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暗黙のルール

<sideマクシミリアン>


「ルーのにおいがするっ!!」


そう言って部屋を出て行かれたアズールさまを追いかけながらも、私にはまだ何の匂いも感じられなかった。

まだ近づいてもきていないルーディー王子の匂いを嗅ぎ分けることができるのか?


まさか、勘違いなのでは……と思ったりもしたが、アズールさまが部屋を出てすぐに一階の玄関からルーディー王子の声が聞こえた。


ああ、勘違いなどではなかったんだ。

運命の番だからこそわかる匂いが存在するのかもしれない。


ここは待ち焦がれたお二人の再会の瞬間。

私ごときが邪魔をしてはいけないだろう。

それでも専属護衛として怪我をされるようなことがあってはならないと思い、気配を消して見守っているとアズールさまは階段を下りるのも我慢できなくなったのか途中で王子に向かって飛び込んだ。


あっ! と思ったが、やはりそこは王子。

難なくアズールさまを腕に抱き、感動の再会が始まった。


アズールさまはもちろん、やはり王子も限界だったのだろう。


二人が嬉しそうに抱き合う姿に私もいつの間にか嬉し涙を流していた。


ああ、無事にお帰りになって本当に良かった。

心からそう喜んでいると、私の興奮を呼び起こす甘い香りが漂ってきた。


これは……っ、ヴェルナーの香り。


どこだ?

どこにいるんだ?


ハッと後ろを振り返ると、ヴェルナーが満面の笑みでこちらを見ていた。


「ヴェーーっ!」


思わず大声が出そうになったが、王子とアズールさまの大事な再会を邪魔するわけにはいかない。

咄嗟に声を抑えたが、ヴェルナーには私の声がちゃんと届いていたようだ。


嬉しそうに駆けてくるヴェルナーをしっかりと抱きしめて


「無事に帰ってきてくれたのですね」


と告げると、


「ああ、会いたかった。会いたすぎて裏口から上がってきてしまったよ」


と嬉しそうな声で返してくれた。

その声に我慢してきたものが全て溢れ出てしまった。


「ヴェルナーっ!! 私も会いたかったです!!」


抑えることのできない衝動を我慢ができずにヴェルナーを強く抱きしめた。


ああ、やっとだ。

やっとヴェルナーに触れられた。


この数日、いつも以上の力でアズールさまをお世話し続け、そして王子の激しい威嚇と威圧に塗れた匂いを感じないように神経を研ぎ澄ませていたせいで、身体が疲弊していたのだ。

そんな身体にはヴェルナーに触れることがこれ以上ない薬と言っていいだろう。


これで夜まで我慢できる。

ゆっくりと身体を離し、


「続きは夜にしましょうね」


というと、いつもなら


「ばかっ!」


と怒られるところが、今日は反応が違っていた。


「ああ。明日は休みだから、時間はたっぷりだぞ」


「――っ!!!」


ヴェルナーの甘い囁きにそのまま自室に連れて行きたいほどだったが、必死で耐え抜いた私を誰か褒めて欲しい。


「あ、王子とアズールさまがどちらかに行かれるようだぞ」


「ああ、広間に行かれるのでしょう、私たちはこちらから先回りしましょう」


お二人が行かれる前についておかなくては。

私はヴェルナーを抱きかかえ、バルコニーからさっと庭に飛び降りた。


「相変わらず身体能力が素晴らしいな」


「ヴェルナーを抱きかかえているのだから当然ですよ」


そういうとヴェルナーは嬉しそうに笑った。

そして、庭から広間に入ると、


「そろそろ王子とアズールさまがお入りになる。タイミングを間違えないように!」


と指示を出した。


良かった、ヴェルナーとの再会の喜びに溺れて危うく間に合わないところだった。

ほっとした瞬間、広間の扉がゆっくりと開いた。


室内用に祝砲を鳴らし、


「おかえりなさいませ」


と声をかける。

王子の誕生日祝いのパーティーなのになぜ『おかえりなさい』という呼び声なのかと思われそうだが、これにはきちんとした理由がある。


それはアズールさまが王子に一番に誕生日おめでとうと告げたいからと知っているからだ。


それを決して邪魔することは許されない。


もしアズールさまより先にお祝いの言葉を述べてしまい、さらにそれがアズールさまに知られてしまったら……っ。


考えるだけでも恐ろしい。

アズールさまを泣かせてしまうのはもちろん辛いが、と同時に王子からのとてつもない威圧に死の恐怖を味わうのだ。

それだけは決して避けなければいけない。


それはこの国で生きていくために絶対に守らなければいけないルールの一つだ。

これ以上にもアズールさまのことに関する暗黙のルールはたっぷりと存在する。


これをこの五年の間に皆が頭の中に叩き込んだのだ。

だが、大変だとは思いつつも、それを破ろうとするものはいない。

それはきっとアズールさまの涙を見たくないからだろう。


いや、もちろん王子が怖いというのはあるだろうが……。

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