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異世界戦線【非公開】  作者: Chira
第一部 帝都防衛作戦
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落日

本編です。拙い文章ですが、温かい目で見ていただけると幸いです。

夏の暑さも引いてきた九月の始め。気候の関係上あまり晴れの少ないメリートだが、今日は珍しく雲ひとつない快晴だった。アレクトは普段天気のことなど気にするような繊細な性格の持ち主ではないが、珍しく父であるリーベルトから直々に執務室へ呼ばれたことと重なり、今日ばかりはとても印象的に感じられた。


「お父様、伝えなければならない事があるっていったい何ですか?」


アレクトは面倒くさそうな態度を取りつつも貴族としての礼儀作法を崩す事なく優雅に席に座る。リーベルトはアレクトが座ったのを確認すると、机の上で手を組んだまま重々しく口を開いた。


「アレクト、申し訳ないが、お前は軍部に引き取られることになった」


アレクトはそう父に告げられる。衝撃のあまり、狐につままれたというのはこの時のためにある言葉なのかもしれないな、などと一周回って考えてしまう余裕すらあった。


室内に沈黙が流れる。アレクトは思考が追いつかないのか、顔に笑顔を貼り付けて微動だにしない。リーベルトも腕を組んだまま瞑目して動こうとしなかった。


「お父様、それは一体どういうことですか?私はこのままお父様の後を継いで知事になるとばかり思っていましたが、違ったんですか?」


やっと事態を飲み込むことができたアレクトが、頭にハテナを浮かべたままリーベルトに畳み掛ける。


「…落ち着くんだ。私だってこんなことになるとは思ってもいなかったし、このような結果になったことは本心ではない。」


この世界で世界大戦が終結してから十二年後、そして今から二年前の近代暦181年、突如としてセヴィント、アルナス、ウルナニア、ハーバートン島、エネンハに謎の武装勢力が出現した。その武装勢力は各国に対し無差別に攻撃をはじめ、結果的に多数の国々が滅ぶこととなる。命からがら何とか生き残った人々も住居を追われ、世界各地へと散り散りになり今でも多くの人が故郷に帰れないままでいる。


そんな中、コルト帝国ではギーバルハ王国と軍拡競争を行ってきたことが奇跡的に功を奏した。コルト帝国は隣国のデルモルヴィルド王国が崩壊する中、国境部での防衛に成功し、内地では平時と変わらないような生活を過ごすことができていたのだ。


それから約一か月後、ブライト合衆国の呼びかけによってノースアルゼンで会議が開かれ、その際すべての国々の同盟関係と戦争状態を解消することが決定し、国家の枠組みを超えて協力する体制が整えられた。その宣言はノースアルゼン宣言と呼ばれ、無論、コルト帝国も署名している。


しかしながら、知事の娘であるアレクトにはそれらの事実はどうにも遠い世界のことのように感じていた。いくら世界が混乱に包まれていても、大国であるコルト帝国の上流階級の生活はそうそう変わるものではない。親の仕事が知事という土地に直結する仕事だったから比較的世の中への関心が多少あったが、それまでのことだった。ところが、自分が軍へ、つまり前線に立たされるとなれば今までのように遠い世界の話として楽観的に聞いていることはできない。


「でも、でもお父様、私が引き取られるんですよ?落ち着いていられるわけないじゃないですか!」


リーベルトは焦りを隠せないでいるアレクトの目を見て、今後起こるであろう事態にため息をつく。かわいがってきた一人娘にリーベルトは同情しつつも、何とかして納得してもらえるような説明ができないか頭を回転させる。


「どこから説明したらよいものか…お前は魔導兵科というものを知っているか?」


 魔導兵科。俗に魔導兵と呼ばれる世界大戦を経て、総力戦が当たり前になった世の中では特異な少数精鋭の部隊。世界有数の軍事力を持つコルト帝国ですらおよそ七千人ほどしかいないとされており、戦場で劣勢な場所に投入されては前線を押し戻すといういかにも一騎当千な部隊。彼らの起源は世界各地で謎の勢力が攻撃を始まってから、一定数の人が今までの物理法則を超越した能力を使えるようになったことにある。


