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異世界戦線【非公開】  作者: Chira
第二部 女神降臨
25/47

第二次大洋海戦


ーーー10月31日15:00 ラオクトーブ港


「さあ、そろそろ出撃の時間ね。フランクル、行くわよ。」


「かしこまりました。」


レシュリューは伝統ある海軍一家であるハンガーバウ家の出身である。そんなレシュリューは、女性であるにも関わらず、ハンガーバウの好戦的な血を濃く受け継いで、王立海軍初の女性指揮官となった。彼女が乗船する船の名は魔装戦艦リソト。魔力を使う兵装が多数搭載されているこの戦艦は、魔装兵(魔導兵と同義)でもある彼女のために生まれてきたかのような戦艦だった。レシュリューはリソトとそのクルーを実の家族のように思い、そしてその絆を疑っていない。


「ああ、見えるわ。ツバルキ島を南方を通過し、こちらに向かってくる大艦隊が。司令官である叔父様はお優しいのね。私の気持ちをよく理解して、魔装艦隊を殿にしてくれるなんて。この戦いが終わったら適当な贈りものを用意しましょう。」


「レシュリュー様、キャビン、パンター双方の出撃準備は完了したとのことです。」


「よろしい。王立魔装艦隊出撃しなさい!」


レシュリューの目が海色に光り、体がふわりと浮く。船体はしゃぼん玉のような膜に覆われて、リソトは波を掻き分けて進み始める。


「私の動き通りに戦艦を動かせるなんて、今でも夢のようですわ。お父様にも是非ともこの感覚を共有したいですが、魔装兵でないので難しいでしょうね」


「お嬢様、おそらくですが、そのことを御父上に話されてしまいますと、本当に前線に出てきてしまうので…」


「勿論、わかってますわ。でも、そう言いつつも船に乗り続けたいがために、昇進を頑なに拒み続けた貴方が言えることではなくて?」


レシュリューの言葉にフランクルは「私が背負える命は船一隻分が限界ですから」と言って笑う。指令室の誰しもがその言葉に笑みをこぼした。その雰囲気は殿として出撃している船内のものとは思えなかった。


ーーー16:00 ツバルキ島北西


「これよりギーバルハ海軍の哨戒海域に侵入します。ヴァルグリフ少佐率いる襲撃部隊は予定通り本艦隊より離脱し、レオンヅェルンに退避したハドール追撃のためにベルゼアス島に向けて転進しました。」


「よろしい。日が沈む前までに空母艦隊の行方が分かるといいのだが…グワイゼナールからは何の連絡もないのか?」


「はい。おそらくですが、敵艦隊からの発見を極力回避するために第一艦隊がウラエキ島沖に進出する1日までは行動を起こすつもりはないのかと」


欠陥空母と駆逐艦二隻では敵に発見されればひとたまりもない。ということか。


「アルナスには軍港機能があったはずだが、ギーバルハ海軍がリニュークから出払っていることから考えるに未国籍艦隊も展開していないのか。それなら問題は無いな。」



「闇夜に紛れてレオンヅェルンまで進出するぞ。レオンヅェルンには中波したハドールしか停泊していないとの報告だが、こちらが見つかれば後方に撤退する可能性もある。隠密のために通信も遮断しておけ」


ヴァルグリフは慎重な性格であった。彼の思想自体は大艦巨砲主義で艦隊決戦主義だが、帝国全体の勝利を重んじて、公私混同を避けることが出来る人物でもあった。


それゆえ、今作戦における自分の役割の重要さもよくわかっていたが、今回ばかりは運が悪かった。リニュークから近代化改修が終わった離島即応部隊が既にベルゼアス沖に展開していることをレオンヅェルンはまだ知らない。


ーーー18:00 ラオクトーブ港沖


「艦長、キャビンより報告です。10時の方向に巡洋艦と思われる船影を4つ発見したとの報告が入りました。」


「あら、本当?艦隊編成からして偵察部隊でしょうね。いいでしょう。本番に備えて一発お見舞いして差し上げましょう。」


自然の理から外れている鉄でできた城に風が吹く。レシュリューの瞳はいっそう透き通り、それは万物を見透かすかのよう。レシュリューが次に手で照準を水平線に合わせると、三つの砲塔の内、とてもではないが砲弾を打ち出せるとは思えない第二砲塔がそれに連動して動く。


