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異世界戦線【非公開】  作者: Chira
第二部 女神降臨
37/47

12:22 p.m.

土煙がようやく晴れるとサヅォヴェールはテールと相対する。サヅォヴェールが口に銜えたパイプを手に持ち替えて戦闘の姿勢を取ると、パイプは燃えて塵となる。


「私はサヅォヴェール。お嬢さん、名前は?」


「…私はテール・アデルルーフ。元首都守衛隊長です」


「敬虔なるメルゼーの信徒か。それならば、私は君に嫌われているのかな?」


テールが歯を食いしばり、鋭い眼光をサヅォヴェールに向ける。


「無論。私は貴方を許しはしません。豊かなグローヴェインの地に外患を誘致した裏切りの神など!」


「まったく、信者は主神に似るのはこの世の理か」


サヅォヴェール今まで抑えていた気配を解放する。人間の世の中に溶け込むための枷を外した彼は既に人間には到底太刀打ちすることのできない力と技量を持ち併せた存在となった。


サヅォヴェールはグローヴェイン島の古き四柱のひとり。グローヴェイン島の人間から戦いの神と呼ばれ畏敬の念を込めて敬われていた彼は、残りの三柱『愛』、『信仰』、『知恵』とは違い支配地域を持たなかった。ところが、長い戦いの中で『愛』は『信仰』に殺され、『知恵』は北より襲来した『南下神』に破れて長い眠りについてしまったために、ただ眺めているというわけにはいかなくなった。人間が不要な争いによって下手に数を減らしてしまえば自分の存在が消えてしまうからだ。


といっても、サヅォヴェールが考えていたよりは影響は少なかった。唯一荒れたのはグローヴェイン島の南方のみで、彼の力を以てすればその地を平定するのは容易いことだった。


「その力、どうやらその名は偽名ではないようですね。私も本気で行かせていただきます。ハァーーッ!」


テールも負けじと魔力を解放し、必殺の想いを込めた技を放つ。彼女には既にケルンのことなど眼中に入ってはいなかった。剣より発生した衝撃波が大地を裂き万物を吹き飛ばす。


「ケルンよ。私が注意を引いている隙に彼女にトドメを刺しなさい。出来ないとは言わせない。その顔からして何か考えがあるのだろう?」


「そうだよ。あるにはあるけど、できればアイツの行動を制限してくれないと無理かな。出来そうかい?」


「フッ、無論だ」


そう言ったサヅォヴェールの手には贅を尽くした片手剣が握られていた。それはとある人物からの贈り物。崇高な存在ながらにして毎度彼を愉しませた外れ値のような存在。


八方封殺陣(オルタゴ)


繰り出されるは一瞬にして標的を八つ裂く至高の剣技。その姿は何人にも捉えることはできず、防ぐ暇すらない。どこか紫色がかっているのはケルンへのリスペクトからだろうか。


「ヵ、ヒュー」


肺が熱い。だけど空気が凍てつく。魔力で身体が治癒されない。テールは混乱していた。サヅォヴェールと剣を交えて感じるクランハルトに敗北した時とは違う違和感。練度の差とは違う何か、もっと絶対的な乗り越えられない壁。


「魔力で身体部位が回復しないのが不思議か?無理もない。神々は互いに無尽蔵の魔力を有しているのだ。そう易々と治療させるような生ぬるい攻撃なわけないだろう?」


これは半分本当で半分ブラフだ。確かにテールの体の致命的な傷は塞がらないでいる。けれどそれは切りつけた面に言えること。欠損部位を介することなく血が巡れば魔力また身体中に巡る。魔力が巡れば身体強化により全身に痛み止めのような効果が発揮される。つまり、テールがその事実に気が付くことができるならばまだ戦闘可能なのだ。


