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犬飼山

作者: 荒木パカ

私の地元は山と海に挟まれた小さい町だ。

囲む山の1つに犬飼山という名称の小さい山があり、

その山の麓に住む人たちは殆どが犬飼という名字を名乗っていた。

そして、その場所は親から危険な場所だから近寄るなと教えられていた。特に祖父母は口にするのも嫌な様子だった。しかし詳しい理由は教えてくれなかった。


小学生高学年になってからわかったのは犬飼山周辺は被差別部落ということだ。

学校で同和教育の授業があり理解した。

そして、自分の町が情けなく思えた。

小学校で習うことをできない大人達がいっぱいいるのだ。

それが自分の身近な祖父母と両親、更には近所の人逹も当てはまるのだ。


自分のクラスにも犬飼山出身の犬飼さんは数名いるが、それに対して拒絶などはしないようにすると決意した。


中学生になり、部活で犬飼姓の人と仲良くなった。

名前は犬飼輝。

私が輝君と仲良くしている事をどこからか知った祖父が、縁を切れと言ってきたこともあったが、反抗した。

輝君自身も生まれで差別をする大人達を軽蔑しており意気投合した。犬飼山について話す事も多かった。


犬飼山麓の人々は、その名の通り犬を飼っている家庭が多い。犬を大事にすれば豊かになるという曰くがあるとのことだ。


犬飼山はかなり不気味な場所で、常に鬱々とした雰囲気を纏っている。そのため麓の犬飼一族もめったに訪れることはなく、山頂付近に小さい神社があるという話を聞いたことがあるが見たことはないと言っていた。

輝君自身も小さい頃は山自体をとても恐れていたらしい。


話の発端はひょんなことからだった。

何でこんなに犬飼山が煙たがられているのか調べようとなった。

図書館で調べてみたが、手掛かりはなく、町の大人達は犬飼一族を毛嫌いして話そうとしない。

何でもいいから情報が欲しいため、神社を調べてみようということとなった。


休日に二人で犬飼山に向かう。

実際に訪れてみると禍々しい程鬱々とした雰囲気が漂っており気持ち悪い。

絶対に1人なら山に入ろうとなど思わないであろう。

一応登山道は存在しているが、話の通り殆ど人が立ち入ることはないためか、雑草が道を消しかけていた。

草を掻き分けながら山を登っていくと途中で、ガサガサと木々から物音が聞こえてきた。

驚いて音の方向を見ると猿が数匹こちらを眺めていた。

こんな小さな山に猿がいることに驚いていると、輝君はおもむろに石を拾い猿に向かって投げつけ追い払った。

「この山、何故か猿が多いんだ。よく餌を求めて降りてくるから追い払うんだ。うちの母親なんかこの間エアーガンで猿を打ってたよ。」


柵もない近さで猿に会うのは初めてだったため、恐れ慄きながらも、登山道を進んで行く。

30分程進んだところで鬱蒼とした木々の中にポツリと鳥居と小さな祠があった。


辺りに漂う不気味な雰囲気は増しており、祠から邪気でも出ているのではないかという気さえしてきた。

神社があると聞いていたから、何か情報があるかと思っていたがあるのは小さな祠だけ。

ガッカリだと輝君に話しかけようとした時、空から「ヨクキタ・・・マッテタ・・・コッチへコイ・・・」と掠れた囁くような声が聞こえてきた。

慌てて頭上を見上げると、祠の真上の木に白く長い毛の猿が居た。その白髪はまるで老人を彷彿とさせた。

そして、その異質な猿が喋ったという事実は私を恐怖で包み込んだ。

足は完全に強張り動かない。

輝君も固まっているようだ。

白髪の猿はじっとこっちを見ている。


「ワンワンワン!」 

けたたましく吠える柴犬が突然現れ、緊迫した空気を壊した。

グルル、と猿に威嚇を始めると、猿はゆったりとした動きで木々を伝い去っていった。

呆気に取られていた私であったが、輝君が柴犬に「来てくれたのか。」と抱きしめている光景を見て、危機は去ったことはわかった。


謎の生き物に出会ってしまった恐怖でこの場から一刻も早く立ち去りたい一心だった。

犬と一緒に二人で山を駆け降りた。

山を降りている途中、1人の老婆と出くわした。

「婆ちゃん!」

輝君が老婆に駆け寄る。どうやら輝君の祖母のようだ。

話を聞くと、飼っている犬の様子がおかしかったため様子を見に来たのだそうだ。


そのまま、輝君の祖母の家に行き、犬飼山の話を聞けることとなった。

犬飼山には昔から不気味な猿が住んでいるとのことだ。

人語を話し、時に人間を攫い食べる。猿なのか妖なのかも定かではない。

わかるのは犬を嫌い、犬が近くにいると悪さはしない。

そのため、山を囲うように犬飼一族が住み、犬を飼っているという訳だった。

「私達は猿から人達を守る立派な御役目を行っているのに、町の連中は薄気味悪がって私達を避けるようになってしまった。」

輝君の祖母は悲しい顔で話しを終えた。


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