擬似聖域(サンクチュアリ):『聖絶(アナフェマ)』」


白い光が海を二つに分断する。機械が駆動する音は聞こえるが、火薬が爆ぜた音はしない。なぜなら『聖絶(アナフェマ)』は質量兵器ではないからだ。魔力が純粋であればあるほど、光の輝きが増し、実空間を穿つ。


「大丈夫ですか、お嬢様。まさか最初から全力で攻撃するとは…くれぐれも無理だけはしないようにとあれほど言ったではないですか。」


「大丈夫ですわ、フランクル。この程度、敵に発見されることと比べたら全く問題ありませんもの」


そう言いつつ、ふらふらと千鳥足で歩くレシュリューの肩をフランクルは慌てて支え、やれやれといった様子でため息をついた。


「一度お休みになってください。その調子で居られると、体がもたないでしょうから」


ーーー19:14 ベルゼアス島北東


「ヴァルグリフ少佐、見張員から3時の方向に艦影らしきものを複数発見したとの報告が入りました。」


日が落ち、視界が段々と暗闇に包まれてきたと同時にもたらされたその報告にヴァルグリフは怪訝な顔をする。


「艦影から艦種は判別できるか?」


「大きさからして軽巡洋艦ではないかとのことです。」


そのことを聞くとヴァルグリフはチッと舌打ちをして、忌々しそうに爪を噛む。


「第7艦隊には巡洋艦はいない。それは敵艦だろう。戦闘用意、エーデグリンク・べヴァリニアにも同じ内容を伝達しろ!」


日頃の訓練通りにすぐさま攻撃の準備がなされ、砲塔が旋回し、照準が定められる。


「艦長、第二砲塔の装弾機構が故障しているとの報告が…」


「元々あそこはよく故障していたからな。仕方がない、無理のない範囲で装弾するように伝えておけ」


エーデグリンク・べヴァリニアも照準が定められたことを確認すると、号令と同時に主砲から砲弾が放たれる。砲弾は弧を描きながら敵艦隊へと向かい、駆逐艦の近くに着弾した。


このままでは夜戦になるな。敵の魚雷が怖くはあるが、ここで敵艦隊を見逃すようでは帝国軍人として名折れだ。


ーーー20:02 ベルゼアス北方


「エリーニェ艦長、敵艦がサーチライトを照射し始めました」


「いつまで経っても命中弾が出ないことにとうとう我慢の限界が来たか。だが、こんな簡単な罠にかかるとはな。待ち伏せ部隊はこの事態を察知できているだろうか?」


「砲撃による爆音が響いております。この程度に気が付かなければ海軍に入ることはできないでしょう。」


普段己の感情を表に出さないエリーニェだったが、ここまで作戦がうまくいくと流石に口角が上がっていた。島裏には駆逐艦三隻が突撃の時を今か今かと待っている。そんなことを知らない旧戦艦は、こちらがわざとギリギリ追いつくような速度で航行していることを知らずに、必死になってこちらに喰らい付いている。


敵戦艦の側面に大きな水柱が上がる。かかった!エリーニェは声をあげて笑いそうになるが、咄嗟に堪える。まだ勝ったわけではない。それに、敵の不幸を嗤うのは軍人としての威厳が損なわれてしまう。


「艦長!二番艦が減速し、急速に傾いていきます!」


「まだ勝負は決まっていないぞ!気を抜くんじゃない!」


私が怒鳴ると、若い士官候補生ははっとして顔を赤くする。私もはしゃぎたいが、ここで叱っておかなければ風紀が乱れてしまう。すまないな。


一番艦にも魚雷が命中し、サーチライトが沈黙する。電気系統が落ちたな。これでは主砲はもう撃てまい。


「艦隊、戦場海域から離脱する」


「で、ですが、戦艦も深傷を負っています。ここは追撃を行うべきでは?」


「私もそうしたい気持ちは分かるが、8インチ砲ではフーディッチ級戦艦の装甲は貫通できん。それにおそらくだが、副砲群は健在だろう。早めに奇襲部隊を下げさせなければ無駄な損害を出すことになる。」


行動にはっきりとした理由がある以上、側近である彼はもう何も言うことはない。だが、エリーニェが炎上し始めた敵艦を忌々しそうに眺めるのはやはり、『大洋海戦』の屈辱からだろうか。


