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人間としての未来へ エピソード4

 流谷は必死にペンズオイルニスモ GT―Rを追い抜こうと、10tトラックの間をかいくぐりコーナーからスローイン・ファストアウトをした。ペンズオイルニスモ GT-Rも負けずにコーナリングスピードを限界まで振り絞る。

 お互いのマシンが悲鳴に似た咆哮を発した。


 角竹は歯を食いしばり、

「興田くん。道助くん。何としても勝つんだ。人間性より未来の方が重要だ!!」

 老いた角竹は作業班にも怒鳴った。この試合で勝てば、間違いなくノウハウの援助や介護を受ける余生を受け入れなければならない。

 人と余り関われず、せいぜい乏しい感情を持て余して、日に日に衰退する体と心を自分自身で慰めなければならない。

「社長。慎ましやかな余生をお送りしてください」

 興田は頭を下げると、満川の方に向いた。満川は技術班に言った。

「相手を殺すのよ」


「あれ? 流谷選手の車に、後方からの10tトラックがぶつけてきましたね」

 竹友は真っ青になった。

「ええ……。それもかなり攻撃的です……」

「試合はどうなるのでしょう?」

 斉藤はストップウオッチを見ると、

「今から何かが起きますよ……」


 津田沼は350キロの速さの中。流谷の車に後続の10tトラックがまるで、車の上を車が走るように巻き込んだ様を見て、真っ赤になった。

「ちくしょー!! 夜っちゃん見ててくれ!!」

 津田沼はアクセルを踏み切り、ノウハウの10tトラックを全力で追い抜こうとした。しかし、10tトラックはこちらに寄って来て、津田沼の車にクラッシュをしてきた。


「あ、津田沼選手は周りの車を巻き込んでスピンをした!!」

 竹友は震えた声を振り絞った。

「あ、駄目だ!!」

 斉藤は目の前の悲惨な惨劇を予想した。


 晴美さんはゆっくりと目を開けて、夜鶴に支えられながらも立ち上がった。カメラマンの男がその様子を写していると、応援席から大勢の悲鳴が聞こえて来た。

「藤元―!! ヨハの修理は後だ!! 流谷君と津田沼のところへ行ってこーい!!」

 美人のアナウンサーはピンクのマイクを振り回した。

「ハイっす!! あれ……? 何か変……?」 

 飛ぼうとした藤元は不可解な顔で、首を傾げた。


 コースアウトした遠山は少しの間。気を失っていた。

 芝生の上に足を置いて、車を押そうとしたが、サイドボードにある何かの液体が入った瓶を見て、呟いた。

「栄養ドリンク……か?」

 遠山は手を伸ばし一気にそれを飲み下した……。


「遠山さん……頑張って下さい……」

 晴美さんは心の中で精一杯のエールを送った。

「遠山さん……」

 夜鶴は流谷と津田沼が死んでしまったことで、この勝負は遠山一人に掛かってきたことを知った。

「ねえ、なんか変じゃない?」

 河守はコーナーへと戻った遠山の走りが、どこか切羽詰っていることを訝しんだ。


「おや? コースアウトした遠山選手が再びレコードラインへと入りましたね」

 竹友の声に、

「ええ、かなり急いでいますね。それもそのはずで、勝負はもうすぐで……?」

「あれ……凄いスピードです!! 遠山選手!! 起死回生か!!」


「どけー!! どけー!!」

 遠山はストレート、コーナーなどを瞬く間にクリアしていく。その超絶的ドライビングテクニックは誰もが目を見張るものだった。

 遠山は何台ものノウハウが駆使する大型トラックなどを、かわしながらスピードを上げていく。

 栄養ドリンクなどではなかった……。

 何を隠そう強力な下剤である。

 遠山が死ぬほどの便意で狂戦士と化した。


「信じられません!! なんというドライビングテクニックなのでしょう!?」

 竹友は幾度もCチームの車を追い抜いて行く遠山のガヤドルを見つめた。

「何が起きたのか解りませんが……あれは常人の域を超えていますね。きっと、日本の将来ために立ち上がったのではないですかね?」

 斉藤はストップウオッチを見つめると、唖然とした。

「なんと!! 時速420キロも出ています!!」


「どけーーーー!!」

 遠山は早くも6周目に入り、ノウハウのペンズオイルニスモ GT-Rと一騎打ちとなった。

 相手のペンズオイルニスモ GT-Rも高度なドライビングテクニックを駆使して、遠山の車をブロックしてきた。

 後続の遠山には冷静さは今は皆無だった。

「死ねーーーーー!!」

 遠山はアクセルを振り絞り、ペンズオイルニスモ GT-Rに後続から派手な体当たりをした。


「これは、凄いっス!! 遠山選手!! 相手をクラッシュでコースアウトにした!!」

 美人のアナウンサーは驚きの声を発した。

「うーん。確かに凄いんだけど? なんか変? ま、いっか……。頑張って遠山さん!!」

 藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振り、空を飛んで死んでしまった流谷と津田沼のところへと向かった。

「遠山さん……。頑張って」

 晴美さんは気を引き締めて、遠山のガヤドルを見つめた。


「どうなってる! なんだ! あの走りは?!」

 興田は満川と作業班に向かって、叫んだ。

「解りません!! でも、このままだと負けます!!」

 一番年配の作業服の男は、部下の元へ向かって、ノウハウのプログラムを強化するための手順を述べだした。

「興田くん!! 何が起きているんだ!!」

 角竹も真っ青な道助の手を赤くなるほど両手で握って、興田に向かって叫んだ。

「解りません!! でも、なんとかします!!」

「相手を殺すんだ!!」

 道助は満川に向かって、叫ぶ。

 周囲の離れた観客たちの耳にその言葉が入り、真っ青になった顔をした者たちが現れた。


 遠山は6周目に差し掛かった。

 相手のペンズオイルニスモ GT-Rも同じく6周目だ。


 遠山がコーナーに派手に突入した。

 ペンズオイルニスモ GT-Rもスローイン・ファストアウト。

「ヒール・アンド・トゥー!! ヒール・アンド・トゥー!! フルスロットル!! 上級ドリフトもこなすし!! 敵は蹴散らし……便所――――!! 便所――――!!」

 遠山は便意を紛らわせるために叫んでいた。

 コントロールラインはもうすぐだ。


「あっーと、遠山選手ゴーーール!!」

 竹友はマイクを握りしめ、絶叫した。

「Aチームの勝ちです!! 再び奈々川首相の勝利でーーーす!!」

 応援席の観客たちはA区。B区。そして、C区の歓声が瞬く間に満たしていった。


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