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片想い エピソード2

「おはようございます。云話事町放送Bです」

 テレビには男性のアナウンサーが、マイク片手に云話事マンハッタンビルのガラス張りの正面玄関にいた。

 周囲には大勢のマスコミが集まっていた。

「昨日、奈々川首相によるスリー・C・バックアップの可決がされ……」

 アンジェが二杯目のコーヒーを淹れてくれた。

「C区は元はと言うとB区の一部だったのです。6年前から様々な高度な技術を、前奈々川首相(晴美の父親)の意向により開発をしておりましたが、それはもともとはアンドロイドのノウハウの大規模な労働への導入を考えてのことだったのです。例えば工事や倉庫内作業や医療などの作業は、ノウハウのもっとも得意とする分野だったのですね……。ですが、ハイブラウシティ・Bは人間性を欠いたものへと変貌したと現奈々川首相の発言と行動によって、方針が是正されていきました。今ではスリー・C・バックアップは必要不可欠な社会貢献のためにと……ノウハウをより人間に近づけるために……」


 僕はサンドイッチのお替りをマルカに頼んだ。

 マルカはキッチンへと行くと、高速な包丁さばきでサンドイッチを作っていた。

 僕はチャンネルを変えた。


「おはようッス! 云話事町TVッス!」

 美人のアナウンサーがマイク片手に、云話事マンハッタンビルの正面玄関で、藤元と一緒にカメラの前に立っていた。

 周囲には人だかりになっていて、皆笑っている。

「おはようございます。はい、信者~~信者~~。どなたでも~~。お気軽に~~。きっと~~、来世で~~未来で~~いいこと~あるよ~~! 熱烈大募集中の藤元 信二です!!」

 藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振る。

「はい!! 信者の勧誘!! そこまでっス!! ていうか信者入っただろ!!」

「だって、少ないんだもん!!」

「そんなことより、仕事ッス」

 美人のアナウンサーは真面目な顔付きになると、

「6年前からC区は技術開発を――つまり、簡単にいうとノウハウをより人間に近い存在にすることが出来る技術を、C区は開発をしていたのです――」

 美人のアナウンサーの言葉は云話事町放送Bの男性のアナウンサーとほぼ同じセリフだった。

「ふーむ……」

 藤元は険しい顔で遥か天空を見つめていた。


 空は鉛色の雨雲が覆っていた。丁度、美人のアナウンサーの話も何やら暗い方向へと傾きつつあった。

「暗いですね……よし! お天気だけでも明るくします!」

 藤元は慎重に話している美人のアナウンサーの後ろで、神社なんかでお祓いに使う棒を両手で握ると熱心に振り回した。

 と、稲光と同時に空には突然の雷雲が発生した。

 雷雲から落ちた雷は美人のアナウンサーの頭上に直撃!

「何しやがんだーーー!!」

 カメラに向かって話していた美人のアナウンサーは、いつの間にかアフロヘア―になっていた。

「すいませーん! わざとですーー!! じゃなくて、失敗みたいですーーー!!」

 藤元がテレビに向かって頭を下げた。

 それでも稲光は激しくなる一方だ。

 周囲の人たちはマスコミの人たちと一緒に近くの屋根のある歩道へと避難し、美人のアナウンサーはピンクのマイクで藤元の頭をブッ刺した。

 番組はそこで終わった……。

 

 テレビを消して、僕は会社へと出勤する。

 黄色のスポーツカーは、昨日の夜にこの寒さの中でマルカが洗車をしてくれていた。秋も深まるこの季節に、アンジェたちは眠らないし寒さを感じないから特注で揃えた甲斐があった。

 僕は駐車場でランボルギーニにイグニッションキーを差した。一段回すとメインスイッチが入り、カーナビなどの電子機器が目を覚ました。更に回すとスターターモーターが回転した。

