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選挙活動 エピソード3

 記者会見の場で、晴美さんの姿が見えなかった。そして、興田 道助がこう宣言した。

「日本の将来性の勝利ですよ。今から新しい政治が行われる……私が首相になったのだから、日本は発展していきます」

 新聞記者が質問を浴びせた。

「前奈々川首相(晴美さん)は退陣しましたが、どうしたと思いますか?」

 興田 道助がふざけて軽口を言った。

「きっと、前奈々川首相はトイレにいって、時間が掛かったので出てこなかったのですね」

 興田首相のセクハラ発言に新聞記者たちから笑い声が聞こえた。

 僕は頭にきてテレビを消した。

「きっと、何か起きたわ!」

 河守が突発的に電話で首相官邸の夜鶴に掛けた。

 原田が上の階からエレベーターでやってきた。

「やっぱりここか。寝室に二人でいたら、どうしようかと思ったよ。テレビで奈々川首相がいなかったから、何か起きたと思ったんだ」

 原田は緊迫した顔をして、僕の真向いの席に落ち着いて座った。


 河守のコールで、夜鶴が出たようだ。

「え……。トイレから出てこなかった?」

 河守が辟易したが、次の言葉を夜鶴が言ったようで、すぐに緊迫した。

「毒?」

 僕は見誤った。

 毒のことを知っておきながら、警戒することをしなかった。

 敵は用意周到だったのだろう。

「食材に微量に混在していた……? それで、晴美さんは?」

 河守がすぐさま受話器越しに問うと、

「一命は取り留めた……よかった……」

 僕は山下が藤元に頼まれて、渡した手のひらサイズのプラスチックのことを思い出した。

「それで、今、病院?」

 僕はカレンダーを見ると、C区に頼んだアンジェたちの修理が終わった日が明日だった。

「雷蔵さん。病院へ行きましょう」

 河守が今まで見たことがない不安な表情をしている。

 とても、心配しているのだろう。

「いや、明日にしよう。敵が待っている……」

 僕は不敵に笑った。


 晴れ渡った日だった。白い雲一つない空を、黄色のランボルギーニで河守と九尾の狐と銀色のフェラーリに乗った原田を連れて、C区へ来た。大手の会社を見て、僕は国を左右するほどの戦争を仕掛けようと不敵に笑っていた。

 これで、僕たちは全員揃った。

 アンジェたちは大喜びの原田の銀色のフェラーリに乗った。


 病院へ着くと、病室で晴美さんと夜鶴。島田や田場、津田沼に遠山たちA区の人たちがいた。後、犬。

「皆さん……すみません。私の力が至らないばかりに……」

 晴美さんは病院のベットで上半身だけ起きて泣いていた。

「無理もない。毒は僕たちも警戒していたが、見落としていたんだ」

 僕は河守の言ってくれた作戦を見落としていた。

 ここまで、姑息な手を使うとは思ってもいなかった。

「いいえ……今の時代の選挙には、みんなの力だけではなく。私の力も必要なのです。何とか勝たなければならないですね……」

「そんなに~~、一人で抱えなくても~~いいじゃないですか~~」

 ヨハが気を使った。

「そうです。晴美様は何も力を失ってはいません」

 マルカ

「雷蔵様。C区を倒しましょう」

 アンジェ。

「アンジェさんたち……。ありがとうございます。けれど、争わない道を見つけてください。相手も人間です」

 晴美さんの言葉は病院に設置されたテレビの音声で少し遮られた。


 一人の男性のアナウンサーが、空気が濡れているかのようなしっとりとした晴れの中、牧歌的な風景のA区を背景にして話していた。

「皆さんこんにちは。今日。興田首相のエレクトリック・ダンスが発足した模様です。今から65歳以上のお年寄りは全て在宅介護対象と在宅援助対象。在宅看護対象。在宅労働援助対象……。特別老人ホーム入居対象。など必要な援助をノウハウたちによって受けられます。年金は廃止され、全て無料で受けられるそうです。しかし、財源の問題は底をつきかけている国家予算からではなく。老齢管理税として、A区に少し負担がかかる程度の徴収をしていくとのことです。今までの国が請け負った負担が軽減され、C区とB区には、これからの社会的成長を老後を気にせずに目指していけるようになりました」


