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異世界戦線【非公開】  作者: Chira
第二部 女神降臨
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闇で蠢く〔下〕

シャワーはタイル張りで少し不気味だったけど、今まで清潔に保とうと努力してきたことがわかる。それでも劣化の跡は隠し切れず、水が温かくなるのが遅かったり、水圧が弱かったりしたけど、許容範囲内だ。


シャワーから上がると、服は回収されていていた。その代わりに修道服が二着置かれている。隊長は着ることに抵抗があるのか一瞬嫌そうな顔をしたが、何も着ない訳にはいかないので、渋々袖を通した。


「この服結構大きいですね。袖が長すぎて腕が出せません」


「私のはかなり小さいんだが…」


隊長は恥ずかしそうに身を捩っています。元々の服装でも体のラインははっきり見えていたのに、隊長の恥ずかしいの基準はよくわかりませんね。


「お戻りになりましたか。…カリン様、サイズが合っていないようですが、もう一着ご用意いたしましょうか?」


「…その必要はない。別にこの姿を見られたとしても、問題にはならないだろう」


「…そうですか」


「死体を二度も客人に見せる訳にはにはいきませんから」と言って私たちは別室へと案内された。そこはかつて執務室のような所だったのだろう。机には紙の山が置かれていているが、タイプライターは埃をかぶってしまっている。


「散らかっていますが、どうぞこちらに。…さて、どこからお話ししたら良いのでしょう」


「対面で話しているのに、いつまでも顔を隠しているのはギーバルハの礼儀なのですか?それにあなたは私たちの名前を『何故か』知っていたようですが、こちらはまだ名前すら知りません。」


女性は唇を結ぶ。フードで隠れて見えないが、震えて涙目になっているのではないだろうか。隊長の目線が厳しい。それが私怨なのか、任務上仕方なくなのかわからないが、いくらなんでもやりすぎではないだろうか。


「私の名前はもう覚えていません。名前がなくても意思疎通は容易にできましたので。ですが、名乗るとしたら」


女性がフードと外す。額に大きな火傷の痕のようなものが、あるがそんなことよりも


「顔がフォンフィールさんそっくり?」


これで三人目?だんだん怖くなってきた。今までの二人とは違い、儚い感じだけど、それでもその顔はフォンフィールさんそのものだった。


「私はあの子とは別なのだけど…とりあえず区別するために私のことはレルフィールと呼んでちょうだい」


口調が変わる。あれが元々のものなのだろうか。隊長は満足したのか柔らかい態度に戻っていた。


「改めてだけど、フォンフィールを殺してくれて本当にありがとう。彼女はいつも自分の力に苦しんでいて、常に本当の死を渇望していたわ」


「なぜ私たちがリニュークにくることがわかっていたのですか?」


「それは私にもわからないわ。数日前から『アレクトが本当に来てくれるなんて』と喜び始めたの。何故と聞いても『私にはわかるの』としか言ってくれなくて」


あの空間でフォンフィールさんが話してくれた内容は、一見すると支離滅裂に聞こえるが、一応は筋が通っているようだった。


ある日、フォンフィールさんは女神から力を授かったそうだ。その力は自分とそっくりな別人を創り出すというもの。最初は何事もなかったが、しばらくするとフォンフィールさんは自分の力の反動に耐えられなくなり、段々と言動がおかしくなっていき狂ってしまったらしい。


「でも、その能力を活かすために自分自身の力で対外作戦局を立ち上げ、各国の情報を抜き取る仕事を代わりにできる者はフォンフィールを除いて他にいなかった」


フォンフィールさんは自分が狂っていくのを自覚しつつも、自分の役割を遂行し続けた。自分の正体を知られてはいけない都合上、頼れるのはレルフィールさんしかいなかったらしい。


「それでもなんとか二人で頑張ってきたけど、その日は突然やってきてしまったの」


ある日、フォンフィールさんの意識が戻ってくると突然、爆ぜたらしい。近くにいたレルフィールさんもその爆発に巻き込まれてしまい、レルフィールさんは自分の記憶とフォンフィールさんの記憶が混在した状態になってしまったらしい。今ではどれが自分の記憶なのか区別することもできないそうだ。


