僕に聞きたいこと
<sideアズール>
一晩中、甘い甘い匂いと安心する匂いに包まれて、ぐっすりと眠った。
ああ、久しぶりにたっぷり寝た気がする。
ずっとルーの匂いがたっぷりついたブランケットに包まって眠っていたけれど、やっぱり本物の匂いは安心さが違う。
これから毎日ルーにお泊まりしてもらって、一緒に寝たいくらいだ。
「おはよぉ……るー、だっこぉ」
まだ少し寝ぼけてる。
けど朝一番にルーの顔を見られるのは本当に嬉しい。
だから、ぎゅっと抱きつきに行った。
「あ、ああ」
ぎゅっと抱きしめてくれるルーの手からも身体からも他にも至るところから濃くて甘い匂いが漂ってくる。
「るー、いいにおい……」
「――っ、ア、アズール、よく寝られたか?」
「んー。いっぱい、ねた。ゆめのなかでも、ルーのにおいしたから、よくねむれた」
「そ、そうか。それならよかった」
「ルーは、ねられた?」
「あ、ああ。もちろんだよ」
そう言って笑うルーはなんだかとっても眠たそう。
「あずーる、けったりした?」
「いや、そんなことはないよ。アズールはお利口さんに寝ていたよ」
ルーの笑顔がとても優しい。
これなら、毎日一緒に寝たいと言っても、いいよって言ってくれるかも!
「よかった。じゃあ、これから、まいにち、いっしょにおねんねしたい」
「えっ? ま、毎日? ちょ――っ、それは……」
「だめ?」
「い、いや。だめではないが……その、特別な日だけ泊まる方が楽しいのでないか?」
「とくべつな、ひ?」
「ああ。アズールの誕生日とかそんな特別な日のご褒美がいいんじゃないか?」
「そっか……ごほうび……」
確かにそうだ。
僕は何も洋服とか何も欲しいものはないし、いつだって欲しいなと思うのはルーとの時間だけ。
僕にとってのご褒美はいつでもルーだけだもんね。
「そうだね。じゃあ、つぎのごほうびのひまで、がまんする」
「ああ。いい子だな。アズールは。そろそろ起きてご飯にしようか?」
「うん」
たっぷり寝てすっかり元気いっぱいになった僕はぴょんとベッドから跳ね起きた。
「わっ!」
驚くルーの布団がばさっと全部ベッドの下に落ちてしまった。
「あっ、ごめんなさい……あれ?」
「ど、どうした?」
「ルーのふく、きのうねるときと、ちがってる。なんで?」
「えっ? そ、そうだったか? ずっとこれだったぞ」
「あれ? そうだったかな? あずーるのかんちがい、かな?」
「ゆっくり寝たから寝ぼけたのかもしれないな。昨日は本当によく眠っていたから」
「そうかも。なんか、ゆめでいっぱいごはん、たべたから、おなかいっぱいかも」
「ぐっ、ゴホッ、ゴホッ」
「ルー? だいじょうぶ?」
突然苦しみ出したルーに近づくと、
「あ、いや。大丈だ。心配しないでくれ」
とすぐに僕から離れた。
「ルー、なにかおこってる?」
「そ、そんなこと、あるわけないだろう? ただ昨日帰ってきたばかりでちょっと疲れているかもしれない」
「つかれてる……そっか。じゃあ、ベンをよぶ?」
「あ、ああ。そうだな。そうしてもらおうか」
僕がチリンとベルを鳴らすと、すぐに部屋の外にベンが来てくれた。
「ルー、あるける?」
「あ、ああ。大丈夫だ。ありがとう、アズール」
僕が先に寝室から出て部屋の中からベンに声をかけると、ベンが部屋に入ってきた。
僕を見て一瞬苦しそうな表情を見せたベンだったけれど、僕が何かいう前にベンはすぐにルーのそばに駆け寄って部屋の外に連れて行ったと思ったら、ルーはそのまま帰ってしまったらしい。
一緒にご飯食べられると思ったのにな……。
でも疲れてるのはわかってるし、わがままは言っちゃいけないよね。
「ルーディー王子もゆっくりと休まれたらまたアズールに会いにきてくださるわ」
お母さまの言葉を信じて待っていると、翌日の夕方ようやくルーが会いにきてくれた。
「ルー!! あいたかった! もう、げんきになったの?」
「ああ。心配かけてすまない。勝手に帰って申し訳なかった」
「ううん。ルーがげんきになってくれたら、それでいい」
「アズール!!」
ルーが僕の唇をおっきな舌で舐め舐めする。
その長い舌が僕の口の中まで入って舐め舐めしてくるけれど、これは大事なことなんだって。
僕たちウサギ族はこうしないと病気になっちゃうんだって聞いてびっくりしたんだもん。
僕が元気になれたのはルーのおかげなんだよね。
だからルーも元気になって本当によかった。
抱っこされたまま、僕たちの部屋に向かう。
お気に入りのソファーに腰を下ろすと、ルーは僕をぎゅっと抱きしめながら、
「アズールに聞きたいことがあるんだ」
と言ってきた。
「ききたいこと?」
「ああ。嫌なら話さなくていいが、できたら教えて欲しい」
「なぁに?」
そう聞くと、ルーは一度だけ大きく深呼吸をすると、じっと僕を見ながらゆっくりと口を開いた。
「あお、とは一体誰なんだ?」
「――っ!!!」
思いもかけないその言葉に僕は一瞬時が止まった気がした。