 スポーツカーは回転数は早く落ちる。7000回転すると、その次はガクンと落ちる。

 僕はランボルギーニの短い咆哮を聞くと、雹と大雨の中を快適に走り出した。

 矢多辺コーポレーションまで、車で約25分だ。これまで遅刻したこともないし、欠勤した時もない。調子が悪い時もないし、病気もしない。

 人は僕のことを機械というけれど、違うんだ。僕は神なのだ。

 そう経済の神なのだ。

 車で走行中に携帯が鳴った。


 2050年からB区は、事故さえ起きなければ運転中の携帯電話の使用が許可されていた。けれども、現奈々川首相(晴美さん)が危ないからと禁止した。

 僕は軽く舌打ちをして、近くのコインパーキングに車を停車して携帯にでた。私用電話は緊急時しか鳴らないようにしていた。

 相手は原田だった。

「雷蔵さん。スリー・C・バックアップのデータを10億で買えと、坂本 洋子が言ってきました」

 坂本 洋子とは日本屈指のハッカーで、その道の人たちからは九尾の狐と言われている。

「10億なら安い。いいよ。買ってください」

 僕は二つ返事で答えて、携帯を切った。

 コインパーキングに大雨や雹の中、手を伸ばして携帯電話を差し込んで車を走らせる。

 今では携帯電話はB区には現金がないので必需品だった。銀行の機能が付いていた。利息もあって、融資や募金もできるし、買い物もできるのだ。つまり、銀行や金融機関は携帯の数字だけを管理する管理会社となったのだ。後、各店のポイントカードなどにも対応されていて、お得で様々な面に有効な身分証明書でもあった。 

 霜も降りないクリスタルの両開き自動ドアが開くと、そのまま液晶のワイドスクリーンが目立ち。会社の宣伝をしている地下へと入った。矢多辺コーポレーションは外部の人でも車でしか入る人がいない。


 駐車場に正面玄関が広大な地下30階に一つずつある。

 B区では車の免許を持っていない人はいない。

 全体の40パーセントを占めるお年寄りや子供たち、あるいは障害のある人たちは、バスや電車などの乗り物以外では大きな建物の中には入れない。病院もそう。大きな建物の中に入るには救急車かバスや電車などの乗り物だけだ。

 そういう。……歩道がないわけじゃないけど……。車両優先の構造を道路全体に施工されてあった。余談だが、大部分を都市開発プロジェクトでノウハウが建設し、滅多に交通事故が起きない世界になった。

 地下26階に僕の車がおける駐車スペースが三つある。通路のゲートキーパーに挨拶をして、受付に手続きしてもらったら、車を駐車し。そこから少しだけ歩いて正面玄関から会社へと入った。

 玄関から右に向かって歩くと、正面に社員用の高速エレベーターが10基ある広いホール。エレベーター内は60名が乗れる仕様だ。正面には受付と左側には自動販売機の列がある。


 13名の重鎮とアンドロイドのノウハウが3体。いつもの時間に、急いでエレベーター内に入ってきた。

「雷蔵さん。おはようございます!」

「雷蔵様。おはようございます」

「おはようございます!!!」

 社員の声に軽く会釈して、

 僕はエレベーターに乗って、136階のボタンを押した。

「雷蔵さん。今日はおはよう」

 河守がエレベーター内の壁に寄り掛かり、いつもの挨拶をしてきた。

 僕はニッコリと会釈をすると、秘書のノウハウから資料を渡された。

 ノウハウは全て甘いマスクと鋼鉄製の体にガリ痩せの腹部をしている。身長175センチのアンドロイドで、一体38万円で買える安価だが高性能な機械だ。

 その資料を注視していると、

「ねえ、スリー・C・バックアップって、一体幾らくらいするの? お金持ちの雷蔵さん」

 冷やかした表情の河守が僕の顔を覗いてニッと笑った。

「……」

 僕は資料を注視していたが、ノウハウに数点だけ指示をだして、資料を戻させた。エレベーターが136階に着いた。


 扉が開くと、すぐにオフィスだ。 時間を無駄にしない作りだった。広々としたフロアに入ると、各々のディスクへ向かう人々を見て、僕は思うところがあった。

 晴美さんのことを考えていた……。

 スリー・C・バックアップを僕が海外に横流しすると、君はどう思うだろう?

 僕がやったとはわからないだろう?

 でも、もし……知ってしまったら?

