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九尾の狐 エピソード2

 朝になると雪が積もっていた。

「よーし、何か食べに行こう!! 番組まだ大丈――夫!!」

 藤元の大声が一階から響いた。

 僕は5時に起こされた。

 それから、入浴を10分だけして、玄関へ向かうとヨハと藤元が待っていた。

「今日はコンビニの流谷 正章さんにスーパーアタッーク!! 彼、今もう働いています!!」

 藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振って、先頭を歩いて行った。

 足元の雪が冷たさを靴に滲ませた。

 僕は何だか新鮮な気持ちになった。

 まるで、初めて大好きな車に乗った時のようだ。

 そういえば、僕は流谷にも酷いことをしたんだった。


 コンビニに入ると、店内の明るさに驚いた。雑多な品物が所狭しと立ち並ぶ棚に置かれてあり、流谷ともう一人の男性が店番をしていた。僕の顔を見ると、流谷は一瞬はっとしたが、すぐにニッコリと笑って、

「フライドチキンいかがですかーー!!」

 元気良く言ってくれた。

 早速ヨハがレジに行って、フライドチキンを買った。マイナンバーカードはA区でも使える。普通A区は現金が必要なのだが、生憎僕たちは持っていなかった。

「雷蔵様~~。一本おまけして下さいました~~」

「あ……ありがとう。その……前は悪かったね」

 流谷くんはニッコリ笑って、

「もう忘れました!」

 流谷 正章。20代で中肉中背のフリーターだ。

「ハイッ、野菜も取る!!」

 藤元がコーン入りのサラダパックを僕の前に突き出した。

 ヨハは大喜びでサラダパックを受け取ると、僕の選んだとんかつ定食を持ってまたレジへと向かった。

 それぞれ朝食を買うと、藤元の自宅へと戻る。

 藤元はチキンカレーを買った。そして、温めてもらってきた。

 僕は何故か新鮮な感覚を覚えた。

「ありがとうございます~~。藤元さん~~」

 ヨハはスキップをしていた。

 食事の後、藤元が番組だと言って出掛けた。

 ヨハがしばらくすると、キッチンにある真っ黒いテレビを点けた。

 

 雪の降る中。

「おはようッス。って、まだ誰も起きていないかもッスね。取りあえず勝手にニュース始めるッス。云・話・事・町TV――!!」

 美人のアナウンサーは元気だ。

 ピンクのマイクを隣の藤元に向ける。

「おはようございます。藤元です。新しい信者。新しい仲間。来世で未来で、きっといいことあるよ。信者熱烈大募集中です!!」

 背景にB区の街並みが見える。

「ハイっ!! よろしく!! …………じゃねえよ!! お前信者入っただろう!!」

「だって、まだ三人しかいないんだよ……」

「そんなことより、仕事ッス!!」

 藤元は首を垂れるが、元気を取り戻し。

「ハイっす!! 今日の天気と運勢は、まずは天気予報から……えーっと……」

 藤元は空を見つめて、

「今日は午後からたぶん大雪っスね。それから……運勢は……あ! なんと異性運激熱です!! 僕も恋人募集中ですよ!! よろしくお願いします!! 一緒に宗教しましょうよー!!」

 美人のアナウンサーは、眉間の皺を気に出来ないほどニッコリと微笑んで、藤元の頭をピンクのマイクで刺した。

 番組はそこで終わった。

 

 午前8時にマルカと藤元が帰ってきた。

「雷蔵様。A区の全市役所と全不動産の住居データを洗いました。九尾の狐の居場所が解りました。ここから西にいったところの地下エリア。那珂湊なかみなと商店街に、人目にまったくつかない空き家があるそうです」

 マルカの言葉に僕は大きく頷いた。

「よし、早速行こう」

 僕はキーを持ち出した。

「ちょっと、心配。僕は番組あるから行けないけど、きっといいこともあるよ」

 藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振って、

「安全、無事のおまじない。何か起きたらまた来てね」

 藤元にお礼を言うと、僕とマルカとヨハは車屋さんに頼んだ4座席の赤いスカイラインに乗り出した。

 雪の道を走り抜け、西へ1時間余り、A区の地下エリア那珂湊商店街へと向かった。

 

 吹雪いてきた。

 車窓から雪が降り積もるA区が見渡せる。4年前は僕はここを金のために陥れようとしていたのだ。ハイブラウ(知識人の・文化人の)シティ・B。アンドロイドのノウハウによって、ほぼすべての労働を人間のかわりに独占してしまう。その政策は僕の父さんが前々から考案していた。

 僕は昔から金に飢えている。

 特別な乾きがある。

 どうしてだろう?

「雷蔵様~~。また、上の空で~す」

 助手席のヨハが僕の顔を覗き込むように見つめていた。後部座席のマルカも心配している。

「そんなに~一人で~~悩まなくても~~」

「…………」

 電子式の液晶ミラーで後ろを見ると、雪はこのA区を白に染めていた。

 雪に覆われた那珂湊商店街の入り口の花模様がついているアーチが見えてきた。丁度、下り坂のような地下へ通じる道がアーチの向こうにある。

 そこへ入れば、九尾の狐を見つけられるだろう。

「九尾の狐は、那珂湊商店街の三番アーチ付近に住んでいます」

 マルカが補足説明をした。


 僕はそれを聞いて、スカイラインを地下へと走らせ、駐車場を探した。金網フェンスで囲まれた砂利が敷き詰められた駐車スペースをすぐに見つける。

 道路沿いの脇にあった。

 地下の那珂湊商店街は、それぞれ一番から十番まで十字路の入口にそれぞれ花柄のアーチがあり、通路を挟んで立ち並ぶ店などには、種々雑多なショーウインドーに電化製品から食品。工具や衣料品などを揃えていた。


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