ーーー11月1日4:00 ラオクトーブ港沖南方


「払暁とともに湾内に突撃して敵を殲滅するなんてシェテちゃんのお父さんは物騒だねぇ」


「…シェテもそう思う。」


第二遊撃艦隊の旗艦ロシュタルヴークの艦長室では青年が幼女に膝丸をしてもらっているという異様な光景が広がっていた。これでも彼らをよく知っている人からすると、誰かの指示に従っているだけおとなしくその時を待っているだけマシな方である。


「…オブリガス、戦闘の用意をするように第二遊撃艦隊全艦に伝えて。それと、ゴッドバルト(パパ)の艦隊にもお願い。」


「ふうん。ということはつまり、偵察部隊を行方不明にした艦隊がこちらに向かってきているということかい?」


シェテが小さくコクリと頷くと、オブリガスは不敵に笑って勢いよく飛び上がる。オブリガスがひとりで部屋を出ようとすると、それを見たシェテは急いでベッドからおりてオブリガスの裾を握った。


「…私も行く。」


「シェテ、寝てなくていいのかい?その小さい体じゃ体調を崩してしまうよ?」


「…五月蠅い、シェテ、18。オブリガス17のくせに。」


「はは、わかっているさ。それじゃあ、行こうか。情報は早ければ早いほどいいからね」


ーーー4:59 ラオクトーブ港沖南方


「シェテの予想通りだったな。あれが新造戦艦か。…ん?第二砲塔のアレはなんだ?」


「見えない…っむ、ありがと。…砲身が裂けてる?」


「シェテてもそう思うだろ?しかも、今の時代に単装砲なんて絶対新兵器だよなぁ」


オブリガスは普段からあまり勘などの直感的な判断には頼らないようにしているが、今回ばかりは直感に頼らざるをおえない。


「ハーバーヴラウヴィッツに敵の戦艦の攻撃に警戒する旨の内容を伝達しろ。何か嫌な予感がする」



「ゴッドバル提督、第二遊撃艦隊より通信です。『敵艦隊発見。敵戦艦は新兵装を搭載しているとみられ、注意されたし』とのことです。」


「私の孫が惚れた男が言うんだ、話の信憑性は高そうだが、射程外からの攻撃にはいかなる船であろうと敵ではない。諸元計算は終わっているな?全主砲、打ち方はじめ!」


コルト帝国が誇る世界最大の戦艦であるハーバーヴラウヴィッツの48センチ砲からから徹甲弾が射出され、曲線を描いて寸分の狂いもなく敵戦艦めがけて襲い掛かる。並の戦艦の防郭ならばいとも簡単に貫通し、海底直行が決定することになるだろう。


だが、今回はそんなゴッドバルの予想を裏切りることになる。必殺の意志を持って放たれた砲弾は船体に当たる直前、『何か』に遮られ、跳弾した。


「なによこれ!実験で受けた14インチ砲とは威力が比べ物にならないぐらい痛いのだけれど!?」


レルフィールが創り出した障壁が砲弾を阻み、船体には傷ひとつ付いていない。だが、魔力障壁の衝撃がレルフィールの体に直接伝わり、浮いていたこともあって体の姿勢を大きく崩す。


「おそらく対外情報局からの話にあった新型の巨大戦艦の主砲弾ではないかと。こちらのレーダーにやっと写ったところなので射程は40000ヤードはあるかと。」


フランクルの冷静な指摘を聞いたレルフィールの目は青く輝く。彼女は新たなギーバルハ、そしてレルフィール自身の敵の出現に、興奮を隠すことを既に放棄している。


「新造戦艦、帝国の切り札、それでこそ私も全力を出せるってものですわ!」


自分を包み込むように魔力が展開しているのが感覚で理解できる。船体下部にある魔力集積装置から魔力が解放され、敵艦を貫くイメージが脳内に浮かび上がってくる。私は今、一番輝いているだろう。


擬似聖域(サンクチュアリ):『聖絶(アナフェマ)』」


それは、まるで異端者に判決を下す女神の権能のよう。



シェテ、シェテよ。私は死ぬだろう。それくらい直感でわかる。だが、いまこそこの上ない機会だ。これも直感だが、帝国の誇る48センチ徹甲弾を弾いた力が既にあれに無いことも分かる。シェテよ、私の孫よ。今を生きる者達に後始末をさせるのは忍びないが、いまこそ帝国海軍の伝統ある戦いを奴らの眼に焼き付けてやれ…!