「雷蔵さん! また上の空よ!」

 気付くと、河守が目の前に座っていた。

 時計を見ると、いつの間にか、午前の仕事を終え。丸松牛定食を102階のいつもの高級和食レストランで食べて。お茶で飲み下して。午後の仕事をして。そして、会議の時間になっていた。

「もう! ここんとこ、いっつもそう! 私が来てから毎日じゃないの!」

 今年に入社した河守がぐるりと、長いテーブルを見回す。河守を含めて13人の人たちはノウハウから渡される資料を見ていた。

 僕にそんな一言が言えるのは、河守ひとりだけだった。

「そんなに思い詰めるのなら……しなければいいのに……。因果応報って、言葉知らないの?」

「…………」

 スリー・C・バックアップの横流しのことは、恐らく矢多辺コーポレーションで社内で発言することができるのは(外部に知られるとまずいのだけれど)、僕と原田とこの13名しかいない。


 元々、矢多辺コーポレーションは、非合法擦れ擦れや時には絶対に公に出来ないことをしてしまうという事業を行っている余り健全じゃない会社なのだ。

 でも、C区の技術開発を受け持つ会社や工場は、金になるのならば、どんなところにでも売り出そうとしている。けれども、今では世間と国のためを優先して会社イメージのために奈々川さんに協力をしているだけなんだ。

 悪いことをしようとしているのは僕たちだけじゃないが、きれいごとをやっていないといけない社会になった。


 だけど、勿論C区の技術を非合法で海外に流すと、日本の国は更に衰退していっていしまう可能性がある。

 それは特許だ。

 横流しの場合は特許が相手が持つようになってしまい。利益に大いに影響がでてくる。日本の企業がもともと特許を持っていても、僕たちが海外で売ってしまうと、どっちが先に技術を開発してきたかで相手の企業が裁判をしたりと大変だ。

 さっき電話にでた坂本 洋子は産業スパイのようなことをしたんだ。

 簡単にいうと、僕たちがC区の企業の秘密情報を勝手に坂本 洋子を使って持ち出し、自分たちの利益のために海外に安く売りさばいてしまうのだ。

 恐らく、海外でもノウハウが活躍するこのご時世じゃ、他企業も狙っているんじゃないかな?

 それと、証拠もなにも残さない。……いつものことだ。

「ねえ? 本当に大丈夫なの? 顔色が悪いわよ。悪いことは密かにしていても、いつかは日の目にでるものよ……。今なら止められるわよ」

 河守がいつの間にか、僕の席に淹れたてのコーヒーを置いてくれていた。本当に心配しているのだろう。河守がこんなことをするなんて……。

「ああ……大丈夫です」


 八時半自宅。


 アンジェたちは心配していた。

 云話事帝都マンション48階のトレーニングジムの滅多に使わないサンドバッグを前に、僕は体中に大量の汗を掻いていた。

「雷蔵様~~。高級ヒレカツ定食は~~。後で~いいですか~~」

 ヨハだ。

「雷蔵様。お体の調子はいかがですか? 今夜の夕食は胃に優しいもののほうが?」

 マルカ。

「もう一時間ですよ。雷蔵様」

 アンジェは心配の声を一際大きくした。

 僕は一時間も続けていたサンドバッグを打つのを止めた。

 グローブを外して、荒い呼吸を鎮められずにいると、ヨハがタオルを持って来た。

「ありがとう」

 僕はぜぇぜぇと鳴る呼吸をし、汗をタオルで拭いていると、携帯が鳴った。近くの丸椅子に置いてあった携帯をアンジェが持ってきてくれた。


 僕はタオルをマルカに渡して携帯に出る。

 相手は十中八九。原田だろう。

「こんばんは……あなたは死にますよ」

「原田なのか? え、いや、はは。間違い電話だよね?」

 声色は女性だったが、何かの間違いだと思った。

「雷蔵さん。原田 大輔ならここにいますよ」

「君は誰? 原田はどうしたのかな?」

「ここにいます……」

 僕は、「あっ」そうかと思った。

「坂本 洋子さんだね?」

「……そうです…………」

「どこにいるの?」

 この人が九尾の狐と言われる女性なのだろう。

「本題に入りますよ……しっかり聞かないといけない。あんな危険なものを私に盗ませて、そして、お金もくれない。なら、命を狙うのが当然でしょ」

「原田がお金をくれなかった? どうして?」

 僕の友人の原田は特別社会生学院大学といって、エリートコース専用の大学の友人だ。そうだ、河守も世代が違うが、たぶん同じ大学だったのだろう。


「ご機嫌よう……こんばんは……さようなら。原田 大輔はお金を持っていなかった。これからあなたを狙う。すぐにお金を用意してほしい。では、死なないように」

「え?」

 僕はすぐそばのアンジェに目で合図をした。

 使用人たちとアンジェたちには僕の家での全通話内容は筒抜けなのだ。

 アンジェたちは腰のベルトにある拳銃を素早く取出し、戦闘モードになった。

 ヨハだけは服を脱ぎ始め銭湯モードになった……。


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