黎明記~宇宙の章~①
これは人間より他の動物が多かった世界のお話。
私は与えられた仕事をしていた。
与えられた船に乗り。
指示された対象に近づき接触し。
船に迎え入れ。
指示された処置を施し。
なにもなかったように対象を戻す。
それはいつからはじまり、いつ終わるのか…そんなことを考えたことはなかった。
ただ、言われるがまま、指示されたことをこなしていくだけの毎日。
特に他の誰かと接触するとか、群れてなにかをする、なんてこともなく。
感情というものがなかったのだろう。
それを不思議に思ったこともなかった。
なにも不満はなく、かといって満足することもなく。
ただ、もくもくと仕事をこなすのみだった。
そんな私に変化が起きた。
あの日のことは鮮明に覚えている。
空気が冷たいある日のこと。
白い冷たい大地の上で、白くて美しい獣に私は出逢ったのだ。
ある山の中での仕事。
対象だと示されたのが、白くて美しい獣だった。
獣は自分とは違った形の生き物と一緒に生活していた。
獣より小さく、私に似た姿の生き物。
それはあまりにも小さく、儚げに見えた。
いつも通り船で近づいたら、赤く大きな眼で見つめられた。
今まで任務中に対象に気づかれたことはなかったはずだ。
獣は私を見たあとで、大きな口を開いて牙を剥き出し威嚇してきた。
その美しい身体で、小さな生き物を庇いながら私を威嚇した。
あとで知ったが、小さな生き物は、ニンゲンというものらしい。
威嚇する牙さえ美しいと思った。
いつも通り仕事をこなすつもりだった。
こなせると思っていた。
獣を船に招き入れ、いつもと同じように処置をしようとしたが、ニンゲンが離れなかった。
獣もニンゲンを離さなかった。
仕方ないので、ニンゲンごと船に招き入れ、元来の対象である獣と、対象でないニンゲンに処置をした。
いつもなら、そのまま対象を戻すだけで与えられた仕事が終わるのに。
何が起きたのか。
私は獣が欲しい、と思った。
この美しい生き物を自分のモノにしたいと思ってしまったのだ。
それは許されないことなのに。