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ふたつの心

<sideアズール>


僕はルーが大好き。

優しくて一緒にいるとすごく安心するし、隣にいると良い匂いがするし、ふさふさの顔に触れながら、もふもふのしっぽに包まれるのも大好き。


そんなルーは僕がこの世界に生まれてすぐの時からずっとそばにいてくれるんだ。

もうすぐ五歳になる僕は一人でお外に出ることもなくて、毎日ルーがお家に来てくれるのを楽しみに過ごしてる。

ルーが一緒だとお外にも遊びに行けるんだ。


今日はいつものようにルーがお家に来てくれて、ルーがお土産に持ってきてくれた果物がいっぱい乗ったケーキを食べながら、おしゃべりしていたら突然


「アズール。大事な話があるんだ」


って真剣な顔で言われた。


いつも僕とおしゃべりしている時は優しい笑顔なのに、今までに見たことがない、少し悲しげで悩んでいるようなルーの表情に僕は嫌な予感がした。


もしかしたら、ルーもお母さんたちのように僕の目の前から消えていなくなってしまうんじゃないかって。

ルーに限ってそんなことあるはずがないのに、でも……お母さんに怒鳴りつけられて拒絶されたあの恐怖を今でも忘れられない。


ルーが一体何を話すんだろうとドキドキしながら話を聞いた。


「アズール……これからの私たちのために、そしてこの国のためにやらなければいけないことがあるんだ。だから、私は一週間ほど王都を離れる。その間、アズールの元に通うことはできないが、儀式が終わったらすぐに戻ってくるから我慢してここで待っていてくれないか?」


「ルー、いなく、なっちゃうの?」


「違うんだ。一週間だけ、一週間だけここに来られないだけなんだ。私の誕生日が来る前に、必ずこの儀式を受けなければ国王になることができないんだ。アズールなら、わかってくれるだろう?」


ルーがすごく申し訳なさそうな表情をしながら、僕に一生懸命丁寧に話をしてくれる。

だから、僕だって今回のことがルーのために、そしてこの国のために大切なことだってわかってる。


でも、ルーと離れてもしこのまま会いに来てくれなくなったら?

想像しただけでも怖くなる。


どうしても離れたくなくて、僕はルーの腕にしがみついてわがままを言った。


「いやぁーーっ!! ルーと一緒がいいーーっ!! ルーと離れたくないーーっ!!」


ルーと離れ離れになると考えただけで涙がいっぱい溢れてくる。

こんなわがまま言っちゃいけない、そんなことを言っていたらルーに嫌われてしまうよって心の奥でもう一人の自分が僕を叱る。


ルーに嫌われたくない。

でも離れたくない。


「ふぇ……っ、るーは、あずーると、はなれて、ぐす……っ、さみしく、ないの?」


泣きながらルーに尋ねるとルーは苦しそうな顔で


「ごめん、アズール。ごめん」


と謝りながら僕をただひたすらに抱きしめた。


ルーが謝ることなんて本当はないのに。

僕は酷いことをしてる。

僕は一体どうしたら良いんだろう……。


その時、僕たちのいる部屋の扉を叩く音が聞こえた。


もしかして、もうルーが連れていかれちゃう?


「いやぁーっ! ルーをつれていかないで!」


「アズール、大丈夫だ。大丈夫だから」


ギュッと抱きしめられて、ふさふさもふもふのしっぽで包まれる。

こうすると僕は気持ちが落ち着くんだ。


「アズールが笑顔で行ってらっしゃいと言ってくれるまでは、私はアズールから離れて儀式に出かけたりしないよ」


「ルー……」


「だから怖がらなくていいよ」


そう言ってルーは僕をさらに強く抱きしめて密着させると、扉の外に向かって


「誰だ?」


と大きな声をあげた。


「失礼致します。爺にございます」


「爺? 中に入れ!」


じぃ?

どうしてここに?


僕もルーも驚きながら扉の方を見ていると、じぃが僕の世話役のベンと一緒に部屋の中に入ってきた。


「ベンはともかく、爺がどうしてここに?」


「はい。アズールさまがルーディーさまとお離れになることで不安になっておられるとマクシミリアンから知らせがあり、参上致した次第にございます」


「マクシミリアンが……そうか。私がアズールを不安にさせたせいだな。悪い、爺たちにも心配をかけたな」


「ちがうっ、ルーはわるくないっ! ぼくが……わがままをいったから……」


「アズール……」


そう。

わがままだってわかってるんだ。

でもルーと離れたくなくて言ってしまっただけ。


「ちゃんと、わかってる。ルーがおうさまになるために、ひつようだって……。でも、ルーにあえないのは、さみしくて、わがまま、いっちゃった……」


「アズール。私も同じ気持ちだ。アズールと片時も離れていたくない。だけど、今回だけは笑って見送ってくれないか?」


ルーの目に涙が見える。

こんなにも僕を思ってくれるルーをこれ以上、悲しませちゃいけないんだ。


「ふぇ……っ、ぼく……いって、らっしゃい、ぐすっ……する……」


「ああ、アズールっ!!」


涙を流しながら必死に笑って見せると、ルーは僕と同じように涙を流しながら僕の髪を優しく撫でてくれた。


「爺、わざわざここまで足を運ばせて悪かったな」


「いいえ。滅相もございません。アズールさまが不安を解消なさったことは喜ばしいことでございます。それに私はそのためだけにここに参ったのではございません」


「それはどういう意味なのだ?」


「アズールさま。少し、こちらに来ていただけますか? 大切なお話がございます」


そう言われて、ルーは少し心配そうな顔をしていたけれど、僕をじぃとベンの元に連れていってくれた。

そして、少し離れた場所にルーが戻ったのを確認して、じぃが僕にこっそりと話してくれたんだ。


「アズールさま。ルーディーさまがこちらを離れていらっしゃる間に、ルーディーさまのお誕生日の準備をいたしましょう。そして、ルーディーさまがお帰りになったらパーティーをするのです。きっと楽しくて、ルーディーさまと離れている時間もあっという間に感じますよ」


「ルーのパーティー?」


「しーっ、お静かに。ルーディーさまには内緒で準備するのです。きっと喜んでくださいますよ。私たちがお手伝いいたしますから、頑張りましょう」


じぃとベンが優しい笑顔を見せてくれる。

僕が寂しがっていたからこんな素敵なアイディアを考えてくれたんだ!


「うん! ぼく、やる!!」


「ええ、その調子ですよ」


「ルー、いってらっしゃい!! ぼく、おりこうさんにまってるね」


そう笑顔で言うと、ルーは目をパチクリさせながら、


「ああ。頑張ってくるよ、アズール」


と言ってくれた。

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