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異世界戦線【非公開】  作者: Chira
第二部 女神降臨
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王国上陸

「お待ちしておりました。足元にお気を付けてご乗船してください。」


昨日から一夜明け、私達は早朝からリーデンブルグの軍港に連れてこられた。北の海からの風が肌寒い。男性を先頭にして、黒い棺桶のような見た目の船の中に入っていく。梯子を下りて中に入ると、エンジンが動いているのか駆動音が響いている。


狭い廊下をしばらく歩くと、ようやく多少広いスペースに到着した。辺りには耳当てをに手を添え、謎の動く線を見ている人や、何かを覗き込んでいる人がいる。


「第二近衛親衛隊の皆様、ようこそU106 シェッヘへ。本艦は皆様を安全にオルレンス湾まで護送させていただきます。」


周りの人より良い身なりをしているこの船?の艦長らしき人がこちらを歓迎してくれる。何かで負った怪我の後遺症なのだろうか、左半身の動きが少しぎこちないように感じる。


「誰かと思いましたが、まさかシェールマン少将だとは思いませんでした。少将が直々に指揮を執ってくれるなら、私も安心して命を預けられるというものです。」


「はっはは、委員会の方から直々に指令が届いたときは流石に驚きましたが、カリン殿一行を乗せるのならば我々にとっても光栄なことです。」


カリン隊長とシェールマン少将が談笑していると、私達は別個で居住部屋へ案内された。しかし、そこは部屋というにはあまりにも狭く、一応壁で仕切られて体裁を保っているが、余裕はほんの少ししかない。身長の高い隊長は横になれるのかすら怪しいところである。


「この船は旧式ですので、これでも賓客用に改装されて広くはなっているのですよ。その際に魚雷発射管を一対撤去したので一般兵の方はもう少しスペースがあるのですが、流石に客人をそこで眠らせるわけにはいきませんので。」


私は必要最小限の持ち物があればいいと言われたので、剣の方のケトゥーヴァしか持ってきてないけれど、ケルンはいろいろ持ち込んでいて、より狭そうに見える。


「何か必要なものがございましたら可能な限り準備させていただきますので、御用の際は発令所まで。」


船内にいると太陽の光は届かず、電球の光だけが光源となっている。視界全体に色がかかっている気がして少し気分が悪くなってきたように思える。


「オルレンスにはいつ到着予定なんですか?」


私が質問すると下士官は懐から手帳を取り出して日程を確認した。


「早ければ5日、遅くとも7日ほどで到着ですね。」


ヒデルガンド作戦の中で第一の壁が私の前に立ちはだかってきた。


ー1日目昼


「とっても狭いことを除けば、潜水艦での食事も上とはあまり変わらないんですね。」


潜水艦での食事でも、心配していたような缶詰ばかりというわけでもなく、普通の食事ができたことに安堵する。ただ、本来の航海では数ヶ月間外洋で活動するため、新鮮な食材を口にできることは滅多にないのだそう。


「私としては刀の腕が落ちていないかが心配だ。流石にこんな狭い空間で危険物を振り回すなんてことは流石にしないがな。」


カリン隊長は手早く昼食を食べ終えると自室に戻っていった。


ー2日目朝


「おや、僕は日課の散歩に行くけど、アレクトちもどうだい?」


太陽が昇らない朝を迎え、どこか体に変な感じの間隔を覚えながら廊下に出ると、ばったりケルンと出会ってしまい、そのまま半ば強制的についていくことになってしまった。メモを取るための筆記具をいつも持ち歩いている彼女は、たとえ散歩中でもしきりに何かを記録していた。


「アレクトちー、ここ何処だい?」


十分ほど潜水艦を散策していたが、同じ景色のせいでここがどこかわからなくなってしまった。心配になってケルンから懐中時計を見せてもらったが、思った通り、とっくに朝食の時間になっていた。


その後は何とか戻ることができたが、カリン隊長にこっぴどく叱られてしまった。


ー3日目昼


「もう耐えられないわ!こんな狭い部屋でいつまでも縮こまっているなんて、もう限界!」


カリン隊長とともに昼食を摂っていたところ、案の定、ケトゥーヴァが耐えられずに騒ぎ始めた。通信を聞いている人がいるかもしれないので我慢してもらいたいが、こうなってしまっては他人の言うことは聞いてくれないだろう。


結局、この騒動は何処からともなく現れたシェールマン少将が、ケトゥーヴァを説教して事なきを得た。


ー5日目夜


…眠れない。なんでかって太陽の光を浴びていないせいで体内時計が狂いまくっているからなのもあるが、体を動かさないから全く疲れていない方が問題だと思う。


エンジンの駆動音が響いているし、ここは密室だし…いや、止めておこう。


ー6日目昼


「今晩、協力者からの支援の下、オルレンスに上陸することが決定したことをお知らせします。5日の時にはすでにオルレンスには到着していましたが、協力者との都合上、予定が合わず1日延期されましたが、悪天候でない限りは実行されるそうです。」


