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異世界戦線【非公開】  作者: Chira
第二部 女神降臨
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救国の叫び〔下〕

扉を蹴破って二人、中に入ってくる。一人は男性で騎士の格好をしている。紋様からして王国近衛兵だったのだろう。ここまで来るのに何人か殺したのか、剣は血で濡れている。もう一人はフードを被った女性、おそらく国教府の者だろう。


「フェンネル・ルーシェル。貴様は女王陛下の温情により生きながらえたにも関わらず、恩を仇で返すのか。」


信じられない、といった様子で彼は言う。フェンネルはフレーヌ王国の敗北が確定した時、国民を憂いて必要以上の抵抗を行い、犠牲を出すことのないようにするためにギーバルハに有利な内容で講和した。という事実とは語弊があるように思える。


「私が想うのはフレーヌの地とそこに住まう民のことのみ。その地を管理するはずのギーバルハが女神を盲信し、人々を自己満の試練の篩にかけるのならば、私がフレーヌに住まう民を憂い、正しき道へと導くのは何もおかしい話ではない。」


やはり彼は最高の愛国家だ。ここでフェンネルを殺し、混乱をさらに広げようかと思っていたが、気が変わった。


「よく言ったじゃないか、フェンネル。私としてはここで逃げてしまっても構わなかったんだけど、君の肩を持ってあげよう」


「貴様の助けなどなくてもここから生きて逃れることぐらいはできる。」


「そんなに謙虚にならなくていいのに」


拳に力を籠め、いっきに放つ。魔力が光となり軌跡を描く。鎧ぐらいは砕けると思っていたが、修道女がどこからともなく取り出した戦斧で受け止められてしまった。


「あなたの相手は私がします。」


「非戦闘員かと思っていたけど、まさか君が武装修道女(シスターズ)だったとはね。その戦斧を見るにウェクトリーナの部下なのかな?」


シャルルは自分に向かって薙ぎ払われる斧をひらりとかわして距離を取る。修道女は大振りな武器である戦斧を片手で制御しながら、もう片方の手で拳銃の照準をシャルルに合わせて、引き金を引く。シャルルにとって予想外の攻撃のはずだった弾丸は、いとも簡単に人差し指で威力をいなし、摘ままれてしまう。


「おっとっと、まさか遠距離もいけるなんて。油断してたよ。」


「そう言う割には、弾丸を指で摘むような瞬発力を持ち合わせているのですね」


表情そのまま少女は悔しそうにそう吐き捨てる。シャルルは当然さ。といった顔持ちのまま再び距離を詰める。


「もし、大司教様自ら赴いてくださったのならば、あの時点であなたの命は無かったでしょう。」


「でも、ここに来たのは君だったから私はまだ生きてる」


「私は確かに実力では劣ります。ですが、あなたを殺すぐらいは造作もないことです…!」


少女が戦斧で地面を砕く。それによって生じた亀裂は二階の地面全面に広がり、音を立てて崩れ去る。なんとか安全な足場に乗り移れることができたが、フェンネルは無事だろうか。


擬似聖域(サンクチュアリ)『カイテルの鎖』」


どこからもなく声が響く。身を構えていると、突如、瓦礫が落下するのが止まった。よく見ると、鎖で固定されているようだ。


「さあ、あなたはもう動けません。一歩でも前に出たのならば、あなたの体を聖なる鎖が縛り上げるでしょう。」



ガリフは何事だ!?と思い辺りを見回す。するとフェドーラが戦斧を地面に突き刺しているのが目に入った。


「アイツ、こっちのことを何も考えないで勝手なことを…!」


そう思ったが、時すでに遅し。亀裂はすでに床一面に広がり、抵抗虚しくガリフは重力に従って落下していく。


「ガリフ、ここで死ね!」


落下しながらフェンネルが身を捩り、こちらに向かって槍を投擲してくる。剣で軌道を曲げたが、姿勢が崩れて背中を地面に強打する。フェンネルは地面に着地すると壁に突き刺さっている槍を魔力で引き寄せて、手元に戻す。


「ガリフ、王にギーバルハの王の剣として名を馳せた貴様ですら欲深き女神に加担するというのか?」


「…私は常に女王陛下のために行動している。その結果、今は女神に加担しているまでだ。」


「ほざけ!ギーバルハ王家は腐敗を防ぎ、女神の操り人形にならぬために世襲を止めたのではなかったのか?王は女神と人間の架け橋であり、そして女神を制御する存在ではなかったのか?女王陛下のためと言いつつ、責務を放棄しているのは女神と共謀している王、そして近衛師団ではないか!」


その通りだ。私は警戒するべき存在である女神の手を取ったのだ。だが、だがしかし…


「エリザベス陛下の姿が見られないのだ。二週間ほど前から忽然と姿を消してしまい、今でも行方がわからない…」


ガリフはそう言いながら弱々しく立ち上がる。心が折れている彼は既に脅威では無くなったはずだが、毛が逆立つ。本能はまだ警戒しているのだとフェンネルは判断し、槍を握る手に力をこめる。


「だから、禁忌である女神と手を組んだのだ。今更私に剣を納めろというのか?」


そう来たか。彼ならば大丈夫だろう、と考えていたが、少なからず女神の影響を受けてしまうのか。まったく、奴は厄介だ。ここで勝利を治めたとしても根本の解決にはならない。対処法を知っていると言っていたが、いったいコルトの若人帝はどこまで信用できるのか。