だが今回ばかりは肺を貫かれたのが悪かった。熟練の戦士ならば身体強化を駆使すれば結果的には死ぬとしてもまだ戦闘可能ではある。しかし、それは熟練の戦士ならの話だ。テールはリソトで一度剣を握ったがそれ以降はこれまでに剣を握っていない。とどのつまり、テールはあの敗北以降ほとんど成長していないのだ。


テールは殺意を原動力にして果敢にサヅォヴェールに攻撃を仕掛ける。動きは鈍ってはいるが、護神剣(アルテーヌ)は未だ健在であり、これに当たってしまえばサヅォヴェールでも無事では済まない。


「よく考えればこれはテールが後ろにいることが分かった時点で発動するのが正解だったのかもね。敵を誘き寄せたところに一瞬で勝負をつける。そういう使い方が正しいのかも」


ここでテールはまだしもサヅォヴェールからも忘れかけられていたケルンが動き出す。ケルンは両手で長方形を作り、その中に戦いを繰り広げる二人を入れる。


うん、距離も大きさもバッチリ。あとはサヅォヴエールがそこから出てくればいいんだけど…


ケルンがそう心の中で思った瞬間、サヅォヴェールは大きく後ろに下がる。


「そこだ!」


魔力がケルンの思い通りの形を描く。それは透明で巨大な立方体。護神剣(アルテーヌ)の剣先がガラスのような薄い壁に触れるが、砕けるどころかむしろテールが大きく跳ね飛ばされる。


『……!』


テールが大きく口を開けて何かを叫ぶ。だが、その声は障壁によって阻まれてこちらまで届かない。


「どう?サヅォヴェール。理論上防御にも攻撃にも使える最強の魔法障壁。まさかこんなに上手く事が進むなんて思ってはいなかったけど、まあ上手くいく分にはいくらでも嬉しいよね」


「いかなる攻撃をも跳ね返す障壁の創造、か。彼女の手に持つ剣はかなりのものだぞ?あれを防ぎきるとは…」


「ふーん。でも僕にとっては簡単だったけどね」


ケルンが「じゃあ、これはおしまい」と言って手を叩くと立方体は縮小し、中にいるテールは圧縮されて周囲に血を撒き散らしながら潰れた。


「よし、僕はギーバルハ王国から脱出しようかな。元々戦闘要員じゃないからね。これ以上武装修道女(シスターズ)と戦っちゃうと遅かれ早かれ死んじゃう」


サヅォヴェールの視線を避けるようにケルンは肩をすくめる。まるで、何か隠し事をしているかのように自然に、けれどどこか不自然さを残した動作だった。


「どうだ、私と契約してみる気はないか?」


「え?」


予想していなかったのだろう。ケルンが間抜けな声を上げる。逸らした視線を元に戻すが、今度はサヅォヴェールが前を向いて視線を合わせようとしない。


「私はあまりにも長く生きすぎた。メルゼーは『信仰』と『愛』を上手に循環させることによって力を保っているようだが…私にはそんなつもりは殊更なかった。だが、私の最後の弟子も完全に力を継承することを拒否した。だが、君との出会いは古くなった私に希望を感じた。しかしだ、私は君に興味を持つと同時に違和感も感じたのだ」


ケルンは黙ってサヅォヴェールの言葉に耳を傾ける。いや、もうこれ以上言うなと威圧するかのような鋭い眼光で彼を睨みつけている。


それでもサヅォヴエールは口を閉じない。それは神の貫禄か、それともただ鈍感なだけなのか。


「力が、欲しいのだろう?」


「黙れ」


「私ならばそれがでk「黙れーッ!」


ケルンが細剣を喉元の前に近づける。サヅォヴェールは何も言わない。きっと、喉を動かすと細剣の先が皮膚を斬るだろう。


「黙れよ、僕の何が分かるっていうんだよ。お前なんかに、僕の、なにが…」


ケルンが膝をついて崩れ落ちる。心の内は憎悪を無力感。一度あふれた感情は蓋をしても抑えられず、慟哭となって響き続けた。

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