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王子のお泊まり

<sideヴィルヘルム(ヴォルフ公爵)>


「旦那さま。アリーシャさまからの御言伝でございます。本日、ルーディー王子がお屋敷にお泊まりになるそうでございます」


「なに? 王子が? 我が家にお泊まりに? どういうことだ?」


「すぐに旦那さまにお伝えするようにとお急ぎのご様子でしたので、まだ私も詳しいお話は伺っておりませんが、なんでもアズールさまの願いを叶えるためだと仰っておりました」


「アズールの願いとな? よくわからんな。もういい、直接アリーシャに聞きにいくぞ」


王子がアズールの運命の番だとわかって、日中はアズールと過ごすのを認めているが、流石にアズールはまだ一歳にも満たない赤子。

それに対して王子は思春期真っ只中の、しかも獣人。

流石に夜は、獣人としての本能が理性を超えてしまうのではないかという不安もあった。


だからこそ、アズールと過ごさせるのは日中だけにしているというのに、なぜ今日、王子が泊まるということになったのだ?


アリーシャもそのことは十分承知の上のはずなのに。


不思議に思いながら、私は急いでアリーシャのいる部屋に向かった。



「アリーシャ! ベンに聞いたが王子が泊まるというのはどういうことなのだ?」


「あなた、落ち着いてください。紅茶でも飲みながらお話しいたしましょう。ベン、紅茶をお願い」


「はい。奥さま。ただいまお持ちいたします」


動揺しまくっている私を他所に、落ち着き払ったアリーシャをみているとなんだか少しずつ冷静になってくる。


とはいえ、なにもわからない状態なのは変わっていない。


ベンが出してくれた紅茶を一口飲んで、アリーシャにもう一度尋ねた。


「それで一体どういうことなのだ?」


「アズールが自分から王子と一緒に眠りたいとおねだりしたのですよ」


「アズールが、おねだり……? まさか」


「本当なのですよ。採寸を頑張って受けたアズールに、王子がご褒美になんでも願いを叶えてあげると言ったら、一緒に眠りたいとアズールが言ったのです。王子が約束を違えるわけには参りませんでしょう? ですから、今日お泊まりになるようにと私が王子にお伝えしたのです。もうすでにお城には早馬を送りましたので、本日は王子をこちらでお泊めすることが正式に決まっております」


「アズールが……そんなことを……」


「ふふっ。信じがたいお気持ちはわかりますが、それがアズールの願いなのです。アズールが賢い子だということはあなたもお分かりでしょう? あなたがご心配になるのはわかりますが、王子も運命の番を傷つけるようなことはなさいませんよ。いつもアズールを大切にしてくれているじゃありませんか」


「確かにそうだが……夜の獣人は本能のままに動くとも聞く」


「獣人だからといって全員が全員同じとは限らないでしょう? 皆を同じにみてはそれは流石に王子に失礼ではございませんか?」


アリーシャの言葉が心に深く突き刺さる。


「その通りだな、アリーシャ。将来は私たちの義息子となる王子をそんな目で見るのは失礼だな」


「あなたならわかってくださると思いました」


「それではせっかくの夜だ。ベン、急で悪いが、すぐにご馳走を用意するようにシェフたちに伝えてくれ」


「承知いたしました」


心配事は多々あれど、私たちはアズールの望むことをしてあげるだけだ。

アズールが幸せなら、それでいい。


<sideルーディー>


思いがけず、今日は公爵邸に泊まることになってしまった。


流石にヴォルフ公爵から反対の声が上がるかと思ったが、どうやら了承してくれたようだ。


それほど信用をしてくれているということなのだろう。

アズールと公爵たちからの信頼を失わないためにも、今日はいつも以上に律して臨むとしよう。

今夜はこれからの未来がかかっている。


ひたすらに我慢し続けるしかない。



「王子、お食事の支度ができました。アズールさまもご一緒にダイニングルームにご案内いたします」


この家の執事であるベンに案内され、ダイニングルームに行くと、もうすでに公爵たちは席に着いていた。


「王子、こちらへどうぞ。アズールは隣に席を用意しておりますので」


公爵はそう言ってくれたが、アズールをおろそうとしても私の腕から離れようとしない。


「ヴォルフ公爵、悪いが私がアズールを抱いたままで食事をするとしよう」


「はい。そのほうがアズールも喜びそうですね」


ヴォルフ公爵が笑いかけると、


「だぁっ! だぁっ!」


とアズールが可愛らしい声をあげる。


「アズールが喜んでいるね」


この前まで敵意をむき出しだったとは思えないほど優しい声で、アズールを抱く私を見つめるクレイの姿に驚きを隠せないが、きっとこれが本来のクレイの姿なのだろう。


「それでは食事を始めましょうか」


ヴォルフ公爵の言葉に料理が一斉に並べられた。


さすが狼族の食事だけあって、量も半端じゃないな。

アズールは流石にまだ肉は食べられないだろうと思っていると、アズールの前にもコトリと皿が置かれた。


人参やジャガイモなどの野菜に、果物が乗っている。


「これがアズールの食事なのですか?」


公爵夫人に尋ねると、


「今、食事の練習の真っ只中なのですよ。これを食べられるようになったら、少しずつ種類を増やして、お披露目会の頃には大人と同じものが食べられるようになるのですが、アズールはウサギ族ですから、食べられるようになってもそこまで量は変わらないと思いますよ」


と教えてくれた。


そうなのか……。

やはり身体が小さいだけの理由があるのだな。


「うーっ、あーん」


アズールの皿を見入っていると、アズールが可愛らしく口を開けてくる。


「どうしたのだ?」


「あーん」


「ふふっ。アズールは王子に食べさせて欲しいそうです」


「――っ!! そ、そうか」


アズールのおねだりが嬉しくて、フォークで人参を突き刺すと柔らかく煮ているのがわかる。

スーッと通った人参をアズールの口の前に持っていくと、嬉しそうに食べてくれた。


その可愛らしいことといったら、言葉にできないくらいだ。


ああ、こんな幸せがこの世にあったのだな。

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