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アズールに似合う服

<sideルーディー>


「マティアス、ここの裾の部分はもっとアズールに合うように可愛らしくしたいんだが……」


「それではこちらの生地をお使いになってはいかがでしょう? これなら、軽くてアズールさまでも着やすいかと存じます」


「いや、それではシンプルすぎないか? もっと装飾品をつけて飾り立てた方がアズールの美しさが際立つと思うのだが……」


「は、はぁ……。ですがそれでは重たくて歩くのが難しいと存じます」


「私がずっと抱いていれば良いのだから、アズールが歩くことはないだろう?」


「あの、ですが……重い服はお召しになるだけでもかなりの負担になります。歩かなければ問題ないというものではございません」


「そういうものか?」


「王子に測ってきていただいたアズールさまのサイズを想像するに、かなりお小さいお方でございますので、ここは何よりも軽く着やすいことをお考えになった方が宜しいかと存じます」


マティアスの言いたいこともわかるが、アズールはなんと言っても私の唯一の伴侶となる運命の番。

そんなアズールにそんなシンプルな衣装を着させては、王家の威信にも関わるのではないか?

この世にただ一人のウサギ族でもあるアズールを、この世界中の誰にも負けない衣装で飾り立てねばヴォルフ公爵にも示しがつかない。


だが、マティアスはなかなか首を縦には振ってくれない。


私の思うように作ってくれればそれで良いというのに……。


しかし、父上は必ずマティアスの意見を聞いてマティアスが納得したものを作るようにと言っていた。

だから、いくら私が我を通そうとしても無駄なのだ。


なんとかしてマティアスを納得させるにはどうしたら良いだろう……。


ここ数日、この衣装の打ち合わせでアズールにも会いに行けていない。

今日こそはアズールに会いに行かないと、


「うーっ! きりゃい(嫌い)っ!!」


なんて言われたら、もう立ち直れなくなってしまう。


だが、なんと言ったらマティアスは私のいう通りに衣装を作ってくれるのだろう……。


「少し休憩にしよう」


そう言って、私は少し頭を冷やすために爺の元に向かった。


「爺、今いいか?」


「はい。少しお疲れのご様子ですね。紅茶でもお淹れいたしましょう」


「ああ、頼む」


手際よく淹れてくれた紅茶からはなんとも落ち着く香りが漂ってくる。


「ああ、いい香りだな」


「ダージリンティーです。心を落ち着かせてリラックスさせてくれますよ」


いつだって爺は私の心の内を見抜いて、こうやって紅茶を飲ませてくれる。

この空間が私を和ませてくれるんだ。


あっという間に飲み干すと、


「おかわりをお持ちしましょうか?」


と声をかけてくれる。


「いや、だいぶ落ち着いたから大丈夫だ。それよりも爺……相談に乗って欲しいんだ」


「はい。私でよければお話をお伺いいたしますよ」


「実はアズールのお披露目会の衣装のことなのだが、マティアスとどうしても意見が合わなくてどうしたらいいかほとほと困っているのだ」


「ルーディーさまはどんな御衣装をお望みなのでございますか?」


「アズールは私の上着を掴みながら、お揃いがいいと言ってくれたのだ。だから、アズールの願い通りにこの私の衣装とよく似たものをアズールに合うように仕立てを頼むつもりなのだ」


「詳しくはどんな御衣装なのですか?」


「王家の正装であるあの上着とズボンをアズールのサイズに仕立てる。だがそれではアズールには堅苦しすぎるから、裾や袖、襟元をたくさんのフリルで飾り立てて、全体に宝石などを散りばめて光り輝くようにしたいのだ。それくらいしないとアズールの美しさに服が負けてしまうだろう? 公爵夫人もアズールを可愛らしくするようにと、それだけを注文されたのだからそれは守らないとな。それなのに、マティアスは私の意見に反論するばかりでなかなか首を縦に振ってくれないのだ。爺もおかしいと思うだろう?」


私はそう自信たっぷりに言い切った。

てっきり爺は諸手を挙げて私の意見に賛成してくれると思ったのに、私をじっと見つめたまま何も反応がない。


「爺? 聞いているのか?」


「ルーディーさま。それは正しゅうございます」


「やっぱりそうだろう! だったら、爺からもマティアスに――」

「そうではございません。マティアス殿が難色を示されたのが正しいと申しているのでございます」


「爺、それはどういうことだ?」


「ルーディーさま。よくお聞きください。アズールさまに必要なのは飾り立てた御衣装ではございません」


「なぜだ? アズールはこの世にただ一人の私の大切な伴侶なのだぞ?」


「だからでございます。御衣装をどれほど飾り立てても、アズールさまのお美しさには敵いませぬ。アズールさま自身が宝石よりも美しいのですから。アズールさまのお美しさを引き立たせるには、宝石など不要なのですよ。重くて邪魔にしかならない宝石まみれの服を身につけるより、色柔らかなお色と、着心地と触り心地の良い生地で御衣装をお作りになった方がアズールさまもお喜びになります。ルーディーさまが高価な御衣装をアズールさまにお仕立てになりたいお気持ちはよく分かりますが、アズールさま自身が宝石のように光り輝いていらっしゃるのですから、どんなに高価な宝石を並べても負けてしまうのもお分かりでしょう?」


「ーーっ!!」


私は……アズールの何をわかっていたのだろう。

高価な衣装を仕立てれば、喜んでくれると思っていた。

だが、爺の言う通りだ。

アズール自身が誰よりも美しいのに、宝石なんかで太刀打ちできるわけがない。


さっきマティアスが提案してくれたあのシンプルな生地ならば、アズールの美しさを引き立てるにはもってこいだ。

やはりマティアスの言うことが正しかったのだ。


私は……それに気づかずに愚かなことを……。


「爺、やはり爺に相談してよかった。もう一度しっかりとマティアスと話し合ってこよう。宝石などで誤魔化さず、アズールのためだけを考えて仕立てるとしよう」


「ルーディーさまならご理解いただけると思っておりました。素晴らしい御衣装が完成するように願っております」


「ああ、頑張るよ」


私は急いでマティアスの元に戻り、今までの話を全て白紙に戻した。


「悪い。マティアス、もう一度生地やデザインについて相談に乗ってほしい」


そういうと、マティアスは優しい笑顔を見せてくれた。


それから数ヶ月、マティアスと試行錯誤を繰り返し、無事にアズールのお披露目会の衣装が完成した。

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