本当に喜んでくれる人に
<sideアズール>
僕のお祝いをしてくれることになって、ルーとお出かけ。
ヴェルも一緒に三人で美味しいケーキ屋さんに行くんだ。
ルーとのお出かけは大好き。
以前はルーとお出かけするとルーのことを怖がって見ている人もいた。
ルーにどうしてか聞いたら、みんなと顔が違うからって少し寂しそうに言ってた。
ルーはいつだって優しいし、ふさふさのほっぺも柔らかくて気持ちがいいのにな。
怖がることなんてどこにもないのに。
だけど、僕がルーとよくスイーツを食べに行くようになってから、ルーのことを怖がる人が少なくなってきたんだ。
ルーは僕のおかげだっていうけど、違うと思う。
きっとみんながルーのかっこよさに気づいたんだ。
だからもっともっとたくさんの人にルーがかっこいいんだってところを見せてあげたいんだ。
ルーがかっこいいって言われるのが僕は何よりも嬉しい。
「私もアズールが可愛いと言われるのが好きだよ、でもそれ以上に誰にも見せたくない、私だけで独占したいという気持ちもあるが、アズールはそう思ったりすることはないか?」
「うーん、確かにルーがキャーキャー言われているのを見ると、ちょっともやってする。でも、ルーがアズールにニコって笑ってくれたらもやもやが吹き飛んじゃうよ」
「アズール……それは……」
「んっ? ルー、どうしたの?」
「いや、なんでもない。ケーキ、楽しみだな」
「うん。お母さまにもお土産ね」
「ああ、そうだな」
お父さまもお母さまも僕が蜜を出したと聞いて、おめでとうと言って喜んでくれた。
やっぱりあれは死んじゃうサインなんかじゃなかったんだ。
こっちでは嬉しいことってことなんだろうな。
今度はお兄さまにも聞いてみよう。お兄さまが蜜が出た時はどんなだったのかな。
あっ、そういえば……
「ねぇ。ルー」
「どうした?」
「ルーが初めて蜜が出た時はどんなお祝いしたの?」
「ぶっ、ごほっ! ど、どうした? 急に?」
「えっ、だってどんな感じだったのかなって。そもそもルーはいつだったの?」
僕の質問にルーはなんだか急に顔を真っ赤にしていたけれど教えてくれた。
「そ、そうだな。私は十歳の時だったか。狼族は大抵十歳になったら出るようになるものだ」
「へぇー、そうなんだ。それでどんなお祝いをしたの?」
「お祝い……そ、そうだな。いつもの倍くらい肉料理を用意してもらった、かな」
「そうなんだ。ルー、お肉大好きだもんね」
ふふっと笑顔を見せると、ルーは少し考えた様子で僕を見つめた。
「アズール」
「どうしたの?」
「蜜が出ることは確かに嬉しいことだ。大人になった証だし、喜ばしいことだ。だが、それを誰彼構わずに聞いたり、話したりしてはいけないんだ」
「どうして? 嬉しいことなんでしょう? アズールはみんなにお祝いしてもらったら嬉しいよ」
誕生日だって、おめでとうって言われるだけで嬉しかったよ。
せっかく大人になったのに、誰にもお祝いを言ってもらえないのって寂しいと思うんだけどな。
「うーん、そうだな。アズールは私や家族に誕生日おめでとうと言われるのと、町の者たちにおめでとうと言われるのが同じくらい嬉しいか?」
「えっ……それは……」
「どうだ?」
「ルーやお父さまたちに言われた方が、嬉しい……かな」
蒼央の時だって……誰に言われるより、お父さんとお母さんに言ってもらいたかったんだ。
おめでとうって、また一つ大きくなれたねって、言って欲しかったんだ。
「そうだろう? 身体の成長は特に、本当に喜んでくれる人だけに話すべきことなんだ。だから、今回はお祝いだけど、大人になったんだと店員たちにも他の客たちにも話してはいけないぞ。私が言っていることがわかるか?」
「うん。わかる……」
「アズール、良い子だ」
ルーの大きな手で優しく髪を撫でられる。
ルーはこうやっていつも僕の間違っているところを優しく直してくれるんだ。
<sideルーディー>
「ルーが初めて蜜が出た時はどんなお祝いしたの?」
アズールから突然そう尋ねられた時、一瞬頭の中が真っ白になってしまった。
そもそも大人になったどうかというのはかなりプライベートに踏み込んだ話だ。
おいそれと尋ねるものではない。
アズールはそれを知らないのだから仕方がないが。ここははっきり教えておくべきだろう。
誰彼構わず聞いたり、話したりしてはいけないというと心底不思議そうにしていたが、私が説明するとどうやら納得してくれたようだ。
アズールは本当に素直で良い子だからな。
アズールに蜜のことなど聞かれたら、誘われていると思ってよからぬものが近づいてくる恐れがある。
そうならないためにも口止めができて本当によかった。