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叶えたかった夢


愛しいアズールさまからお祝いの言葉にすっかり満足なさっている王子だが、パーティーはこれからだ。

まだまだアズールさまがサプライズを用意なさっている。


アズールさまは嬉しそうにご自身でお作りになった王子とアズールさまの姿を模したバロンクンストを見せる。


これを作り上げるのに使ったバロンは優に百を超える。

それほど細部までこだわり抜いて作られたアズールさま渾身の作品だ。


いっぱい膨らませたのだと王子に嬉しそうに報告されているが、実際はアズールさまが膨らませたバロンはただの一つもない。

私の作ったあのバロンを膨らませる機械に手を添えていらっしゃっただけだが、アズールさまが膨らませたということにしておいた方が王子がお喜びになるのだからそれでいい。

これは私とお祖父さまだけの内緒だ。


バロンを膨らませたのはともかく、形作られたのはアズールさまに間違いない。

本当に初めてお作りになったとは思えないほど緻密な計算のもとで作られていて、その出来には驚くばかりだ。


王子でさえ、このバロンクンストをアズールさまが一人でお作りになったことに驚きが隠せないようだ。

これほど大事なものなのだから、バロンが萎むことがないように保存液をかけて、大切に飾っておくことにしよう。

後で騎士団から持ってきておくか。


流石にこのバロンクンストでサプライズも終わりだろうと思っている王子にもうひとつの贈り物を見せる。


国内を探して見つけた一番美しい輝きを放つ金色の紙で、アズールさまがお作りになったキラキラと輝く王冠。


遠目で見れば、誰も紙でできているとは思いもしないだろう。

それくらい美しい王冠に王子も驚いていた。


手に持ってようやく紙でできていることに気付いたようで、ゆっくりと箱から取り出す。

アズールさまは王子の腕から下り、その王冠を王子の頭に優しく被せた。


「ルー、かっこいいおうさまになってね」


それは必死に儀式を終えてきた王子にとって何よりも嬉しい言葉だったに違いない。


この瞬間、王子の進むべき国王への道筋が決まったと言っても過言ではない。

王子はアズールさまの希望通りの格好いい王さまになるべく、これからの日々を過ごしていくのだろう。


<sideアズール>


マックスと爺に手伝ってもらった僕とルーの風船の人形も、綺麗な金色の紙で作った王冠もルーはすごく喜んでくれた。


ここまでのサプライズは大成功だ!!


そして、最後のサプライズもそろそろしていいのかな?


気になって爺を見ると、にこりと優しい笑顔を浮かべて、


「そろそろ最後のサプライズをおもちしましょう」


とルーに聞こえるように声をかけてくれた。


「こんなにも素晴らしい贈り物で私の誕生日を祝ってくれているというのに、まだサプライズがあるのか? アズールはどれほど私を喜ばせてくれるんだ?」


「ルーが、おうさまになるために、がんばってくれるから、あずーるも、おなじだけ、がんばりたかったの」


「アズール! ありがとう。だがな、私が無事に儀式を終えられたのはアズールのおかげなのだぞ」


「ぼくの、おかげ?」


「ああ。アズールが私を正しい方に導いてくれたんだ」


ルーが言っていることはよくわからなかったけれど、でも僕がルーのために少しでも力になれたのならそれは嬉しいことだ。


「じゃあ、あとで、ごほうびくれる?」


「アズールから強請ってくれるとは嬉しいな。何が欲しい? なんでも好きなものをいうがいい」


「あとの、たのしみにしてて」


「そうか。ならそうしよう」


そんな話をしていると、爺が最後のサプライズを持ってきてくれた。


「ルー、おたんじょうびけーきだよ」


「もしや、これをアズールが?」


「けーきやくのは、むずかしかったから、くりーむぬりぬりしたの。くだものも、あずーるがいっぱいのせたの」


「そうか、とても美味しそうだな。ありがとう」


「あのね、ぼく、このけーきでしたいことがあって……いい?」


「何をするんだ?」


「じぃー、おねがい」


目の前のケーキを見ながら不思議そうな顔をしているルーを横目に僕がそういうと、爺が近づいてきてケーキに蝋燭を大きいのを一本と小さいのを五本並べる。


そして蝋燭に火をつけると、広間の電気を消してくれた。


暗い部屋にケーキについた蝋燭の灯りだけが点っていて、とても綺麗だ。


ずっとこうやってお祝いしたかったんだ。

やっと夢が叶う。


そして、僕はゆっくり口を開いてずっと歌ってみたかったあの歌を歌う。


ハッピーバースデートゥーユー。


どこからこんな歌を知ったんだとか、どういうことなんだとか聞かれてもいい。

誤魔化せないけれど、でも一度でいいからどうしてもやってみたかった。


いつも一人だった蒼央の願いがようやく叶うんだもん。


僕はたった一人で歌を歌っている間、広間に僕の声だけが響いていた。

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