待ち侘びた再会
<sideルーディー>
「ヴェルナー、もうすぐだな」
「はい。ここでの休憩が終われば後は真っ直ぐ公爵邸に向かうだけですね。あ、先にお城にお帰りになって、陛下にご挨拶をなさいますか?」
「お前、私の答えをわかった上でそんなことを尋ねているのか?」
「ふふっ。冗談ですよ。陛下にはそのまま公爵邸に向かう旨をお伝えしておりますのでご安心を」
「お前がそんな冗談を言うとは、よほどマクシミリアンに会うのが楽しみと見えるな」
「ええ。ですが、王子ほどではございませんよ。もうずっとアズールさまのことばかりお考えでいらっしゃるでしょう?」
いつものヴェルナーならマクシミリアンの名前を出せば恥ずかしそうな素振りを見せるが、それもできないほど楽しみで仕方ないのだろう。
私とアズールと違って、大人だからこんなにも長い期間離れ離れになれば恥ずかしさよりも、早く会いたいという欲求の方が増すに決まっている。
私とアズールがヴェルナーたちのような仲になるにはまだまだ長い時間が必要だが、それはひとつひとつ乗り越えるしかない。
私が今回次期国王となるための儀式も、アズールとの幸せな未来を過ごすための試練のひとつ。
それを今回クリアしたのだ。
本当に少しずつではあるが、アズールとの未来は近づいてきている。
私はそれを壊すことなく、忠実に守っていくしかない。
「ヴェルナー、そろそろ出発できそうか?」
「そうですね。そろそろ問題ないでしょう」
「少しでも早くアズールの元に戻ってやりたい。安心させてやりたいのはもちろんだが、体調も心配なのだ」
「それではすぐに出発いたしましょう」
馬たちに休養を与え、ここから一路アズールの待つ公爵家に向かう。
アズール、もう少しの辛抱だぞ。
それから数時間、ようやく王都に入り公爵家までもうすぐまでやってきた。
「ああ、緊張するな。私がこんなにも緊張するとは驚きだな」
アズール、アズール!
早くいつもの笑顔を見せてくれ!
公爵家までの道のりがとてつもなく長く感じる。
もうこんなにも近くまできているというのに。
「ああっ!! やっとだ!!」
馬車から公爵家が見えて、胸が高鳴る。
馬車が停まるや否や、ヴェルナーが開けてくれるまで待つのももどかしくて自分から扉を開け外に飛び出した。
次期国王がこんなにも落ち着きがなくてどうする!
そう父上に叱られても仕方のない行動だが、今日だけは許してほしい。
一目散に駆け出し、公爵家の玄関扉を叩くとすぐにベンが開けてくれた。
「アズールは?」
おかえりなさいませというベンの挨拶すら耳に入らずにアズールの名前を呼ぶと、
「ルーっ!!!!!」
ずっと聞きたかった声が頭上から聞こえた。
小さな身体で私だけを見つめながら階段を必死に駆け降りてくるアズールの姿が目に飛び込んできて、私はもう言葉も発する余裕もなく、アズールの元に駆け出した。
階段を必死に駆け降りるアズールに少しでも早く辿り着けるように手を伸ばすと、アズールは階段の中腹から私に向かってぴょんと飛び込んできた。
「アズールっ!!!!!」
ああ、アズールの温もりだ。
ずっとずっと抱きしめたいと思っていたアズールの温もりだ。
甘い香りも私の匂いもちゃんとついている。
本当に本物のアズールだ。
「ルーっ!!! あいたかったーっ!!」
そう叫ぶアズールの声が涙声になっている。
その声を聞くだけでアズールがどれほど我慢してくれていたのかがわかる。
「ああ、アズールっ! 私もだ!! ずっと会いたくて仕方がなかった。もう離れないからな!」
「ルーっ! ルーっ!! ルーっ!!!」
もう絶対離さないとでも言うように小さな身体でギュッと抱きしめてくるアズールが愛おしくてたまらない。
「アズール……」
顔を近づけ、私はアズールの瞼に溜まる涙を長い舌でそっと舐めとると、
「くすぐったい」
と笑う声が聞こえる。
ああ、やはりアズールの笑い声は私を癒してくれる。
そのまま長い舌をアズールの口内に侵入させ、たっぷりと味わう。
同時にアズールにも私の唾液をたっぷりと味わせると、アズールの頬が嬉しそうに上がるのを感じた。
ひとしきり舐め合ってから舌を離すと、アズールの頬に赤みがさしているのが見えた。
階段上にいたのを見た時は少し体調が悪そうに見えたが、よかった。
少しはこのキスで戻ったようだな。
それにしてもここ数日で随分と軽くなった気がする。
それも私がいなかったせいだろうな。
今日からまたたっぷりと世話をしないとな。
だが、今だけはもう少し二人だけの時間を楽しませてくれ。
そう思いながら、アズールを連れ自室に戻ろうとした私に、
「ルーといきたいところがあるの」
とアズールの可愛い声が聞こえた。