世界各国はそんな彼らをを集め、軍隊として統率することにした。そして、彼らの御伽話のような力を目にした人々はそれを魔法と名付け、そこにに日畿の剣には魔を祓う力があるという噂と、一発ごとに魔力を込める銃よりも手軽に魔力を扱えるという実用性を鑑みた結果、魔導兵は刀を持った戦闘スタイルが主流になった。


「それで、その魔導兵と私に何か関係があるのですか?」


「ああ、少し前に専属医から検査を受けただろ?」


「ありましたね。なんか右腕によくわからない機会をはめられてビリビリさせられました。」


「…?あ、もしかして、あれが俗にいう適性検査ってやつですかあああ!?」


アレクトが情報収集の大切さを実感しながら驚愕して固まっている間に、リーベルトはやれやれと首を振って思い出となった過去を懐かしむ。


「やっと気が付いたか…お前のそういうマイペースなところは小さいころから相変わらずだな。良くいえばおっとり、悪くいえばマイペースとラクーシャもよく言っていたのが懐かしい。」


「むぅ。ラクーシャにそんなふうに思われていたなんて…」


アレクトは不満そうに頬を膨らませる。感情がすぐ顔に出てしまう彼女は、第二次成長期が過ぎた後もその癖が治ることはなく、17歳となった今もどこか幼さを残したままでいた。


「ちなみにお前の等級はAだ。コルト帝国に百人もいないんだぞ。よりにもよってなんでお前が選ばれてしまったんだか…。」


アレクトの魔導兵適性はAからFの六段階のうち最上のA。魔導兵の人数は階級が上になるほど反比例のように減少していく。つまり、アレクトは魔力量だけで言えばコルト帝国内で最上位、世界を見てもなかなかお目にかかることのできない希少な存在なのだ。


だからこそ、アレクトは疑問に思う。自分は外の世界、貴族社会にもあまり顔の出すことのない、いわば箱入り娘のような状態なのだ。勿論、戦いとは無縁の世界で生きてきたし、そんなことに興味を持つつもりも毛頭ない。


「ちなみに今回はなぜ私も適性検査を受けたんですか?今まではお父様が知事の特権を濫用して検査を免除してくれたじゃないですか。お父様はそのような不正がばれるような手腕ではないでしょうし。」


アレクトはもう一つそれが疑問だった。アレクト自身、自分が母であるネスィールを殺して生まれてきたのは知っていたし、そのためこれ以上肉親を失いたくないという理由でリーベルトが自分のことを外敵にさらすことのないように常に警戒してきたこともなんとなくだが察していた。


けれど、今回伝えられた事実はそんなリーベルトの父親としての行動原理から随分と逸脱している。アレクトのことを外へ送るのはまだいい。旧貴族階級の女性ならば既に婚約が決まることもおかしくはないからだ。だが、男の独壇場である軍部に引き取らせるなど今までからでは到底考えられないことだった。


「お前の中の知事像はずいぶんと真っ黒なんだな。…いや、案外お前の思っている通りかもしれないが」


そう言うとリーベルトは優雅に机に肘をつき、こめかみの方を抑えながら話を続ける。普段アレクトからポーカーフェイスと言われるリーベルトも、今回ばかりは眉間に皺が寄り口調はどこか突き放すようで不機嫌さを隠し切れない。


「今回行われた適性検査は一年に一度ある定期的なものではない。定期適性検査は三か月前に行われた。今回は特例で軍の上層部からの指示で行われた臨時のものらしい。そしてこの命令が通達されたのは占領されているファトランド州を除く新大陸の州のみとなっている」


「それはおかしいではないですか。適性検査は帝国領に住まう全ての人間に魔導兵の適性を検査するという内容だったはずです。軍部の独断でそのような自治体に負担のかかる内容を強行して行うのを領地をもつ旧貴族が許すとは思えません。軍部はどうやら無能の巣窟のようですね」


魔導兵は科学の観点からして現段階では全くと言っていいほど謎に包まれている。まず魔導兵が使えるとされている『魔力』の存在を感知することが出来ていない。そして、いったいどのような人間ならばその『魔力』を扱うことが出来るのか。まさに謎が謎を呼び仮定を立てることすらままならないのだが、ひとつ分かっていることがある。それは『魔力は後天的に扱えるようになる』ということ。つまり、たとえ今日までは魔力を感じ取ることが出来なくても、翌日の朝起きた時に突然使えるようになるかもしれない、ということだ。