 男性のアナウンサーの後ろにはA区の人々が顔を見合わせていた。

「どうしました?」

 男性のアナウンサーがマイクを向け、一人の作業服の男性に質問した。

「俺たち……。老後はノウハウが援助をしてくれるんだよな?そして、その金は俺たちが支払う。どこが無料なんだ?」

 男性のアナウンサーは言葉を落ち着いて紡ぐ。

「仕方がないかも知れませんね。何故ならお年寄りが一番多い地区がA区ですからね。……年金を収めるようなものだと思うしかないかも知れませんね」

 作業服の男性は頷くしかなかった。

 男性のアナウンサーは今度は中年女性に質問した。

「どうしました?」

「私、ノウハウで大丈夫なのかなっと思ったんです。だって、機械でしょ。怖くて寿命が縮む感じよ」

「ええ。それは心配しなくても大丈夫ですよ。そのためのスリー・C・バックアップですから、C区の全面的技術提供案なのです。老人の介護や援助がそれも高度に出来るプログラムなんですよ。何も心配しなくても大丈夫です。それに、まったく人がいるわけではなく。ごく少数の介護士の方たちも一部は参加するようです。ですが、お年寄りは全国で5千万人もいらっしゃるので、大部分はノウハウの技術に期待したいところですね。それでは、ご機嫌よう」

 周囲のA区の人たちは一時、不安を押し込めた。


 番組が終わると、河守がニッと笑った。

「まだ、方法があるんじゃない?」

 河守にみんなが一斉に目を向けた。

 河守は晴美さんのベットに腰かけて、みんなの前に人差し指を挙げた。

「三年前の日本全土を左右した。あの野球。あの方法をまた取りましょう」

 河守がニッコリと笑った。

 晴美さんは目を大きく開いて、

「そうです。その方法を使いましょう」

 病室にいる私たちが、立ち上がった。

「そう……レースで……」

 河守は得心した顔をした。


 病室の窓から藤元が入ってきた。どうやら、空を飛んできたようだ。

「雷蔵さん。晴美さん。番組が始まりますよ」

 藤元が元気だ。

 突然、美人のアナウンサーが病室に入ってきた。

「コラ!! 藤元!! 放送中に飛んでいくな!!」

 どうやら、病院の外で奈々川首相の病態を案じ、放送しようとしていたのだろう。

 美人のアナウンサーがピンクのマイクで藤元の頭を刺すと、藤元は瞬時に立ち直り、カメラマンに晴美さんを写させた。

「みなさん。奈々川首相は無事ですよー。番組は奈々川首相を応援しています」

 マイクなしの藤元は晴美さんを励ました。

 晴美さんは涙を拭いて、飛び掛かる美人のアナウンサーのピンクのマイクにはっきりと宣言するために、ベットから上半身を奮い立たせる。


「私は無事です。けれど、日本の将来はどうでしょうか? スリー・C・バックアップで得たものとは、人間性ではないでしょうか? ごく一部のB区とC区だけが発展していっても、やがてはその国は病んでしまうのではないでしょうか? A区の人々は日々、みんなと協力して生きています。その人達にはスリー・C・バックアップでアップデートされたノウハウの維持費を支払うのは、堂に入ってはいないのでは? 確かに老人が一番多いのはA区です……。それでもA区が元気に、そして、より良く生きていけるには、やはり、人間性が必要です。A区の人たちにも老後が待っています。B区やC区だけではないのです。発展とは、A区の人々も含めてではないでしょうか? 5千万人の老後の問題は日本全国の問題です。……私は思います。機械のノウハウに老人の介護を任せるのは、孤独死と同じ目に老人を合わせるのではと? 老人も人間です。例えボケても人間です。その老人に暖かく、人間的に接せられるのは、やはり、人間だけです。人間性のために、私たちは立ち上がります!!」


 晴美さんはそう言うと、ベットから降りだした。


「今の私は援助が必要な体です。ですが、アンドロイドのノウハウの援助と人間の援助とでは、どちらが尊いでしょうか。人間的なドラマがなければ、心の交流がなければ、私たちの老後は死んだも同じです!!」

 晴美さんはそう言い終わると、力尽きてベットに倒れる。それを夜鶴と島田が受け止めた。

 美人のアナウンサーは涙を拭いて、力強く頷くと。

「どうです!! 私の思惑通りに晴美さんの政策が絶対に一番になりますよ!! これから、私たちも番組も含めて立ち上がります!!」

 藤元が晴美さんの容体を看ていた。

「先生!!」

 藤元が医者を呼んだ。


「だ……大丈夫……です……」

 晴美さんは起き上がろうとするが、夜鶴が制した。

「晴美さん!! 寝ているんだ!! 毒がまだ抜けていない!!」

「大丈夫です……」

 晴美さんが夜鶴を押しのけて起き上がり、

「3週間後に私たちは、もう一度、選挙戦を興田首相に挑みます。それはレースの試合でです。こちらが勝手に決めた試合なので、ルールは興田首相に託します」

 晴美さんはそう言うと、ベットで横になって、再び目を瞑った。

「今度は、レースですね。ハイ!! 了解ッス!! また、日本全土を左右する場面に出くわしたッス!!」

 藤元は喜んで話している美人のアナウンサーの隣で、緊迫した顔をしていた。晴美さんの体内の毒は、致死性の毒だったのだ。


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