「ふむ、ここまで言って私に向かってくるとは、命知らずが。世界大戦の時にも言ったではないか。私と剣を交えるならただではおかないと。生憎、今の手持ちには槍しかないがな…!」


フェンネルはガリフに向かって槍を突き出す。常人ならば目視できず、刺されたことに気が付いてから音が聞こえてくるような速さだが、ガリフは涼しい顔のまま躱して回り込む。装甲のない首を狙うが、その一撃は腕の小手で防がれる。


「ギーバルハの英雄がその程度か、何度聞いても呆れるわ。」


「黙れ老いぼれ。それだから世界大戦では敗北を喫したのではないのか?」


ガリフは試しに挑発してみるが、フェンネルは激昂することな「フン」と鼻を鳴らす。その余裕は逆にガリフへ焦燥感を蓄積させた。


しばらく一進一退に見える攻防が続いたが、暫くするとフェンネルの一撃が全てを見切ったようにガリフの手を貫いた。ガリフは出血している右手をおさえながらフェンネルをにらむが、何も言わない。そして、何かを悟ったフェンネルは高らかに宣言する。


「ついに手札をすべて使い切ったか?それならば、死ぬがいい。ガリフ・ベスファ!」


確かにガリフは強かった。それが彼自身の努力の結果であることも事実だった。そして魔装兵となってからも鍛錬を怠らず英雄と呼ばれるに相応しい実力を維持し続けていた。だが、今回の結末も時の運が悪かったとしか言いようがないだろう。


フェンネルは笑う。名誉も外聞も気にする必要のないこの戦いを彼は本心から楽しんでいた。今は亡きフレーヌ王国の国王であった彼は、その国の中で最も神に近い存在だった。それ故この一連の騒動で神に等しい力を手に入れた。多くの者が力に溺れる中、彼は鍛錬を行い、実力をつけ、そして直感的に『女神』の存在にも気が付いた。


『ティエルモ』


フェンネルは頭の中に浮かぶ詞を唱える。そして理解する。これが神の権能を行使するための呪文なのだと。槍はガリフの体を貫いた。死体に空いた風穴は雷に打たれたかのように黒く焦げている。骸となったガリフの体が重力によって倒れる前に、フェンネルはそっと受けとめる。


「…残念だったな。己の信念を最後まで貫いた騎士にふさわしい墓を掘ってやろう」



「おや、あっちはもう終わったみたいだね。それじゃあ私も決着をつけるとするか」


「異端者であるあなたはそこから一歩でも動けば鎖があなたの体に巻き付き、その身を灼き尽くすでしょう。」


「へえ、それはそれで見てみたかったかも。だけどね、私はここに遊びに来た訳じゃないんだ。もし、また生きて会う機会があったらお願いしようかな」


シャルルは胸につけていたペンダントを引き千切り、そして握りつぶす。その動きを感知して『カイテルの鎖』はシャルルの体に巻き付いた。


「私の忠告を聞いていればその鎖に灼かれることなく、この戦斧で安らかな死を迎えられたというのに。今を生きる人々は必要以上に生に執着し、必要以上の苦しみを負ってしまっています。」


「人間を聖別するための道具の使い方としてはよく考えたと私も思うよ。だけど、これは私が『人間』だった場合のみにしか発動しないのが惜しいところかな。」


シャルルが腕を動かすと、鎖はいとも簡単に音を立てて千切れる。そしてそのまま、千切れた鎖を飲み込む。


「聖なるものを口にするなど、神に対する何たる侮辱…!」


彼女の言葉を無視して、シャルルは鎖を飲み込んだ。そして、シャルルの体は白い光に包まれる。白い光はだんだんと形を成してゆき、強い光を放ったかと思うと、そこには神のような神々しさと、戦姫がごとき衣服を身に纏ったシャルルの姿があった。


「サヅォヴエールの爺さん、少しと言いつつ神の力を全部入れたな?まったく、こっちのことを何も考えないで、少しはこっちのことも心配してくれてもよかったんじゃない?まあ、後のことは後で考えればいっか。」


「なにをぶつぶつ一人で言っているのですか。鎖の拘束から逃れたぐらいでいい気にならないでくださいよ…!」


既に矮小となった存在がこちらに向かってくる。シャルルはそんなものの存在を忘れ、力が腹の底から満たされていく高揚感に酔いしれてしまっていた。


「っと、その前に片付けないといけない問題があったね。」


現実に意識を戻し、今対処するべき問題を直視する。脳内に適当な形の剣を想像すると、手元にそれと同じものが出現した。シャルルはそれを構え、彼女に向かって突撃する。


「は?」


少女は何が起こったのか理解することなく胴体を切断され、まもなくその命は終わりを迎える。あまりの速さに衝撃波のようなものが生まれたほどだった。『疑似聖域(サンクチュアリ)』が無かったら、いまごろ辺りの建物は倒壊していただろう。


「なるほど、これは確かにサヅォヴェールの爺さんも手放したくなるわけだね。」


疑似聖域(サンクチュアリ)』が無くなると、フェンネルが男を一人背負いながらこちらをジト目で見つめている。


「やっと終わったのか。あの女子はそこまで脅威だとは思わなかったが、まさか遊んでいたとは言うまいな?」


戦いの前の態度そのまま、フェンネルはシャルルに対して疑いの目を向けるが、シャルルもその時と同じように肩をすくめる。


「いいじゃないか。2体0で私たちの勝利なんだから。次はどうする?リソトまで進撃するか?」


「いや、そこは我々の領分ではない。大口をたたいたコルト帝国の実力がどれほどなのか、楽しみにしながら待っていようではないか」

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