二人の約束
<sideルーディー>
元々賢い子だとは思っていたが、座ったりはいはいができるようになってからは、さらに賢さに磨きがかかった気がする。
言葉こそまだまだ覚束ず、私のこともまだ『うー』としか言えないが、私や公爵たちが話をしているのを耳をヒクヒクさせながらしっかりと聞いている節がある。
問い掛ければ返事をしてくれるし、ほしいものがあれば指でさし示したり、私を呼びかけたりする。
他の同じ月齢の赤子たちを目の当たりにしたことがないから、アズールが凄いのか、それともこれが普通なのかもわからないが、私はただただ感心するだけだ。
話はできなくても、私の気持ちがアズールに伝わっていると思うだけで、アズールにどうやって話しかければいいかも考えやすい。
アズールと意思疎通ができるだけで私は幸せなのだ。
「アズール。お前は私の運命だ。だから、こんなにも気持ちが通じ合うのだろうな」
そういうと、少し不安げな目をしていたアズールは急に嬉しそうな表情に変わった。
「きゅうっ!」
「おっとっとっ」
囲いを握っていた手を離して、私の方に身を翻す。
もちろんアズールを落としたりはしないが、突然のことに思わず声が出た。
「うーっ!」
小さな手で一生懸命抱きつきながら、私の名前を呼んでくれるのが可愛くてたまらない。
「アズール! ああ、大好きだよ。アズールも私のことが好きだろう?」
「だぁっ! だぁっ!」
「早く大きくなったらいいな。アズールが十八になったらすぐに私と結婚するのだぞ」
「う?」
「まだわからないか。だが、いいんだ。十八になったら私の夫となると覚えていてくれたらな。まずは一歳のお披露目だな。一歳のお披露目が終わったら、屋敷の外に出られるようになるからな。そうしたら、二人で出かけよう。その時にアズールが歩けたとしても私が抱っこして連れて行くからな。それだけは絶対に忘れてはいけないぞ。嫌がってももう約束だぞ」
そういうと、アズールは嬉しそうに小さな手足をばたつかせて喜んでいた。
ああ、やっぱりアズールは私の言葉を理解してくれているようだ。
きっと早く外に出て見たいのだろうな。
外に二人で出かけようというと、途端にはしゃぎ出す。
外に行きたいのか、私と二人で出かけたいのかわからないが、とりあえずは後者の方だと考えていようか。
抱っこして、外を歩ける日が待ち遠しくて仕方がない。
<sideアズール>
もしかしたら、僕が何かおかしいってばれちゃうのかと思ったけど、ルーは僕の目をじっと見つめながら
「アズール。お前は私の運命だ。だから、こんなにも気持ちが通じ合うのだろうな」
と言ってくれた。
ああ……なんだ。
バレたんじゃなかったみたい。
よかった……。
嬉しすぎてホッとして、ルーに抱きついたら驚きながらもギュッと抱きしめてくれた。
考えてみれば、ルーと一緒にいる時に痛い思いをしたことが一度もない。
以前の僕はずっとベッドの上であまり動くこともなかったから、たまにするリハビリで身体を動かそうとすると筋肉がないからすぐにフラフラとして頭や手を軽くベッドに当てちゃう時もあった。
だけど、ルーと一緒にいる時はずっとルーが守ってくれるから何かにぶつかっちゃうなんてことも何もない。
もちろん、お父さまとお母さまと一緒にいる時も痛い思いをしたことはないけど、なんてったってルーはまだ十歳!
子どもなのに、僕を面倒見てくれるんだもん!
本当にすごいよね。
一応僕も中身は以前の僕と同じ十八歳のつもりでいるけれど、絶対にルーの方が大人な気がするのは気のせいじゃないよね?
「早く大きくなったらいいな」
そう言ってくれたルーの言葉には共感しかない。
人生をやり直せるのは嬉しいけれど、流石におしゃべりしたり、自分で歩いたりできる年齢になるまでが長いもんね。
お母さまやお父さま、そしてルーにいつでも抱っこしてもらえるのは今の方が良さそうだけど……。
やっぱり大きくなったら僕を抱っこしてくれることは少ないだろうな。
抱っこだけは今のままで、早く大きくなれたらいいのに……なんてそんな夢みたいなことまで考えてしまう。
そんな夢のような話を考えている最中に、ルーが何か話をしていたけどごめんなさい……。
話、聞いてませんでした。
ちゃんとじっくり聞くからもう一度お願いっ!!
そう念を送ると、
「一歳のお披露目が終わったら、屋敷の外に出られるようになるからな。そうしたら、二人で出かけよう。その時にアズールが歩けたとしても私が抱っこして連れて行くからな。嫌がってももう約束だぞ」
と思っても見ない言葉が飛び込んできた。
一歳になって、僕が歩けていてもルーが抱っこして、僕を外に連れて行ってくれるって?
そんなの嫌なわけない!!
ルーが抱っこして外に連れて行ってくれるなんて……僕にとってはご褒美だよ。
あーあ、早く一歳にならないかな。
それにしてもお披露目会って……何するんだろう?