ヴェルナーからの手紙
<sideルーディー>
ヴェルナーにアズールを任せて、我慢に我慢を重ねて疲労困憊した身体をベッドに沈めて深い眠りに落ちそうになった瞬間、
「ルーディーさまっ! ルーディーさまっ!!」
ただならぬ様子の爺が部屋に入ってきた。
部屋を叩くこともせずに飛び込んでくるなど、普段の爺なら、いや、たとえ何かがあったとしても考えられない行為だ。眠りを妨げられたという怒りよりも、何が起こったのか知りたかった。
これほどまでに爺が慌てふためくのはアズールに関することに違いないと思ったからだ。
鉛のように重い身体を起き上がらせ寝室を出た。
「どうした? 何があった?」
「ヴェルナーさまからルーディーさまにお手紙が参りました。早急に公爵邸に来られたしとのことでございます」
「なんだと?!」
ヴェルナーが私を呼びつけるなんて、とんでもない事態が起こったとしか考えられない。
私は差し出された手紙を受け取り、中を確認した。
「な――っ! アズールが?」
「ルーディーさま、アズールさまに何がおありになったのですか?」
「どうやらアズールに大人の兆しがきたようだ」
私の言葉に爺は驚きつつも、予想した通りといった表情をしている。
「やはりルーディーさまが懸念なさっていた通りですね」
「ああ、おそらく私の部屋に止まったのがその引き金になったようだが問題はそこではない。どうやらアズールに偽の情報を与えたものがいるらしい」
「偽の情報、でございますか? それはどういうことでしょう?」
「それはまだわからぬ。直接会ってから話をしたいと言っている。すぐに公爵家に向かうぞ!」
「ルーディーさま。ご体調はまだお戻りではないのでしょう? お出かけになってもし万が一……」
「背に腹は変えられん。アズールの一大事だというのに、それを放置して寝られるわけもないだろう?」
「承知しました。すぐにお薬をお持ちいたしますので、それだけでもお飲みになってくださいませ」
「ありがとう、爺」
すぐにでも向かいたいがとりあえず爺の出してくれた薬を飲んで急いで馬を走らせ公爵家に向かった。
アズールの部屋までの道のりがとてつもなく長く感じる。
階段を駆け上がり廊下をひたすら走り、アズールの部屋にようやく到着した。
「アズールっ!」
「ルーっ!!」
部屋に飛び込むと、アズールがソファーから私の胸にぴょんと飛び込んでくる。
「私が来るのを待っていてくれたのか?」
「うん。アズール、ルーに会いたかったの。ルーに会えて嬉しい!」
「アズール! 私も嬉しいよ! んっ?」
ほんのり薬の匂いがする。これは……目を冷やす薬か?
いつもより赤みが増した瞳にかなり長時間涙を流したのだろうと推測する。
「ルー? どうかした?」
「い、いや。なんでもない。それよりも嬉しい知らせがあると聞いて飛んできたのだが、何があったのか教えてくれるか?」
「あのね……アズール、大人になったの」
「アズールが大人に? もしかして……」
「わかった? アズールのここから白い、えっとなんだっけ……あっ、蜜が出たの」
「――っ!!! そ、そうか。それは素晴らしいことだな」
アズールがズボンのソコを手で触れて見せるから一気に興奮しそうになる。
「ヴェルも喜ばしいことだって言ってくれたの。だから、ルーがお祝いに美味しいケーキを食べさせてくれるって。ルー、いい? 一緒に行ってくれる?」
「ぐぅ――!!! あ、ああ。もちろんだよ。今すぐに行こう!!」
「わぁーい!!」
上目遣いに私を見つめ嬉しそうに抱きついてくるアズールはいつもと同じように見えるが、薬で治さなければいけないほど泣いて目を腫らしていたのだ。私がそばにいない間に一体何があったのだろう?
そっとヴェルナーに視線を送れば、今は何も聞くなと訴えているように見える。
そうだな。今はアズールを喜ばせることを第一に考えるとするか。