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大事な話を

<sideアリーシャ>


『あお』の存在は私にも驚きだったけれど、神さまに選ばれたアズールならどんなことでも起こりうること。アズールにもう一つの魂があったとしても、私は今まで通りにアズールを愛し続けるだけだわ。


「奥さま。ルーディー王太子殿下よりお手紙が参りました」


先ほどお城に戻ったはずの王子からわざわざ早馬で手紙が届くなんて何事かしら。


そう思いながらも手紙を開けると、すでに国王陛下とフィデリオ殿、そしてマクシミリアンに『あお』の存在を話し、そしてアズールがとんでもない勘違いをしていたことをお話になったみたい。もちろん、信じない人は誰もいなかったようで安心した。それどころか、アズールがこれから勘違いなどしないように今まで以上にアズールを守ってくださることになったのだという。本当にありがたいことだわ。


だから、すぐにでも我が家にお越しになってヴィルとクレイにも同じ話をなさりたいみたい。クレイが今視察で出かけているから、その間も待たせてもらいたいとあった。しかも、くれぐれもクレイには先に話さないで欲しいとも書いてあった。


それほどまでにアズールのことを早く共有しておきたいのだろう。死んでしまうかもと勘違いして、自ら絶食し、命を落としてしまうようなアズールだからこそ、心配でたまらないのね。王子がそれほどアズールを深く思い遣ってくださることが嬉しくなる。


「ベン。もうすぐ王子がいらっしゃるから、お越しになったらすぐに応接室にご案内して頂戴。私は今からヴィルのところに行ってくるわ」


「承知しました」


頭をさげ出ていくベンを見送りながら、私はヴィルのいる執務室に向かった。


「あなた、今いいかしら?」


「ああ、ちょうど一息つこうと思ったところだ」


「そう、ならよかったわ。今、王子からお手紙が届いて、すぐにお越しになるそうなの」


「えっ? そうなのか? ならアズールのあの話をしておいた方がいいな」


「ええ。でもその前に王子の方から大事なお話があるから、そのお話は後にしていただきたいの」


そういうと、ヴィルは一気に不安げな表情になった。


「王子からの大事なお話とは一体なんだ?」


「それは王子に直接伺った方がいいわ。クレイも一緒にと仰っているから、少しお待たせすることになるわね」


「クレイも一緒に? まさか。アズールを城に連れて行きたいとおっしゃるのではないだろうな?」


「それはどうかしら?」


そんなこと、アズールを大切に思っていらっしゃる王子がいうはずもないのだけど、少し意地悪を言ってやると不安な表情がさらに増した。


ヴィルったら本当にアズールのことになると弱いのだから。でも少し驚かせてみるのも楽しいかしら。

結局私は何も告げぬままに執務室を出た。


<sideクレイ>


「ただいま帰りました」


「クレイさま。おかえりなさいませ。お疲れでございましょう」


「ベン、アズールはどうした? まだ眠る時間には早いだろう?」


いつもなら、私が帰ってきた時にはすぐに飛んできて可愛い笑顔でおかえりなさいと言ってくれるのに。それを楽しみに務めを早く終わらせて来たというのに。


「アズールさまはただいまお部屋でお過ごしでございます」


「どこか体調でも悪いのか?」


「それが――」

「あら、クレイの声がすると思ったら。おかえりなさい。早かったのね」


ベンにアズールのことを尋ねたタイミングで母上が現れた。


「母上、ただいま帰りました。それで、アズールのことですが何かあったのですか?」


「ちょうどよかったわ。あなたにも話さなくてはいけないことがあるの。アズールにとって大事なことよ」


「まさか、アズールの身に何か?」


可愛らしいアズールの魅力に痺れを切らしたあの(・・)王子に、襲われでもしたのだろうか。いやいや、そうだとしたら母上がこんなに落ち着いていられるわけがない。それなら、一体何があったというのだろう。


「そんな心配はいらないわ。アズールはすごく元気にしているから安心して頂戴。もうすぐルーディー王子がいらっしゃるから、お父さまと一緒にあなたにも一緒に話を聞いてもらうわ」


「王子が私に話を? しかも父上と一緒に、ですか?」


「ええ。早い方がいいだろうと仰って……元々お父さまに話をしに来られる予定だったの。クレイにも聞いて欲しいと仰っていたから、クレイが帰ってくるまでお待ちになることになっていたのよ。だから、クレイが早く帰って来てくれてちょうどよかったわ」


「それは一体何の話なのです?」


「それは王子から伺った方がいいわ」


「母上はもうご存知なのですか?」


「ええ。私はアズールから話を聞いたの」


「アズールから?」


ますます話が読めないな。気になるが、母上が王子から伺った方が良いというなら、ここでどれだけ尋ねても教えてはくれないだろう。もうすぐ王子もいらっしゃるというし、アズールに挨拶して待っているとしようか。


「クレイ、悪いけれど話を聞くまではアズールの部屋に行ってはダメよ」


「えっ? どうしてなのですか?」


「アズールがぽろっと話してしまうといけないから。王子に念を押されているの。話が終わるまではアズールと会わさないで欲しいって」


数日ぶりの兄弟の逢瀬を邪魔されるのは許し難いが、どう反論しても会えないだろう。仕方がない。


「わかりました。それでは父上の部屋に帰宅のご挨拶と視察のご報告をしてまいります」


「クレイ、ありがとう。聞き分けが良くて助かるわ」


優しい母上の笑顔に見送られながら、すぐにでもアズールの元に行きたい気持ちを抑えて、父上のいる執務室に足を運んだ。


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