終幕
第一部完結です。ここまで読んでくれた皆さんに感謝を。
「…カリン隊長、ランカラが大変なことになっていそうですけど、大丈夫なんでしょうか。」
アレクトは車両の窓越しに雲で覆われ赤く燃えるランカラを見ながら恐怖で小刻みに震える体を必死に抑える。カリンは何も言わずにただランカラをひたすら見つめている。誰も言葉を発さないまま静寂が流れていた。
「…お前は後悔しているか?」
「…え?」
一瞬何を言っているのかわからなかった。どちらかというと今まで考えたこともなかった。と言った方が正しいのかもしれない。
「その様子だとあまり考えてないみたいだな。率直に言えば私は後悔している。私は『魔女』を取り逃がした。彼女は言及しなかったが上空の魔法陣はどう見ても彼女のものだっただろう。私がもし、『魔女』にとどめを刺せたならランカラはあんな風にはならなかった。…と、考えずにはいられない。」
「でも、隊長は十分頑張っていたではないですか。」
「たとえ、己の限界を超えていたとしても、だ。あの場で動けるものは私しかいなかった。それは覆しようのない事実だからだ。人は後悔しながら生きていく。お前が今、そう思わなくてもいつか同じように考える時が来ると思ったから言ってみただけだ。…よく、生き残ったなアレクト。」
「…!」
不意打ちだった。心の中に詰め込んでいたいろいろなものが堰を切ったように溢れ出してくる。家を離れてから安心感を感じることができなかったのが原因かもしれないが、今となっては考えるだけ無駄だと思って止めようとは思わなかった。止まることのない感情をカリン隊長はただ何も言わずに受け止めてくれた。
◇
「…きろ。おい、起きろと言っている。」
「…ぇ?私寝てしまっていましたか?」
いつの間にか私の体はベッドの上に移されていていたようです。体を起こすと窓から光が入ってくる。カリン隊長は小さく息を吐くと部屋から出ていってしまった。
「…海?冷たっ…」
窓から見える無限に広がる水面は湖ではないことだけはわかった。硝子に手を当てると思ったより冷たかったのでびっくりして手を引っ込める。
「ここは何処なんだろう。隊長に聞けばわかるかな?」
列車から外に出ると地面は薄く雪に覆われて空気は肺を刺すようで体を震わせる。
「お前、トレンチコートはどうした。部屋の中に掛けておいただろう?はぁ、ここから船に移動するだけだ。我慢すれば問題ないだろう。」
「私結構寒いの苦手なんですけど…って、置いてかないでくださいよ。」
埠頭にはいくつか船が停泊しているが、カリン隊長は迷うことなくそのうちの一つに向かっていく。海からの風で体の震えが止まらない。歯がカチカチしている。
「カリン様ですね。あぁ、身分確認は結構です。覚えていらっしゃらないとは思いますが、私は一度命を救われていますから。顔を見間違えるはずございません。」
「…そうか。お前は大陸残留組か?」
「えぇ、ここは第一軍の管轄ですから。」
カリン隊長は短い会話を済ませて乗船する。私もその後を追うと、たまたまその人と目が合ってしまった。一瞬、ほんの一瞬の出来事だったが、優しく微笑んでくれた。
◆
仄暗い教会の中で一人彼女はステンドグラスに向かって跪き祈りを捧げ続ける。偶像を作ることを決して赦さない女神の信仰はステンドグラスの模様を女神に見立てることで進行を繋いできた。
「貴方様が望むなら必ず、どのような犠牲を払おうとも叶えて見せます。…国王がお望みなのですね。貴方様が依り代として望むのならば。」
何処からともなく、強いて言うならば影から現れた長身の女は祈りを捧げる少女に手をかざす。すると手の甲の紋様が光を放ち、少女は金色の塵となり崩れ落ちる。
「信仰の代償はいただけません。我々は3000年前の恩返しをしているだけなのですから。」
彼女の頭上に光の円環が浮かび上がる。彼女はそれが己の力となったことを確認した後、もう十分だと思いつつも頬を赤く染めた。




