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可愛い訪問者

<sideフィデリオ>


私としたことが、転んで捻挫をするとは……。

ルーディーさまとアズールさまの嬉しいお話を伺ってからは、体調もすっかり良くなっていたというのに、ここにきて怪我をするなんて……。


ルーディーさまからアズールさまのお話をお伺いするのを毎日の糧にしていたというのに。


それでも、城ではなく自宅で静養することに決めたのは、使用人たちの手を煩わせないようにするという理由はもちろんあったが、ルーディーさまが私を心配なさってアズールさまとお過ごしになる時間を減らしてしまうのではないかと不安になったからだ。


早く治して、ルーディーさまの元に戻らなくては!


今の私の楽しみは孫のマクシミリアンが護衛の仕事を終えて、話を聞かせてくれることだけだ。


本当にマクシミリアンがアズールさまの護衛になることができてよかった。

そのおかげで毎日、アズールさまと、そしてルーディーさまのお話を聞くことができる。


マクシミリアンがアズールさまの専属護衛としての初仕事に向かった日、早速お二人はマクシミリアンの護衛付きでお出かけになった。


あるカフェに立ち寄ったが、店内はお二人の突然の出現に騒然となりつつも、お二人はいつもの如く甘い雰囲気でお過ごしになり、アズールさまは美味しそうにフルーツを召し上がったということだった。


アズールさまが果物がお好きなら、きっと喜んでくださるだろうと南国の果物を取り寄せ、マクシミリアンに持たせた。


きっと今日のおやつの時間にでもルーディーさまと召し上がってくださることだろう。


そう思っていたのに……突然、マクシミリアンが部屋に入ってきた。


「お祖父さま。お加減はいかがですか?」


「なんだ? マクシミリアン、どうした? 今はまだ仕事中ではないのか? まさか、仕事をほっぽり出して私のところにきたのではあるまいな? お前がきてくれるのは嬉しいが、アズールさまの護衛というお仕事を投げ出してお見舞いに来てくれても私は何も嬉しくないぞ!」


「ご安心ください。お祖父さま。私はここに仕事で参りました」


「仕事だと? それはどういう意味だ?」


突然の出来事に頭がうまく働かない。


どうなっているのだろうと思っていると、マクシミリアンの背後から突然、ルーディーさまが現れた。


「意外と元気そうじゃないか、爺」


「ルーディーさま! どうしてここに?」


「驚くのはまだ早いぞ」


そう言って昔のようないたずらっ子のような表情で笑うと、膨らんだ上着からぴょんと何かが飛び出てきた。


「じぃーーっ!!」


「あ、アズールさま」


次々と予想外のことが起こってパニックになりかけているが、


あち(あし)いちゃい(いたい)、いちゃい?」


とアズールさまの心配そうなお顔を拝見すると、冷静に答えないわけにはいかない。


「いいえ、もうほとんど治っているのですよ。私の怪我のためにご心配くださったのですか?」


「あじゅーる、じぃー、いちゃい(いたい)、いちゃい、ちんぱい(しんぱい)ちちゃ(した)おみみゃい(おみまい)きちゃかっちゃの(きたかったの)


「アズールさま……。ありがとうございます。そのお気持ちだけですぐに治りそうですよ」


「よかっちゃー」


アズールさまの心からの笑顔に胸が熱くなる。


こんなに幸せな気分になれたのはいつ以来だろう。


「アズール、爺にあれを渡しても良いか?」


「やぁーっ、あじゅーる、わたちゅ(わたす)!」


「そうか、なら一緒に渡すとしよう。それでいいだろう?」


「るー、いっちょ(いっしょ)、いい」


ルーディーさまは嬉しそうに笑うと、アズールさまと一緒に私の近くまで来てくださった。


さっとマクシミリアンが箱をルーディーさまに手渡すと、


「ほら、アズール」


と促す。


アズールさまはその箱にそっと手を添えられて、


「じぃー、どうじょ(どうぞ)


と満面の笑みで声をかけてくれた。


ああ、なんと可愛らしい……。

二度目だからなんとか持ち堪えられたが、それでも鼓動が早くなる。


よそに意識を移そうと渡された箱に目をやる。

ああ、この箱は……。

そうか、ここの菓子を私が好きなことを、ルーディーさまが覚えてくださっていたのだな。


「ありがとうございます。アズールさま、ルーディーさま。そしてマクシミリアンも、お二人を案内してきてくれてありがとう」


私は幸せ者だな。

本当に早く治さなければ。


「じぃー、こりぇ(これ)たべりゅ(たべる)?」


「えっ、ああ。アズールさま、一緒に召し上がりませんか?」


「いいの?」


「もちろんでございますとも。一緒に食べていただいたら私の足もすぐに治りそうです」


「じぃー、あち、なおりゅ(なおる)! あじゅーる、たべりゅ(たべる)!」


ああ、もうどうしてこんなに可愛らしいのだろう。

ルーディーさまが番でなくてもアズールさまを好きになっていたと仰っていたのが良くわかる。

それくらい、アズールさまの仕草も声も全てが癒される。


「マクシミリアン、お茶の用意を頼む」


「はい。お祖父さま」


本当ならば、私の淹れたお茶をアズールさまに飲んでいただきたかったが、仕方がない。

早く足を治してアズールさまに飲んでいただくとしよう。


「ルーディー王子、どうぞ。アズールさまの分はどちらに置きましょうか?」


「アズールが火傷をしては大変だ。こちらに置いてくれ」


「はい。承知いたしました」


ルーディーさまはすっかり手慣れたものでいらっしゃる。


「アズール、熱いから冷ましてから飲むのだぞ」


ルーディーさまはフゥフゥと冷ましてから、カップをアズールさまの口の近くに持っていく。


「るー、あちち、ない?」


「大丈夫だよ」


ルーディーさまの言葉に安心なさったように口をつけるアズールさまだったが、ウサギ族の口にはまだ熱かったようだ。


「あちっ」


「アズールっ、悪い。大丈夫か?」


ちた(した)、あちち、ちた」


「えっ?」


驚くルーディーさまを横目にアズールさまは小さな舌を出してみせた。

確かに一箇所赤くなっているところがあると私の目が捉えたのとほぼ同じタイミングで、ルーディーさまがアズールさまをご自分の身体でお隠しになった。


どうやらアズールさまの可愛らしい舌を私たちに見せたくなかったようだ。

アズールさまの可愛さに放心していても、咄嗟のその反応はできるのだと驚きを隠せない。


さすがルーディーさまとしか言いようがないな。

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