父上への報告
<sideフィデリオ(爺)>
「ル、ルーディーさま。すぐに寝室に」
「あ、ああ。ありがとう。父上には……」
「私の方からお伝えいたします」
「頼む……」
よろよろと足をふらつかせながら部屋に入っていくルーディーさまを見送りながら、昨晩どれだけ過酷な夜を過ごしたのかが手に取るようにわかった。
私はルーディーさまのご帰宅を伝えるべく、陛下の元に向かった。
「ルーディーは帰ったのか?」
「はい。ですが、お帰りのご報告は明日以降になるかと存じます」
「ああ、それならわかっている。昨日のお前の報告を受けた時からな」
父として、一人の男として今のルーディーさまのお辛さを一番わかっておいでなのだろう。
「ルーディーには落ち着き次第、儀式を無事に終えたことの報告に来れば良いと伝えてくれ。といっても今日は無理だろうがな」
「はい。ルーディーさまが落ち着かれましたらすぐにでもお伝えいたします」
ご理解があるお方で本当に良かった。
安堵の息を漏らしつつ、ルーディーさまの動向を逐一報告を受けていたが、ルーディーさまのお部屋からベルが鳴ったのは
翌日の夕方近くになっていた。
「ルーディーさま。改めまして無事のご帰還、爺は嬉しゅうございました」
「ああ、ありがとう。爺とマクシミリアンがアズールを守っていてくれたから、安心して儀式を終えることができた。私からも礼を言う」
「いいえ。滅相もございません。アズールさまの頑張りに比べたらもう私など足元にも及びませぬ。アズールさまはルーディーさまをお思いになりながら必死にパーティーの準備をなさっておりましたよ」
「そのパーティーのことで爺に聞きたいことがあるのだが……」
「はい。私にお答えできることなら何なりとお尋ねください」
そう答えたが、ルーディーさまはしばらく思案されてから、
「いや、やはりやめておこう。これは私とアズールの問題だからな」
と仰った。
アズールさまのことで何かお聞きになりたいことがあったのだろうか……。
思い当たることといえばないわけではないが、それでも私にお尋ねにならないとは……。
ルーディーさまも大人になられたのだな。
<sideルーディー>
アズールの話していた、あおとやらのことについて、爺なら知っているかもしれないと思ったが、ここで爺に尋ねるのはなんとなくフェアではない気がした。
やはりこれはアズールに直接尋ねるべきだろう。
たとえどんな事実を知ったとしても、私のアズールへの愛情は変わらないと断言できる。
「それよりも父上に挨拶に行こう。ずっとお待たせしてしまって、お怒りではないか?」
「いいえ。陛下はルーディーさまのことを心配していらっしゃいましたよ。反対に想像よりも早いとお褒めになるのではないですか?」
「ははっ。それなら良いが」
父上の部屋に行き、二人っきりになった途端、
「儀式は大変だったか?」
と尋ねられた。
「えっ、あ、はい。あの……」
「ああ、詳しいことは言わずとも良い。ただ同じ試練を受けたものとして讃えあいたかっただけだ」
「父上の御指南のおかげで自分の判断を見誤らずに済みました」
「そうか。それなら良かった。お前はこれから、次期国王としてさらに勉強してもらうぞ。アズールのためにもこれからより一層励むように」
「はい。お任せください」
「うむ。今から公爵家に行くのか?」
「はい。昨日早々に帰宅しましたので、アズールの顔を見に行こうと思います」
そういうと、父上は気をつけて行ってこいと送り出してくれた。
アズールに会ったら、早速あのことを聞いてみようか。
なんと言われるか緊張するが、それでも悶々と悩んでいるよりはずっといい。
私は気合を入れ直して、アズールの待つ公爵邸に向かった。