黎明記~戦国の章~④
欲望を満たすために庵樹を抱き、偽りの遊戯で自分を慰めるのだ。
なんと情けないことだろう。
『若様、庵樹ばかりを可愛がると、他の小姓たちが悋気を起こしますよ』
側近が口を酸っぱくして告げる言葉でさえも、素直に聞き入れることができない自分に、さらに腹が立つ。
ふ、と悪戯心が頭を持ち上げた。
『お前のことも抱こうか?』
『謹んでご遠慮いたします』
間髪入れずに返される。
真顔で拒否されると、それはそれで気になるものだ。
『私に抱かれるのは嫌か?』
『若様こそ、こんな大男に反応するのですか?』
同じように真顔で尋ねられた。
…確かに彼の体躯は私より筋骨隆々で、どこもかしこも大柄で、色気の欠片もないように思う。
庵樹のように柔らかくも、瑠璃王(年長の小姓)のように穏やかでもない。
『…せんな』
考えた末に答えを出す。
『そうでしょうとも。私も若様に純潔を奪われるのは…なんとも情けなく思います』
その言葉は笑顔で返された。
この男、実は笑顔が可愛いのだが、本人は気づいていないので内緒にしておこうと思う。
『さて、若様。夜も更けて参りましたが、軍議のお時間ですよ。庵樹は部屋にお戻りなさい』
私の膝で侍っていた庵樹はしばらく渋っていたが、次の戦の話だと理解しているので、素直に身体を起こした。
『参謀殿に邪魔されてしまいましたので、今宵は戻ります』
緩く羽織っただけの単を簡単に直し、乱れた黒髪を手櫛で直す。
『庵樹はいい子ですね』
『御館様、参謀殿、おやすみなさいませ』
庵樹は薄い唇に笑みをはいて自室へと戻っていった。
彼ら小姓たちにも部屋を与えている。
小姓たちをひとつの部屋に集める案もあったのだが、庵樹の我儘で瑠璃王たちが嫌な思いをするのもどうか、ということで、庵樹はひとり部屋を持つことになった。
瑠璃王や最年少の菊花にも部屋を与える話はしてあるのだが、彼らは首を横に振った。
『御館様のお手を煩わせるわけにはまいりません』
『兄様がいなければ寂しいです』
本当の兄弟のような2人を、まだ幼い菊花を瑠璃王と引き離すのは可哀想で、個室を与える話は流れたのだ。
『今から軍議か…』
『露骨に嫌な顔をしないでください』
参謀と呼ばれる男は嫌そうに発言した私の顔を見て、少し顔を歪めたのだった。




