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すぐに報告を!

<sideアズール>


あの時と同じ白いものを下着の中で見つけた時、愕然とした。

もう死んじゃうんだ。

僕は今、こんなに幸せなのにまたひとりで死んじゃうのかなって思ったら、悲しくて涙が止まらなかった。


前はもうすぐ死ぬとわかって喜んでいたくせに。わがままだな、僕は。


でも、ルーと離れたくない。


お父さまやお母さま、お兄さまたちとも離れたくない。

僕のそばにいてくれる人たち、みんなと離れたくない。


でもそんなこと言っちゃいけないんだ。

もう死ぬって決まってるんだから。


ルーが悲しむ顔が見たくなくて、ヴェルに僕が死ぬことを伝えた。

白いのが出たから死ぬんだって教えたらびっくりしていた。


そりゃあそうだよね。

死ぬ前にそんなところから白いのが出るなんて、信じられないもん。


でも僕は確かに死んじゃったんだ。

それを見てから一ヶ月もしないうちに。


だけど、ヴェルはそれを喜ばしいことだって言った。大人になった証なんだって。


あの白いのは<蜜>っていうんだってことも教えてくれた。


しかもヴェルもお父さまもルーもみんな男の人は出るんだって。

ヴェルが初めて出たのはもう二十年以上も前だっていうから、本当に死んじゃうサインなんかじゃ無いのかも。


もしかしたら、前の世界では死ぬサインだったけど、こっちでは大人になったサインとか?

前は長いお耳も、もふもふの尻尾もなかったけど、こっちでは無い方がおかしいんだし。

前の世界と違うこともあるのかも。


「ねぇ、ヴェル……じゃあ、僕……大人になったの?」


「そうですよ。お祝いしましょう」


「お祝い?」


「ええ。王子にもお声がけして、美味しいケーキでも食べに行きましょう」


「ケーキ? わぁー! 行きたいっ!!」


「それならおでかけのお支度を致しましょう。随分と目が腫れていらっしゃいますから冷やすものをお持ちしますね。あまり腫れていると、王子が心配なさいますよ」


「そんなに腫れてる?」


「大丈夫でございますよ、冷やせばすぐに治まりますから。少しだけお部屋でお待ちくださいね」


優しいヴェルの声に僕は頷いた。ヴェルはゆっくりと僕をソファーに下ろして、静かに部屋を出て行った。


<sideヴェルナー>


蜜が出たら死ぬ……そんなことをアズールさまはどこからお聞きになったのだろう?

しかも正確な情報でも無いのに。


まさか、アズールさまに偽の情報を与えたものがいるのか?


そんなはずはない。だが、その可能性が0ではない以上、調査しなければならない。


素直なアズールさまは私の話に納得してくださって、あれが大人になった証だと理解してくださったようだが、私はそれを使って王子に今回のことをすぐに報告しようと考えた。


大人になったお祝いに王子と一緒にケーキを食べに行きましょうとお誘いしたら、アズールさまは喜んで賛同なさった。


王子は今頃、昨夜の試練の疲れでお休みのところ申し訳ないが、アズールさまにとって一大事なのだから頑張っていただくとしよう。


死んでしまうと思い詰め、腫らしてしまった目を冷やすものをお持ちすると言って、アズールさまのおそばから離れた。もちろん、扉の前には見張りの騎士をいつもより多めに配備して。


「ベン殿、悪いがすぐに紙とペンを頼む」


「ヴェルナーさま。何か大変なことが起こったのですか?」


「詳しい話は後だ。とりあえず、王子にすぐにご連絡をしなければ」


私のただならぬ様子にベンは血相を変えて紙とペンを差し出し、私はこれまでの経緯をささっと書き綴った。

アズールさまが不安に思っているからすぐにきてほしいという気持ちを込めて書いた手紙を屋敷の周りで見張りをしている騎士に持たせ、すぐにお城に持って行かせた。


これですぐに王子が来てくださるはずだ。


「ベン、目を冷やすものも用意してくれ」


「アズールさまが泣かれたのでございますか?」


「ああ、少しでも早く治して差し上げたいのだ。頼む」


「承知しました」


すぐに冷たいタオルが用意され、私はそれを持ってアズールさまの元に戻った。


「アズールさま。タオルをお持ちしましたよ」


アズールさまをソファーに横にならせたまま、目の腫れを抑える成分が染み込んだタオルを当てて差し上げる。


「なんか、スーってする」


「治っている証拠ですよ。十分ほど置いておいたら、腫れが治っていますからね」


「へぇー、すごく便利だね」


感心したようにそう仰るアズールさまが可愛らしい。


「アズールさま、どこのケーキ屋さんにするかお決めになりましたか?」


「うん。あのね、僕……あのフルーツがいっぱいのところがいい」


「そうだと思いました。アズールさまはあそこのフルーツがお好きですからね」


「うん。大好き。でもね、ルーもあそこのケーキ好きなんだよ。いつもいっぱい頼んで、全部食べちゃうの」


王子は甘いものはそれほど得意ではなかったはずだけれど、アズールさまにいろんなものを少しずつたくさん召し上がらせたい一心で、注文なさる。

小さなアズールさまはそれほどたくさんを召し上がることができないから、どうしても残ってしまうのだが、王子としてのお立場上、決してお残しなどできない。

それにキラキラとした目でアズールさまに、


――ルー、たくさん食べられるのかっこいいっ!!


と褒めていただけるのが実はお好きなのだ。


本当にあの怖そうなお顔からは考えられないほど可愛らしいところがおありになる。


「さぁ、そろそろ治っていると思いますよ」


ゆっくりとタオルを外すと、さっきまで腫れ上がっていた瞼がいつものような可愛らしい形に戻っていた。


「これで、お出かけできますね」


「よかったぁ。ルーに腫れちゃったお目目とか見せたくなかったもんね」


「それはそれで可愛らしかったですよ」


「えー、ヴェルったら」


そんな話をしていると、廊下をバタバタと駆けてくる音が聞こえた。

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