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異世界戦線【非公開】  作者: Chira
第一部 帝都防衛作戦
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帝都陥落〔下〕

一筋の閃光が紅に染まる空を裂いて往く。スポメンサで『王子』との激戦を制してみせたカリンはその余韻に浸ることなく攻撃を受けているランカラ救援に向かっていた。普段は感情を顔に出さない彼女だが、今回ばかりは眉間にしわを寄せ、不機嫌そうにしている。


「帝都に『道化』と『魔女』が来襲?『王子』がわざわざ私をスポメンサに呼び寄せたのはそういうことだったのか!」


報告の内容を頭の中で整理していくうちに三人が裏で繋がっていたとしか考えられない現実に思わず舌を噛む。急がなければ。彼女は消耗しているはずの魔力を惜しみなく使い次の戦いへと身を投じていく。



「…ランカラに戻ってきても結局『魔女』退治か。」


『主人よ流石に少し休息をとった方がよろしいのでは?』


クランハルトはメーリスの言葉に耳を貸すことなく傷も癒えていない身体を奮い立たせて彼は再び戦場に立つ。連戦で魔力に余裕が無いせいだろうか、今回は空を飛ばずに、大地を踏みしめている。


…魔力は『白鳥の騎士(クレーヴェ)』二回分ほどか。心許ないが、時間ぐらいは稼いでみせる。


ありもしない増援に一縷の望みを託すためにクランハルトはメーリスと愛銃を携え、『魔女』の元へと跳躍する。


「…お前の心配する理由はよくわかる。だが、一度戦ったからわかるだろう?彼女は野放しにしていい存在ではない。だから、私がこの命を以てしても帝都140万人の命を護る。」


初めて出会ったときと変わらない表情に安心感を覚えながら、メーリスはクランハルトの魔力にその身をゆだねてしまった。


クランハルトは視線を戻して、『魔女』との距離が十分に縮まったことを確認すると空に飛び上がり全身に魔力を流す。目標は『魔女』の討伐ただ一つ。ランカラでの最後の戦いが今、幕を開ける。


「来たわね、クランハルト。貴方は勘がいいから、きっとランカラでもこうして殺り合うことができると思っていたわ。」


『魔女』のすべてを見透かしているような言動が耳に入ってくる。初めてその姿を眼に入れた時と同じ吐き気とともに今度は殺意が湧いてきた。今までは生き残ることが目標だったが今回ばかりは己の命の有無はどうでもいいように思ってしまう。


「黙れ…!『白鳥の騎士(クレーヴェ)』」「『防衛線を(ルートヴィヒ)穿つ剣技(スハーフェン)』」


二人が同時に呪文を唱え、技がぶつかり合う。白鳥の騎士(クレーヴェ)によって創られる六本の剣は『魔女』が魔剣を振ると蒸発してしまう。


「二度目が通用すると思ったかしら?」


『魔女』が妖絶に笑って見せる。だが、クランハルトはその隙を逃さずに『魔女』の下から後ろへ回り込んで銃弾を四発放った後、己も突撃する。銃弾は下方から、位置を変え自身は斜め上から突撃する。ところが、『魔女』は今まで避けていた銃弾を体で受けたのにもかかわらず平然とした顔のまま、クランハルトに向かって魔剣を振り下ろす。


「クソっ…!」


今までの無傷でいることを重視する『魔女』の行動によって生じる隙を狙ったクランハルトは意表を突かれたが、間一髪のところでメーリスの持ち方を変え、なんとか受け止める。魔剣に斬られるよりはよかったかもしれないが地上に叩きつけられて全身に激痛が走る。


「…肋骨が三本折れて、右足にひび割れか。」


身体強化に回す分の魔力が無くなってきていている。痛覚が戻ってきているにもかかわらず、クランハルトは拉げた左手を魔力を流して無理やり動かし、感覚を確かめて立ち上がる。今までは立ち上がりこちらが再び動けるようになるまでまっていた『魔女』も今回ばかりは逃がすつもりはないのか、体制を整えるひますら与えず追撃をかけてくる。


「死になさい!クランハルト…!『防衛線を(ルートヴィヒ)穿つ剣技(スハーフェン)』」


魔剣が再び炎を纏い、こちらに向かってくる。皮膚が灼けていくのを感じた。呼吸をすると肺が焼ける感覚が痛覚を抜きに感覚として伝わってくる。せめて相打ちには持ち込んでみせる…身体強化のために今ある魔力のありったけを注ぎ込み、空を見上げる。


白鳥の騎士(クレーヴェ)


再び魔力を展開すると体の内側から激しい渇きが湧いてくる。クランハルトは魔力が底を尽きたのだと直感的に理解した。身体強化で誤魔化してきた心身両方の疲労が抑えきれなくなっていき意識が遠のくとともに、崩れ落ちそうになる。


