、生物たちの生態系にも影響を及ぼした。お前が連れ帰ったのは、あの場所を護っていた霊獣だ。あの場に人間の子供がいたのは予想外だったが』
『霊獣は本来、対で存在していたはずだったが、番が不在だったのも悪かった』
『お前に指示したモノの失態だ。しかしあそこでお前に自我が生まれたのも予想外だった』
人影は私を責める。
やはり私が犯した規則違反は重罪なのか…。