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私へのご褒美

<sideルーディー>


父上がホフマン侯爵を外に連れ出させると、大広間中が騒ついたのは仕方がないだろう。

なんと言っても前代未聞の事態だ。


どう収拾しようかと考えていると、また


「ふぇぇーーん」


とアズールの声が響いた。


せっかく寝ついたばかりなのに、招待客たちの騒めきに目が覚めてしまったようだ。


こういう時は何か美味しいデザートを食べさせてやるのが一番だ。


「父上、せっかくの祝いにアズールを泣かせてばかりでは可哀想です。一旦挨拶は止めて、食事を始めませんか?」


「そうだな。皆も少し休憩させたほうがいいだろう。ヴォルフ公爵、頼む」


「はっ」


この会の主催者である、ヴォルフ公爵が声をかけ、ようやく祝いの会が始まった。


音楽隊の心地よい演奏を聞きながら皆で用意された食事をとり、美味しそうに食事をしている姿にアズールも興味が出てきたようでモゾモゾとブランケットから耳だけを出し、ピクピクと動かしながら様子を窺っているようだ。


「アズール、もう大丈夫だぞ」


「るー、こわいない?」


「ああ。私がついているから大丈夫だ」


「るー、あじゅーる、おにゃか(おなか)ちゅいちゃの(すいたの)


「そうか、悪かった。何が食べたい?」


「あじゅーる、にんにん、たべりゅー(たべるー)


アズールはかなりいろんなものを食べられるようになったが、今でも一番の好物は人参らしい。

特に私が食べさせてあげてから余計に好物になったというのだから、たまらなく嬉しい。

舌足らずでどうしても人参がにんにんになるのだが、これはいつまでもそのままでいて欲しいと思いくらい、可愛い。


「そうか、確か美味しそうなにんじん料理があったはずだぞ。アズールの好きな果物やケーキもあったから、取りに行くか?」


「いくーっ!!」


一気に元気を取り戻したアズールを連れて立ち上がると、すぐに爺が近づいてきた。


「お食事を取りに行かれるのですか?」


「ああ。アズールの欲しいものがあるようだ」


「お供いたします」


「爺、ありがとう。アズール、爺が一緒に取りに行ってくれるぞ」


「じぃー、いっちょ、いく?」


「はい。お好きなものをおっしゃっていただければ、私がお取りいたします」


「ふふっ。じぃー、あいあと(ありがと)


「いいえ。アズールさまのためなら、爺はなんでもいたしますぞ」


爺は私が幼い頃からずっとそばで世話をしてくれていたが、こんなにも甘く優しい表情を向けられた記憶がないのだが……。

いや、優しかったのだが、表情が違うというか……なんだろう。

なんというか、別人を見ているようだ。


まぁ、それほどまでにアズールが可愛いのだろうな。



我々が食事をとりにいくと、さっと騎士たちが料理から招待客を離してくれた。

これでのんびりと料理が取れるが、招待客たちからは何も不満などは一切聞こえてこない。


それもそのはず。

アズールを近くで見られるだけで、みな一様に嬉しそうにしているのだから。


まぁ、私の姿に怯えている者もいるだろうがな。


アズールは周りの様子など一切気にする様子もなく、視線は料理に釘付けのようだ。


「じぃー、にんにん、たべりゅー」


「はい。お取りしますね」


「るー、こりぇ(これ)、なにぃ?」


「これは桃だぞ。甘くて美味しい果物だ。きっとアズールは気にいると思うぞ」


「あじゅーる、ももー、たべりゅー」


「はい。お取りしますね」


アズールの食べたいというものを爺が次々に皿に乗せていくが、たくさんになっても問題ない。

決して残しはしないからな、私が。


「アズール、また後で取りにこよう」


「あーい」


可愛らしい返事を聞きながら、席に戻ると、料理をとってきたクレイが私たちの席の前で待っていた。


「王子さま。僕もアズールと一緒にここで食事をしても構いませんか?」


「ああ。構わない。爺、クレイの分のテーブルと椅子を頼む」


爺はすぐに周りの者に声をかけ、すぐに用意させた。


「じゃあ、食べようか。アズール、人参から食べるか?」


「にんにん、たべりゅー」


当然のように口を開けて待っているアズールが可愛い。

小さな口をもぐもぐさせながら、人参を食べ進める姿は見ているだけで癒される。


「王子さま。今日で王子さまは正式にアズールの婚約者となられたのですよね?」


「ああ、そうだな」


「でしたら、今日から義兄上(あにうえ)とお呼びしてもよろしいでしょうか? それともそれは不敬に当たりますか?」


「いや、構わない。我々は義兄弟になるのだからな。クレイの好きなように呼んでくれていいぞ」


「ありがとうございます、義兄上。ところで……義兄上。アズールの食べている食事……すごく美味しそうですよね?」


「そうだな。我々の食事では見ないものばかりだが、アズールが美味しそうに食べているのを見ると思わず食べてみたいと思ってしまうな」


そういうとクレイは嬉しそうに笑って、突然アズールに話しかけた。


「アズール、義兄上がアズールの人参を食べたいと仰っているぞ。食べさせてあげるといい」


「るー、にんにん、どうじょ(どうぞ)、あーん」


アズールはクレイの言葉に満面の笑みを浮かべ、食べかけの人参を手で千切り、人参の汁に塗れた手であーんと差し出してきた。


その信じられない光景に驚きながら、あーんと口を開けるとアズールの指が私の口に入ってきた。

それを逃さないように舌で包み込み、人参と一緒にアズールの手もたっぷりと味わった。


ああ、なんと美味しいのだろう。


最高だ!!!


「アズール、とっても美味しいよ。もっと食べさせて欲しいくらいだ」


そういうと、アズールは嬉しかったのか、何度も何度も繰り返した。


その度に私の口内にはアズールの指が何度も入ってくる。

もうこれは何かのご褒美としか考えられない。


せっかくの機会に私がたっぷりとアズールのくれる人参も、そして指も堪能しまくって、あっという間に皿の上の人参料理は全て無くなってしまっていた。


「るー、おいちかっちゃー(おいしかったー)?」


「ああ、最高に美味しかったよ! アズール、ありがとう!!」


そう言っていると、クレイは愕然とした表情で私をみていた。

クレイがルーディーを義兄上と呼んでいますが、男同士の場合は、たとえ弟の伴侶であっても、年齢で兄弟を決めるのがヴンダーシューン王国では主流となっているため、クレイより年上のルーディーは、義兄と表記しています。

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