「まだ…まだだ…」


リーメスの気配も感じられなくなり、孤独感とともに意識が暗転する。慣れていたはずの孤独も、一度恵まれた環境を経験すると耐え難く思えた。


『よく持ち堪えたな。』


突如、頭の中に優しく包み込むような声が響く。まさか、この刹那でに私は死んだのか?一瞬頭によぎった一抹の不安を掻き消し、確固たる信念を持って目を開く。そこには、救援に駆けつけて敵を殲滅する姿からリーデの戦姫と称され、近衛部隊に所属せず多くの人々を救うためにコルト帝国中を奔走してきた現401特別魔導部隊長、カリンの姿があった。


カリンはクランハルトを庇うように前に立ち、『魔女』に向かって紫電を纏った斬撃を飛ばす。『魔女』は咄嗟に回避しようと試みるが、カリンがそれを許すはずもなく切り伏せられる。だが、死んだはずの『魔女』は何事も無かったかのように元の形に戻り、言葉を話し始める。


「貴方とは初めましてね。久しぶりの女性に会えて私もうれしいわ。できればそこのクランハルトを私に譲ってほしいのだけれど、構わないわよね?」


「生憎だが、私に身内を人身売買する趣味は無いんだ。他を当たってくれ。」


素っ気なく言葉を躱してカリンは再び太刀を構える。ところが、今までの連戦のせいか、太刀にかかっていた仄かな紫色はなくなっている。


「一瞬で決着をつける…!」


そう言い放つと、カリンが一瞬歪む。一瞬、輝き自身が閃光となり『魔女』を切断する。カリンは地面に無事着地すると『魔女』に追撃をかけずに、瀕死のクランハルトの安否確認に真っ先に向かう。


「…ッ!クランハルト!しっかりしろ。」


カリンがよろけて倒れそうになるクランハルトの体を支えると近くで見なければわからないほど取り繕っているが、クランハルトは寝ていないのか目の下に隈ができて肌が荒れている。まともに休息をとっていなかったのだろう。


「…カリン、迷惑をかけたな。」


「全く、無茶するなとあれほど言っただろう。お前は大事な戦力なんだ。勝手に死なれては困る。」


カリンはクランハルトを連れてその場を離れる。脅威は去った。そう判断をして。



「ガハァ、クソっ、後もう少しでトドメをさせたのに…!」


『魔女』は感情を露わにする。髪は乱れ、顔は自分の血液がべっとりとついているが、それもお構いなしに。理由はもちろん、後もう少しのところでクランハルトを逃し、それどころか突如現れたカリンによって腹部を抉られ、重傷を負ったからだ。


「…もういいわ。少し早いかもしれませんが、私を怒らせたことを後悔するといいでしょう…!」


二人は『魔女』に致命的になるほどのダメージを与えたが、死に至るまでではなかった。そのため『灰燼に帰す魔法陣(エニウェトク)』は未だ止まっておらず、彼女の燃える意志と同じように煌々と赤く輝いている。


「私はまだ死なないわ。せいぜい苦しむがいいのよ…!」



「まっていましたよ、アレクト君。おや、元気がないようですがどうなさいましたか?」


天井には穴が開き、壁は丸ごとくり抜かれた部屋だが、椅子に座ってニューべトスはアレクトの帰りを待っていた。部屋が散らかされても、あくまで態度を崩すことなく、優雅に。


アレクトはニューべトスの対面に座ると、一度顔を上げる。ニューベトスト目が合い、優しく微笑えんでくれたが、目線をそらす。しばらく沈黙が流れた後、ニューベトスは小さく息を吐き、フォンフィールが投げ飛ばされて壁が崩れ落ちた方向を見ながら、一つ一つ丁寧に言葉を並べて文章を成していく。


「フォンフィールのことは残念でしたね。実際の戦争は映画のような悲劇喜劇はありません。…ここは己との闘いの場です。自分の運命を信じて戦場を駆け抜ける。…私は貴方に偉人たちのように人生を一変させるような言葉をかけてあげることはできません。ですから凡人並みにできることをしてあげましょう。」


俯いたままのアレクトをニューベトスは優しく見つめたままそっと立ち上がり、手をかざし何か呪文のようなものを唱える。するとアレクトは光に包まれる。


「ニューベトスさん、いったい何をするつもりですか!?」


アレクトは光から抜け出そうと試みるが、見えない壁に阻まれて逃れることはできない。ケトゥーヴァを抜くには壁が近いので必死に壁を叩いてみるががビクともしない。


「安心してください。非常時脱出に使う魔術を発動しているだけです。ここからは私たちに任せて下さい。きっと吉報を届けて見せますよ。」


「ニューベトスさん…!?待ってくださ」


アレクトはそのまま何もできずに光に吸い込まれる。視界が一瞬歪み真っ暗になったかと思うと、次の瞬間には見知らぬ場所に立っていた。空には相変わらず、不気味な模様が覆っているのが見えたので、ランカラからそこまで離れていないことにひとまず安心する。


