二度目の外出
<sideルーディー>
「あじゅーる、まっくちゅの、おうち、いきちゃい」
初めての外出から数日後、いつものようにアズールの元に向かうと、会って早々そんなことを言いながら、私の胸に飛び込んできた。
ぴょんと軽く飛び込んでくるアズールを軽々と抱きしめながらも、突然の話の内容に戸惑いを隠せない。
「マクシミリアンの家に? 急にどうしたのだ? マクシミリアン、詳しく話せ」
「申し訳ございません。実は私の祖父が……」
「爺が? どうかしたのか? 今は静養中ではないのか?」
「はい。そうなのですが、先日の王子とアズールさまとのお出かけの話をしましたところ、そんなに果物がお好きならばとアズールさまに珍しい果物をたくさん贈ってくれたのです。それをお知りになって、アズールさまがお礼を言いにいきたいと……その上、お見舞いにもいきたいと仰ってくださったのです」
爺は先日、庭で転んで捻挫をし絶対安静だと言われていた。
自宅のほうが気楽だと言って戻っていたのだが、マクシミリアンは爺の様子を見に毎日会いに行っていたようだ。
その時に世間話程度に聞かせたことを爺が気を利かせてくれたということなのか。
「るー、らめ? あじゅーる、じぃーの、おみにゃい、いきちゃいの」
ふむ。
爺にはいつも世話になっていることだし、お見舞いも兼ねてアズールと遊びに行くのもいいかもしれない。
それにこんなにも可愛い顔でせがまれたらダメとは言えないな。
アズールにもまた二度目の外出をさせようと思っていたし、ちょうどいい。
爺の家なら安心だしな。
「よし、じゃあ行くとするか」
「わぁーっ! るー、らいちゅきっ!」
首に手を回しギュッと抱きつきながら、頬に唇を当ててくれる。
嬉しい時はすっかり自分からこうしてキスをしてくれるようになった。
毛だらけのもふもふの感触が好きなのだとわかっていても、それはそれで嬉しいものだ。
「マクシミリアン、すぐに出られるか?」
「はい。問題ございません」
「よし。ベン。出かけるから馬車の用意を頼む」
「承知いたしました」
専属護衛がついてからはアズールを外に連れ出しやすくなった。
やはり私以外に周りを見る目があるのはいい。
すぐに馬車が用意され、アズールと玄関に向かう。
「ちゅごい! おんましゃんらぁ」
「爺のいる家はここから少し遠いからな。そうか、アズールは馬車は初めてだな」
「おんましゃん、こわい、ない?」
「ああ。大丈夫だ。アズールを乗せられるとわかって喜んでいるようだぞ」
アズールを抱っこしながら馬車に乗り込むと、嬉しそうにはしゃぎ出した。
「わぁーっ、ちゃかい、ちゃかい」
「そうだな。いつもより随分と高いから、外の景色も楽しいぞ」
アズールを乗せているからか、馬車はゆっくりゆっくり動き出した。
アズールは私の膝の上でぴょんぴょんと飛び跳ねながら、窓の外を見つめる。
この前歩いた場所でも馬車からの風景だとだいぶ印象が変わるものだ。
アズールは目を輝かせながら外の景色を楽しんでいるように見えた。
「るー、おみにゃい、おみあげ、ちゅりゅ」
「おみあげ? ああ、お土産か。そうか、そうだな。爺に会いに行くのに手ぶらはダメだな。アズールは本当に賢いな」
爺へのお土産か……。
何がいいかな。
そういえば、爺は顔に似合わず甘いものが大好きだったな。
アズールも食べられるものを持っていけば、喜ぶだろう。
私は馬車についている小窓を開け、御者席にいるマクシミリアンに店の前で止まるように指示を出した。
あの店の名を告げておけば、マクシミリアンもその意図に気づくだろう。
そう思った通り、マクシミリアンは店の前に着くとすぐに店主に声をかけにいき、馬車の扉を開けてくれた。
「店内は大丈夫か?」
「はっ。問題ございません」
その声に安心しながら、アズールを連れて馬車を降りる。
アズールは先日のことを覚えていたのか、私の上着の中に隠れたままだ。
長い耳だけがピクピクと動いているのが上着から見えている。
ふふっ。
怖がっているアズールには悪いが、本当に可愛らしいな。
爺の好きな菓子が売っている店は、先日行った流行りの店のような表立った華やかさはないが、この王都で長く続いている店だけあって味には定評がある。
きっとアズールも気に入ることだろう。
中に入ると、ほんのり甘い香りが漂っている。
それに気づいたのか、アズールが上着から顔を出し、鼻をヒクヒクさせている。
ああ、もうその仕草の一つ一つが可愛すぎるんだ。
店主はあまりにも可愛いアズールに近づけない様子だったが、そのほうがアズールもゆっくり選べるだろう。
マクシミリアンに合図を送ると、すぐに店主に近づき小声で指示を与えているのが見えた。
やはりマクシミリアンがいると、安心できる。
「アズール、どれがいい?」
「るー、どりぇも、おいちちょー」
「そうだな。これは以前に食べたことがあるが、美味しかったぞ」
「ちょれにちゅる」
「いいのか? 別のものも買うか?」
「じぃー、ちゅきなの、どりぇ?」
「そうだな、爺はこれかな」
「ちょれにちゅる」
「じゃあ、そうしよう」
私の言うこと全てにそれにすると返してくれるアズールが可愛いな。
箱に詰めてもらい、受け取るときにアズールが店主に
「あいあと」
と笑顔を向けると、やはりというか当然というべきか、その場に崩れ落ちた。
アズールの笑顔はどうしても堪えることができないようだ。