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どうしたらいいのだろう

〈sideルーディー〉


「やぁーっ! アズールもいくぅー!」


「アズール、良い子だからそんなことを言わずに我慢してくれ。今回だけはアズールを連れて行くわけにはいかないんだ」


「いやぁーーっ!! ルーといっしょがいいーーっ!! ルーとはなれたくないーーっ!!」


大きな目からポロポロと大粒の涙を流し続けるアズールを見ていると、ぎゅっと抱きしめて、一緒に行こうと言ってやりたくなる。

だがそうもいかない。

本当なら私だってアズールと片時だって離れたくないのだ。


それを必死に我慢しながら、アズールにダメだと言い続けるのは本当に心が痛い。


このことはもうずっと前からアズールに話さなければと思っていた。

でも、こうやって反対されるのがわかっていたし、アズールの悲しむ顔が見たくなくて、なかなか言えずにこんな直前まで来てしまった。


だが、もう出発は三日後に控えている。

アズールに何も言わずに離れるわけにはいかなくて、とうとう告げたわけだが、案の定アズールは涙をいっぱい溢しながら、私の腕にしがみついて離れようとしない。


私にはアズールのこの手を振り解いて離れるなんてできない。


ああ、どうしたものか……。




アズールが私の運命の番として、この世に生まれてきてくれてからもうすぐ五年の月日が経とうとしている。

もう五年……大きくなったなと思う人もいるだろう。


だが、私から言わせて貰えばまだ(・・)五年だ。


生まれてすぐからほぼ一日も欠かさず、アズールの成長を見守り続けてきた私は、苦しみつつも必死に獣人としての本能を制御し、アズールとの日々を過ごしてきた。


運命の番を前にして己の欲望との戦いの毎日は本当に大変だった。

なんせ、生まれた時から天使のように可愛らしかったアズールは、成長するごとにさらに輝きを増していったのだから。


私がいつもよりも少しでも遅く会いに行けば、真っ白な長い耳をピンと張って、小さな頬をぷくっと膨らませながら


「ルー、おそいよ。アズール、ずっとまってたんだから!」


と可愛らしく怒ってくる。

そしてツンと拗ねて私から顔を逸らし、丸くて小さな尻尾をフリフリと揺らす。


どうやらこれがアズールの怒っている時のポーズらしいと気づいた時には、あまりの可愛さに悶絶してしまった。

この姿を見たいがためにわざと怒らせた結果、アズールを泣かせてしまってヴォルフ公爵から注意を受けたのは一度や二度ではない。


お詫びにケーキを食べに行こうと誘えば、すぐに可愛らしい笑顔を浮かべながら私の胸に飛び込んでくる。

一緒にケーキを食べれば小さな口を開けて、私が食べさせるのを待っている。

そして、必ず唇の端についたクリームを舐めてくれと強請るのだ。


それが本当に愛らしくてしょっちゅうケーキを食べに行こうと誘いまくった結果、栄養のある食事が取れなくてアズールが体調を崩したとヴォルフ公爵と主治医から、強めの注意を受けたことももう数え切れないくらいある。


それでも私がアズールのそばから引き離されたりしないのは、運命の番だからということもあるが、私たちが唾液の交換をすでにしてしまったからだ。


アズールが一歳の誕生日を迎えた頃に、図らずも唾液の交換をしてしまったことは、すぐに爺の口から父上とヴォルフ公爵に伝えられ知るところとなった。


身体にお互いの唾液を含む体液を一緒に取り込んでしまうと、身体が定期的にそれを欲するようになる。

身体を繋げてより深い場所で取り込めば、摂取しなければいけない期間はかなり長くても大丈夫になってくるのだが、唾液程度であれば、一週間に一度は摂取しなければ身体の調子を崩してしまう。


父上とヴォルフ公爵からそう説明された時、


「そんなことが……わかりました。アズールが体調を崩さないように充分に気をつけておきます」


と努めて冷静に答えたものの、心の中では狂喜乱舞だった。


まさかあの時、アズールの舌を舐めたことでこんなにも幸せな事態が起こるとは夢にも思っていなかったが、私にとってはまさに怪我の巧妙。

アズールに痛い思いをさせたことは申し訳なかったが、そのおかげで、私はアズールと週に一度、甘い口付けを味わうことができるようになったのだ。



そんな私はもうすぐ十五歳の誕生日を迎える。

通常の成人は十八歳だが、次期国王となるものだけは十五歳で成人を迎えることになっている。


そして、成人を迎える前にこの国の次期国王として認められるための儀式に臨む必要がある。

これを達成しなければ、成人としても、そして次期国王としても認めてもらえない。


それは私が『神の御意志』であって、獣人といえども決まっていることだ。


しかし、今回そのことがアズールを泣かせることになってしまったのだ。

この儀式は王都から少し離れた神殿で行われるのだが、移動と儀式で一週間ほど王都を離れることになる。


次期国王以外のものを神殿に連れていくことができないため、アズールには留守番をしてもらわねばならないのだが、アズールは私と離れたくないと大泣きしてしまったのだ。


さて、どうしたら良いのだろうな……。


「アズール、一週間で必ず帰ってくるから今回だけは我慢してくれないか?」


「ふぇ……っ、るーは、あずーると、はなれて、ぐす……っ、さみしく、ないの?」


「ぐぅ――っ!!」


目にいっぱい涙をためて、そんなことを言われて何を返せるというんだ?


ああ……っ、このまま一緒に行こう!

そう言ってこの小さな身体を抱きしめられたらどんなにいいか……。


本当に私は一体どうしたら良いのだろう……。

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