オニギリのお礼に
<sideルーディー>
アズールがこの小さな手で私のために作ってくれたオニギリ。
今までアズールが作ってくれた大きなオニギリももちろん美味しかったが、アズールの手で握ってくれたオニギリは格別だ。
本当に食べ終えてしまうのが勿体無い。
と言いつつも、アズールが口に運んでくれるから次々に食べ尽くす。
そして、とうとう最後の一個になってしまった。
「最後の一つもアズールに食べさせて欲しい」
「いいよ。ルー、あ~んして」
最後だからと今までよりもたっぷりとアズールの手を味わってから、オニギリも存分に堪能した。
「ああ、本当に美味しかった。アズールのオニギリのおかげで訓練の疲れもすっかりなくなったな」
「本当? 嬉しい」
「手をこんなに赤くしてまで頑張って作ってくれたアズールには何かお礼をしなくてはな。何か欲しいものはないか? またケーキでも食べに行こうか?」
「うーん、それもすっごく魅力的だけど……」
私の、というかケーキの誘いにアズールが乗ってこないとは珍しい。
何か他に欲しいものでもあるのか?
それこそアズールには珍しいことなのだが。
「どうした? 何か欲しいものがあるならなんでもいいぞ」
「ルー、本当になんでもいい?」
「ああ、もちろんだとも。何がいい?」
「あのね、アズール……お城に行きたいな」
「えっ? 城に?」
「うん、そしてルーのお部屋にお泊まりしたい!」
「な――っ! い、や……流石に、それは……」
思いがけないアズールのおねだりに流石に難しいのではないかと言おうとしたのだが、
「でも……ルー、なんでもいいって言ったよ」
と言われてしまい、なんと返していいやら言葉に詰まってしまう。
「――っ、それは、そうなのだが……」
「だって、まだ一度もお部屋に連れて行ってもらったことないよ。アズールのお部屋にはルーは入った事あるのに。ずるいよ」
「くっ……」
私の部屋に、アズールが入る?
しかも、泊まるという事は私のベッドで眠るということか?
私が毎日アズールを想いながら眠っているあのベッドに?
そんなの興奮しかしないんだが……。
「ルーは、アズールがお部屋で、お泊まりするの、いやなの?」
「そんなことあるわけないだろうっ! いつだってアズールに泊まって欲しいと思っているのだぞ」
「じゃあ、決まりね」
「えっ……」
「今日はルーのお部屋でお泊まりだーっ! 楽しみだな」
「あ、いや……」
まだいいと言ったわけでは……と言おうと思ったが、アズールがこんなにも喜んでくれるのを今更泊まりはダメだとはいえない。私はアズールに弱いからな。
仕方がない。
今夜一晩我慢したら良いのだ。
ヴンダーシューン王国騎士団の騎士団長の名にかけて、そして、次期国王としての威厳を示すためにも絶対にやり遂げてみせる。
アズールを腕に抱き、一階へ下りると騎士たちの視線が一気にこちらに、いやアズールに注がれた。
私からアズールを奪おうなどと愚かな考えを持っているものは……流石にいないようだな。
それならいいか。可愛らしいアズールに目が向いてしまうのは仕方のないことだからな。
「もう食べ終わったのか?」
「はい。素晴らしい差し入れをいただきましてありがとうございました。ご馳走さまでした!」
ティオの言葉に若い騎士たちが一斉に
「ご馳走さまでした!」
と頭を下げる。
アズールはその声の大きさに驚きながらも、
「おにぎり食べてくれてありがとう、僕、嬉しい」
と笑顔を見せる。
その瞬間、騎士たちは一斉に膝から崩れ落ちた。
まだ騎士になったものばかりだ。
恋人もパートナーもいないはずだから、アズールの可愛らしい笑顔を目の当たりにしたらそうなってしまうのも無理はない。
アズール自身は、幼い時からしょっちゅう目の前で人が倒れるのに遭遇しているせいか――まぁ、その理由はアズールなのだが――その度に私がそんな症状が出るものがいる、それが普通なのだと言い続けていたせいで、目の前で人が膝から崩れ落ちても心配はしなくなった。
崩れ落ちる時の音には身体をびくつかせるがな。
それはどうにもできないのだろう。
「王子、まだ訓練をなさるなら私が先にアズールさまをお屋敷までお連れしますが、いかがされますか?
「いや、それはいい」
「いい、と仰いますと?」
「ヴェル、今日は僕、ルーのお部屋に泊まることになったの」
「えっ?」
「「「「「「ええっ!!!!」」」」」」
嬉しそうなアズールの声とは対照的に、ヴェルナーの驚きの声と共に騎士たちからも驚きの声が上がる。
パッと騎士たちの方を振り返り、ギロっと睨んでやると
「「「「「「ひぃーーっ!!!!!」」」」」」
と怯えた声が聞こえた。
流石におとなげなかったが、今日は許してほしい。私も大変なのだから。