もちろん、あたりを見てみても知ってる人がいるわけないので、話しかけることができずに右往左往していると突然、耳の奥を裂くような音のような何かが伝わり、我慢できずに耳を手で覆う。


「アレクト、無事だったか。ランカラに行っても貴様の気配を一切感じられなかったから心配したぞ。」


突如現れた懐かしい姿につい感情があふれ出してしまう。


「隊長…!私は、私は…!」


「まあ待て。何があったかは後で聞いてやるから、今はこいつが先だ。」


突如現れたカリン隊長の肩には男性がもつれかかっていた。顔の一部は焼けた痕があり、右足を引きずっていることから、かなり重傷であることが分かる。


「えっと、確か、クランハルトさん…でしたよね?」


「…あぁ、あの時遅刻してきた小娘か。よく生き残っていたな。てっきり既に死んだと思っていたが。」


前回のような厳つさはなく、貶しているようにも、感嘆をついているようにも感じる口調で呟いた。かと思うと、糸が切れたかのように意識が途切れた。


「あんな言い方だが、彼なりに褒めているんだ。皮肉のように聞こえたかもしれないが、あれも彼なりの賞賛だ。」


カリン隊長はクランハルトを預けると、物資の積み下ろしをしている駅に向かってゆっくり歩き始めました。私はその少し後ろをついていくと、隊長は大きくため息を吐きます。その後ろ姿は今までとは異なり、少し小さく見えました。



ニューベトスはアレクトを見送った直後、ランカラ防衛部隊のうち、奇襲により指揮官が戦死した第314連隊の指揮を執っていた。


「ボルカ通りで何としても食い止めてください。三日耐えれば第二軍からの増援も期待できます。もしランカラが陥落することになれば、皇帝陛下の名に傷がつきます。」


「ですが少将、敵は装甲部隊を保有している様子。ここはデリ川まで後退し、橋を落として敵部隊の展開を少しでも遅延した方がよいのでは。」


「普段なら私もそのようにしたでしょう。ですが、ランカラには避難指示を出しましたが、未だ多くの民間人が取り残されてています。私は少なくとも、デリ川以南にいる人々を置いてはいけません。」


砲撃により半分廃墟になった建物の一室で地図を挟んで議論を続けるニューベトス。現実的な意見を出すバルトウィクに対して不満を募らせていく。そんなバルトウィクの様子に気が付いたニューベトスは彼をなだめる。


「いいですか?ランカラが陥落したら南方の防衛計画は破綻します。カデークのリーベルト大将から新たな指示がない限りは、ここで持ちこたえます。」


「それは我々防衛部隊を犠牲にし「伏せなさい!」


何かを察知したのかバルトウィクの話を遮り、ニューベトスはその身を押さえつける。バルトウィクは一瞬ニューベトスの行動に困惑したが、その刹那、部屋が爆ぜ、その意図を察する。


「…!な、少将、無事ですか!?」


覆いかぶさった体を押しのけると手のひらが赤く染まって温かい。バルトウィクはニューベトスが自分をかばった結果負傷したことを直感的に理解した。


「…君の言うとおりに撤退するべきだったかもしれないですね。君に314大隊の指揮権を譲渡します。それと最後にひとつ伝えておきましょう。…私の犠牲をあまり気に病む必要はない。」


バルトウィクに覆いかぶさりながら意識が朦朧としながらもニューベトスは呟く。


「そんな、しっかりしてください。まだ、まだどうにかなるはずです。」


ニューベトスの体を引きずって遮蔽まで移動させる。弱々しく手で隠している腹部には銃創が見られ、バルトウィクは訓練通りに己の服を裂いて止血しようとするのをニューベトスは急な痛みでまともにしゃべれないであろうにもかかわらずバルトウィクに語り掛ける。


「…やめなさい。私はもう長くない。たとえ適切な治療を施せようとも不自由な体でまで生きようとは思いません。それより、後方まで下がりなさい。まさか職務を放棄するつもりはないのでしょう?」


「…ッ、それでは失礼します。」


様々な感情が表に出てきそうになるのを堪えてバルトウィクは退出していった。ニューベトスは痛みをこらえて視線を横に向ける。そこには瓦礫の傍らに一丁の拳銃があった。彼なりの気遣いであろう。安心して意識を手放す。


「……優しいものです」


ニューベトスが意識を放してからしばらくもせずに誰もが忘れていたであろう『灰燼に帰す魔法陣(エニウェトク)』は、涙を模した赤い結晶となる。一瞬、まばゆい光とともに熱波が放たれ殆どの人は蒸発し、建物も燃え落ちた。一瞬、衝撃波が到来し、何とか残った建築物も瓦礫と化す。もちろん、力尽きたニューベトスも、そして、バルトウィクも等しく。


ーーー帝都ランカラは陥落した

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