黎明記~戦国の章~⑤
本当に今から軍議をするのか…と遠い目をする私に少し微笑んで、参謀は私の耳に囁いた。
『為和殿が滞在されるようです。本日伝令が参りました』
『そうか』
為和殿とは、冷泉為和殿のことである。
代々今川家とは縁深い公卿の血筋で、歌人でもあられる。
駿河に滞在する期間も長く、父からは今川姓を名乗ってはどうか?などと提案されていた。
兄や私とは25ほど歳の差があり、血縁関係はないものの叔父のような存在だった。
『随分久しい気がするな』
『そうですね。殿の法要から滞在されてはおられませんでした』
参謀は首を傾げる。
この場合の殿、とは父のことだ。
確かに前の法要に来郷されていたが、大変気落ちしておられたのを覚えている。
しばらく都で養生されていたのだろう。
もともと多忙なお方だ。
『此度の滞在の表向きは?』
参謀は首を振る。
『伝令は受けましたが、伺っておりません。…なのでなにやら裏があるのでは?と思いお知らせに参りました』
滞在の内容が知らされていないのは少し気にかかるな。
『わかり次第、知らせてくれ』
『御意』
参謀は頭を下げたあと、部屋を出て行こうとして、再度此方を振り向いた。
『近頃、ご多忙を極めておられるのが気にかかります。明日はゆっくり養生なさいませ。では、御前失礼いたします』
静かに障子を閉めて去っていく足音に耳を澄ませた。
そうだな、最近はなにかと忙しく、あれやこれを誤魔化すために小姓を呼んでいた気がする。
明日は久々に、遊廓に顔を出そうか…。
柔らかな女性の肌に癒されるのもいいだろう。
そんなことを考えながら、乱れた褥に身体を横たえた。




