黎明記~砂漠の章~⑪【**視点③】
キャラバンが明日、ハレムを出立するという。
皇女さまは、夕食後の時間をゆったりと過ごされている。
私はいつも通り、寝台を整える。
今夜は、大きな月が出ていた。
砂漠地帯は乾燥しているので、保湿が欠かせない。
水差しを寝台近くの机に設置して、香炉に火を入れた。
皇女さまの髪に塗る香油の瓶を手に取る。
『少し風が出て参りましたね』
そっと声をかけ、近寄った。
就寝準備を終えたら、声をかけられた。
『今夜は早めに寝るわね』
『かしこまりました』
私はは窓を閉め、灯りを小さく調節して退室した。
翌朝、私が起床した時には、寝台に皇女さまの姿がなかった。
ざぁ、と血の気が引く。
なんという失態だ。
混乱した頭ではあるけれど、室内に視線を巡らせる。
寝台に乱れたあとはない。
敷布に皇女さまの温もりはない。
室内に荒らされた跡や争った跡は見られない。
窓も割れていない。
私は隣室控えの間にいる乳母様に報告した。
まだ朝にもならない時間だ。
こんな時間に出歩くことはない。
手分けして探している時に、兵士と遭遇した。
彼から、皇女さまがキャラバンの下男に唆され、脱走を企てたが未遂に終わったと聞かされた。
ああ、なんてことでしょう!
ハレムからの脱走は大罪なのは、皇女さまもご存知のはずなのに!
脱走を企てたものは、拷問のうえ見せしめに処刑されるか、一生幽閉だと聞いたことがある。
『私も共にお連れください』
皇女さまの行動に気づかず、計画を止められなかった側仕えの責任は大きい。
主人が処刑されるなら、側仕えも共に処分されなければいけない。
『沙汰は追って申しつけられるだろうから、部屋で謹慎するように』
兵士を束ねる長から言われ、どうにか自室に戻る。
乳母様も兵士から聞いたのか、先に戻っていて青い顔で椅子に座っておられた。
『私の失態です。処分は如何様にも。拾っていただいたこの命、惜しくはありません。皇女さまを助けてくださいませ、乳母様』
乳母様は小さく頷かれた。
『わたくしの全力を尽くしましょう。ただ、あなたも処刑はさせませんよ』
どうか、どうかあの優しい皇女さまをお助けください。
私は見たことのない神に、生まれて初めて祈った…。