長かった、本当に長かった。棺桶生活が終わる目途が立ったことで、皆の表情に笑顔が戻ってきたような気がする。


ー6日目夜


太陽が沈み、月も曇天によって隠されている。昼間に見ると青かった海も今となっては、闇の一部と化して私たちを飲み込もうとしている。


「…あれか?」


「ええ、あれです。」


短い会話だが、これだけで船が来ていることがわかる。この6日間で忘れかけていた身体強化をかけると、オルレンス市街地からの光に照らされて小型船がこちらに近づいて来るのが見えた。


「それでは、剣神の導きがあらん事を」


「我らが叡智と伴に」


私達が全員乗ったことを確認すると船はゆっくりと動き出し、潜水艦から離れていく。少しするとその船影は闇夜と同化して見えなる。潜水艦の短くも、今思えば愉快だった数日間はしばらく私たちの記憶から離れないだろう。



「うぇー、づがれだー」


「僕ももう狭い部屋は嫌ですー」


「ZZZZ…」


協力者の支援と帝国政府の根回しによって、手入れされた空き家とギーバルハ王国で自由に活動できる偽りの身分を手に入れることができたアレクト一行。ところが、缶詰で夕食を済ませようとしたカリンに猛反発し、その結果、協力者のうちの一人であるリロの家で食事に与ることになった。


「何から何まで申し訳ありません。わざわざこんなご馳走まで作っていただいて…」


「いいのよ、あなたがそこまで気にすることではないわ。こちらも帝国から工作や怪獣とかの報酬としてある程度の金銭は受け取っているから、これぐらいしないと忠義とは言えないでしょ?」


つらつらと謝罪の言葉を重ねるカリンに協力者の一人であるリロは困ったように頬に手を当て答える。彼女は忠義と言ったが、その心の内は明かさないようだ。


「さあ、いろいろ話すことはあるかもしれないけれど、とりあえず今はお腹を満たしてちょうだい?一週間ほど狭い部屋で生活してたのでしょう?いくらあなたたちが重要な役割を担っていたとしても、全力が出せなければ肝心なところで重大なミスをするわよ。」


「…それでは、お言葉に甘えさせていただきます」


食事を手早く終えて、部屋を物色し始めたケルンとすでに寝ているケトゥーヴァを引っ張り部屋に戻る。部屋に戻ると、かなり前に戻っていたはずのアレクトが未だに風呂に入っていてその長さに呆れる。いくらなんでも長すぎはしないか。いつでも動けるように無防備な時間はできる限り減らしてほしいのだが。


そう思いつつ、カリンは協力者から受け取った鞄から中身を取り出す。中には偽の身分証と通信機、暗号表などの必要物資が入っている。


明日は服と食料調達だな。通信機器はケルンに任せておけば問題ないだろう。足りない部品は…後で協力者の名簿を渡しておこう。それと、イルニス行きの切符も手に入れなければいけないな。イルニスは軍管区内で軍管区と帝国政府は協力関係にあるらしいが、独力でたどり着かなければいけない。直接行ければいいのだが、安全策をとるならリソトまで行った方がいい。これもケルンがどうにか自力で入手してくれないだろうか。


カリンが書面を睨んでいると、ようやく風呂を済ませたアレクトが洗面台から戻ってきた。アレクトの髪から甘い香りが漂ってくる。同じ女性であるはずなのにどうしてもその姿に目を奪われてしまう。生まれの違いもあるのかもしれないが、自分と見比べてしまうと、どうしても自分が見劣りしてしまう。


「カリン隊長、お風呂空きましたよーお待たせしてしまいましたか?」


「いや、大丈夫だ。何か淹れようか?一応インスタントの紅茶ならあったぞ。」


「では、お言葉に甘えさせてもらいます。」


ポットに水を入れ金属の部分に手を触れて魔力を加えていく。すると、ポットの中から水がブクブクと沸騰して水蒸気が上がる。魔力を少し使うだけでどこでも水を沸かすことができるので、野営の時にはよく重宝した。


「このパスポートの内容って名前変わっていないですけど、こういうのは偽名を使うのがお約束なんじゃないですか?」


「私たちが工作のために何かする訳ではないからな。わざわざ用意させれば今からでもできるだろうが、ギーバルハ王国(ここ)で暴れたらどうせ足が付いて、遅かれ早かれ偽名だと特定されるからな。そうなったらどちらにしろこそこそと逃亡生活を送ることになる。」


「そんなヘマをやらかすことはないだろうが」と、付け加えてカリン隊長は紅茶に口を付けた。次に、私が鞄の中に入っている機械らしきものを触ろうとすると、隊長は慌てた様子で私の手を抑えてきた。


「それには触るな。大体の使い方はわかっているが、不用意に触ると壊してしまうかもしれない。それはケルンが必要に応じて持ち歩くものだ。どうしても気になるなら、翌朝ケルンに聞け。」


「はあい、わかりました。それでは、そろそろ寝ることにしますね。カリン隊長も寝た方がいいのではないですか?」


「…わかっている。私も今日は寝るつもりだ。」


「今日はってことは、いつもは寝てないってことじゃないですか。カリン隊長は部隊の皆には気を配れるのに、自分のことになった途端、適当になるんですから。本当に寝てくださいよ?」


念を押して伝えておく。ベッドに横になるとすぐに眠気が襲ってきた。就寝してからすぐに寝るのは睡眠じゃなくて、気絶していると聞いたことがありますが、真相の程はどうなんでしょうか…


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