「…へえ、ギーバルハの技術力も案外侮れないんだね。」


オブリガスは素っ気なく言うが、額には汗が浮かび、拳を固く握っている。目標が自分たちの艦隊だった場合でも想像したのだろうか。


「…オブリガス、水雷部隊を前進させて。」


「へえ、それはどうしてだい?まさかたまよけn」「…しっかりして。」


オブリガスの声を遮って、弱々しく、けれどその奥には確固たる意志をもってシェテは言う。


「…シェテも怖い。だけど、きっと、あの戦艦にあれを撃つ力はもうない。だから、ここは帝国の歴史と誇りのある戦い方で海に沈める。ゴッドバルト(パパ)もそういってる。」


シェテの言葉がオブリガスの心を動かした。誇り。上手く国民を煽動するためのものだと思っていた言葉にまさか、これほどまで励まされるとは。


「わかった。第二遊撃艦隊はこれより主力部隊を葬り去った敵艦隊に対し突撃する。これは『大洋海戦』を勝利へと導いたゴッドバル少将への弔い合戦だ!我々は最後の一隻になるまで戦い続ける!」


ーーー5:48


王立魔装艦隊は窮地に立たされていた。帝国第一艦隊主力に向けて放たれた『聖絶(アナフェマ)』でレシュリューは想定以上の魔力を使用してしまった。何とか航行はできるが、14インチ四連装砲は動かせず、戦艦と戦うのは到底無理な話だった。


「お嬢様、撤退いたしましょう。西方から別働隊と思われる艦隊も確認できます。沈められてしまってはここまでですが、戻ればまだチャンスはあります。」


「私の浅はかな判断のせいで皆をこのような状況に追い詰めてしまうなど、艦長として失格ですわね。…わかりました。艦隊はこれより転進して北方より包囲を脱出し、敵の追跡を振り切ります。」


反航戦のため多少の被弾はあれど、痛手を負うことなく敵艦隊との交戦は終わった。小型艦が突撃したときはここまでかと思ったが、間一髪のところで魚雷は回避することが出来た。


帰りましょう。でも、この恨みは必ず忘れないわ。覚えておきなさい。


ーーー8:23 ウラエキ島西方


第一、第二遊撃艦隊の追撃から命からがら逃れることができ、皆の顔に安堵の表情が見え始めた頃に凶報はもたらされた。


「ほ、報告します!キャビンより一時の方向に大規模な敵艦隊を発見したとの報告です!」



おまけ:第二次大洋海戦の参加艦(主力のみ)


・コルト帝国海軍

 第一艦隊

 旗艦 ハーバーヴラウヴィッツ ゴッドバル少将(提督)

 戦艦 ダウンバーグ トルドクフス 

[ロシュタルヴーク 艦長オブリガス大佐 シェテ大尉 カトリーデ]第二遊撃艦隊(主力補助)

 巡洋戦艦 [カルベル デーニッツ中佐]第一遊撃艦隊 カルテッサ アントリアス

 重巡洋艦 [ハーデル・ロンバルト トリオヅローク ヘッシュ アブー]偵察部隊 


 第三艦隊

 旗艦 ランカラ ルール中将

 戦艦 ギーニス バルグハーディ 

 ポケット戦艦 [フーディッチ ヴァルグリフ少佐 エーデグリンク・べヴァリニア]襲撃部隊


・ギーバルハ王国海軍

 王立魔装艦隊

 旗艦 魔装戦艦リソト 指揮官レシュリュー・ハンガーバウ 艦長フランクル大佐 戦艦キャビン 

 魔装重巡洋艦 パンター


 王立第五艦隊

 旗艦 ホールドワーン 艦長デーテ大佐

 護衛空母 ベレ

 重巡 アラード ケルビン

 軽巡 エヴラー

 駆逐艦 ヘレット ダウン ゼ・ブラウン 


 離島方面即応部隊

 旗艦 ワーク エリーニェ中佐

 軽巡 トルイク シャトルフラッセ カロン 

 駆逐艦 パリアハール ドティック トブクルク オシャ カトーラ

「とてもではないが砲弾を打ち出せるとは思えない第二砲塔」はレールガンを大きくしたものを想像してもらえれば分かりやすいかと思います。



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