「肉の破片は確かに痛かったわ。その時に摘出できなかった破片の一部が私と同化しているから記憶が混同しているのでしょうけれど、その時は私の記憶ははっきりと覚えていたから問題はなかったわ。ただ、フォンフィールは私の顔にくっきりと目立つ傷痕を残してしまったことに罪悪感を感じてしまっていたようだったから、私は傷痕を隠すためにフードを被るようにしたの」


それからも、分身体を使って他国の情報を探るという任務は続行されていたが、最近コルト帝国に潜ませていた分身が死んだので、約一年半ぶりに目覚めたらしい。目覚めた直後はその時の人格が体の主導権を握っていて、よく私の名前を口にしていたそうだ。


「そしたらまたしばらくして、珍しく私にニューベトスの駅に行って、電車から降りてくるであろう魔導兵二人を私のところに送ってきて欲しい、とお願いされたの。万が一のことも考えて自分の正体は隠しておいて、という条件付きで。二人をフォンフィールのもとに送り、戻ってきたら貴方たちがフォンフィールを殺してくれていた。これが事の顛末になるわ。他に何か聞きたいことはある?」


カリン隊長の疑惑の視線が「タダ働きさせといて何も見返りはないのか?」と饒舌に物語っている。たしかにそうだ。フォンフィールさんの死は悲しむべきことだけど、こっちは死にかけたんだから、お詫びの品の一つぐらいは貰ってもいいと思う。


「…お二方の要望はわかりました。ここを自由に使える、というのはどうでしょうか?おそらくお二方はフォンフィールの話を聞く限り、帝国から秘密裏に入国したと見受けられます。安息の場はできるだけ多い方がいいのではないですか?」


カリン隊長はその言葉を待っていたと言わんばかりに頷こうとするが、私は咄嗟に机の下で隊長の腕を握る。隊長は少し驚いた様子でこちらを見てくるが、私は首を横に振る。私が何か欲しいものがあることを察した隊長はもう好きにしてくれ、と小さく息を吐いた。


「カリン隊長と私の分の修道服を一着ずつくれませんか?」


「え?まあ、その程度でしたら、持って行っても構いませんが…」



ここで過ごしてから三日が経った。私はただ、何もしないで暇を持て余していただけだが、隊長はこの間にもここにある資料を読み漁って、女神の降臨に関する文献がないか探していた。


「アレクト、ケルンから連絡があった。今日の昼には移動するから荷造りを終わらせておけ」


「やっとですか!?ずっとこの時を待っていましたよ。それで、次はどこに行くんですか?」


「ギーバルハ王国の首都、リソトだ」



ーーー10月28日 ツバルキ島北方


「時刻6:00全艦隊異常無いことを確認。ヒデルガンド作戦発令されました。」


「艦隊、予定通り作戦海域であるカーヤ海に向け航行中。」


六時を迎えると艦橋がにわかに騒がしくなり始めた。…ツバルキ島、かつての大洋艦隊ではあの島の周りでいくつもの国家の命運をかけた大海戦が行われた。今となっては謎の勢力の軍勢数千人ほどが占拠していると言われているが、二大国の干渉地帯の役割をこなしている間は、どちらとも積極的に攻め込もうとはしないだろう。


「直掩機を上げろ。こっちには身を守る最低限の装甲すらないのに、総会の連中は駆逐艦四隻しかよこしてこなかった。己の身を守れるのは己の身だ。水平線の船影を見逃すなよ?」


ーーー11月4日 イルニス


「帝国海軍さんに王国の軍管区の皆さん。それにホシオの幹部の皆さんまで。大物ばかりで僕、緊張してきてしまいました!」


「こらこら、ケルン君。会議の参加者を忘れるとは感心しませんよ?」


見知った顔が突っかかってくる。ウザイけど、今回ばかりは確かにその通りだね。


「ねぇ、この前まではオルレンスにいたはずなのになんで此処にいるのかな、ケトゥーヴァ?」


結構まじめな話し合いをしてたけど、カリン隊長がピチピチのシスター服を着ていると思うとそれどころじゃないよね。

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