そのため、コルト帝国の全臣民は一年に一度適性検査を受ける。もし適性があると判断されれば強制的に軍へ入隊させられるのだが、男女問わずそれを望む者も多い。その理由は働かなくてもいいほどの俸禄が支給される、この一点にあった。


この俸禄が支給される期間は本人が魔導兵の適性があると判明してからその本人が死ぬまでとされているので、たとえ魔導兵として前線に立つのが厳しくても数年もすれば遊んで暮らせるようになる。さらには、もし、故郷に帰ったら英雄として称えられる。まさに魔導兵は民衆の夢なのだ。


だが、その俸禄もリーベ家の収入からすればただの小銭に過ぎない。それなのになぜ私は軍へいかなければならないのだろう。心の中でアレクトは愚痴をこぼしつつ、自分の置かれた情報を分析する。貴族らしからぬ言動が多い彼女だが、生まれであるリーベ家はコルト帝国建国初期から存在する五大貴族の内の一つ。長い歴史の荒波を生き残ってきた名家であるからにはアレクトにもそれ相応の頭脳を持ち合わせていた。


「…お前は母に似てなかなか言葉が強いな。これはまだ公表されていないから他言無用で頼むぞ。端的に言うと前線が押されている。帝国軍がは新大陸を反撃用の土地のみを残して放棄するつもりだ。そのため、避難できない可能性がある新大陸側の人可能な限り全員に検査を受けさせることになったんだ。そこまではよかったんだが、今回はそれに加えて皇帝陛下お墨付きだ。流石に今回ばかりは隠蔽しているのがばれた時のリスクが多いからお前に受けさせたんだが…まさかこんなことになるとは」


コルト帝国は形式上は立憲君主制である。しかし、世界大戦直後に皇帝が直接政治を行うことを主張する王権派によるクーデターが発生した。王権派は過半数を超える陸軍と近衛部隊から支持を勝ち取り、クーデターは成功した。王権派は次に、先代の皇帝ヴァストヴィーンを退位させ、頭脳明晰と言われる幼君ヴィルヘルムを皇帝に戴冠させ、事実上の傀儡として扱った。と、言われている。


…結局のところ旧大陸側の人たちは新大陸のことを植民地みたいにいくらでも搾取できると思っているんでしょう。全く腹立たしいです。


アレクトは相変わらずの新大陸への差別に憤慨する。今では首都ランカラをはじめとして旧大陸以上の経済力をもつ新大陸地方だが、皇帝陛下の居城であるリーデンブルグ城をはじめとした政府機関は旧大陸に集中している。それに、新大陸はもともとコルト帝国の領土ではなく、入植していった結果自国の領土になったという歴史を持つので、未だに旧貴族の人の多くは新大陸を植民地のように考えているのだ。


「早速だが、お前には明日迎えがくる。お前は迎えの車に乗ってランカラ経由でリーデンブルグに向かってもらう。一応面識のあるレーリッヒ大将に手配を依頼しておいた。ずさんな扱いは受けないだろう。」


「わかりました。それでは早速準備をしてきますね!」


旧大陸は新大陸とは違い長い歴史を持っているので煌びやかなランカラとは違い、荘厳で歴史を感じられる建築物が建国当初から数多く残っている。話を聞いて浮足立つアレクトにリーベルトはぴしゃりと言い放つ。


「待て。お前だけだと余計なものばかり持っていこうとするだろうから、ラクーシャにやらせてある。お前はこれからミスが許されない環境に行くのだから上司となる人の名前ぐらいは覚えておけ。ロイン。この名簿をもってアレクトを部屋に連れていけ。」


「お父様、さすがに扱いがひどくありませんか?私は納得していませんよ!せっかく滅多に行けない旧大陸に行くのですから少しぐらい観光したっていいじゃないですか。」


そう言って騒ごうとするアレクトを見てリーベルトは執事であるロインに目配せする。アレクトが我儘を言い始めた時はロインに対応させると基本的に上手くいくのだ。主人であるリーベルトの意図をそう解釈したロインは、そっと口を開く。


「お嬢様…しっかりしてください。これからは所属が軍になるのですから、そのようなお時間はございませんよ。それに父上は突き放すようにおっしゃいますが、内心では心配なされているのです。どうかご理解いただけませんか?」


「むぅ…ロインがそう言うなら仕方ありませんね。いいでしょうここは素直に従っておきます。」





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