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エレクトリック・ダンス エピソード2

 那珂湊商店街の喫茶店から、僕たちは九尾の狐の指示でA区の河守の住んでいる青緑荘へと戻った。那珂湊商店街では僕たちがいるとかなり被害が大きくなるからだ。河守の住まいは青緑荘(島田と広瀬の住んでいるところ。また、夜鶴が昔住んでいた)の202号室だ。その近くに藤元が住んでいるから人が死んだとしても、生き返らせることができると考えたのだろう。そして、念の為にアンジェを呼んだ。自宅の警護は複数のノウハウに任せた。もう手薄でも構わないだろう。

 201号室の2LDKに着くと、河守が奥のリビングルームで私服に着替えた。九尾の狐は、エレクトリック・ダンスの情報を入手するために、小型の端末をいじり、原田はマルカを連れてリアルの情報屋へと会いに早々に外出をした。

 私服の河守は僕とベランダへと向かった。

 外はしんしんと雪が降り積もり、11月の空は暗雲の冬空へと変わっている。

「雷蔵さん。あなたはどうしてスリー・C・バックアップに引き付けられたの?」

 唐突に河守が聞いてきた。

「正直……解らないんだ」

「へ……?」

 僕は暗い空を見つめた。

「僕は昔から吸血鬼が血をほしがるように、いつもお金を欲しがるんだ。何故だろう……?」

「お金は一生困らないのにね……」

 河守が呆れた。

「ああ……」

 僕はスリー・C・バックアップのデータを何故欲しがるのだろう。

 ヨハの言葉を思い出した。


 そうだ、誰かに聞いてみよう。答えを持っている人がいるはず。


 僕が口を開こうとしたら、

「あのね……。こんなこというのもなんだけど、あなたは自分をよく知らないのよ」

「え……?」

「そう。確かにあなたは片方では強いわ。巨万の富を持っているし、この日本で屈指の大金持ちだし……。でも、自分すら知らない。だから、あなたは自分自身の力で自分を知りたいのよ。より良くて、本当の自分をね。でも、自分を知らずに、会社でも日常でも簡単に大勢の相手を蹴散らしてしまうから、いつも欲求不満で……だって、そうでしょ。ライバルもいない。周りはいつもへこへこしている。内面に満たされない攻撃的になっている欲求が周囲を彷徨っているんだわ」

 僕は経済の神のはずだ。

 でも、人間なのか?

「僕は神なのか……? それとも、人間なのかな……?」

「あっきれた。神なんかじゃないわ。あなたは人間よ。そして、その中でも非常に弱い人間よ」

「……え?」

「あなた。ここA区で一から生活したら……。きっと、本当の自分を見つけるわよ」

「……そ、そんな……」

「まあ、無理だけどね」

 河守は悪戯っ子のように笑った。

「さあ、難しい話は置いておいて、今日の夕食を買いに行きましょ」

「ああ……」


 僕と河上がコンビニに行こうとすると、九尾の狐が甘い物を買ってきてと頼んできた。僕は用心のためにヨハを連れた。

「かしこ~まりました~」

 ヨハはスキップをして、外へと出た。

 外は雪が降り積もっていた。

「夕食は何に~しますか~」

 ヨハはコンビニの店内でサラダパック片手に、仁王立ちしていた。

「ああ……牛丼とフライドチキン」

 ヨハがサラダパックごと精算していると。

 コンビニの流谷は「いつもありがとうございます」と、河守はデミグラスソースのカツレツとあんドーナツを数個。かにチャーハンを精算してくれていた。

 コンビニの流谷が笑顔で手を振っていた。


 夕食後。河守が何の前触れもなくテレビを点けた。


「こんばんはッス。云話事町TVッス!!」

「ハイっす。藤元 信二ッス!!」

 美人のアナウンサーの隣に、額の汗をタオルで拭いている藤元がいた。どうやらとにかく疲れているようだ。


「今日は那珂湊商店街に来たッス」

 後ろにはブルーシートが散乱し血痕が所々に付着しているが、付近の人々は何やら藤元に向かって手を合わせて祈っていた。警察の人たちが藤元を見つめて唖然としている。

「いやー。さっきまで銃弾で人がいっぱい死んでいたんですけど……」

 美人のアナウンサーはピンクのマイク片手に後ろにある三番アーチを見た。そこの近くの喫茶店が激しい銃撃戦で、窓は割れ椅子やテーブルは滅茶苦茶で派手にやられていたが……。

「すいません。僕がもう生き返らしちゃったから……」

 藤元は頭を下げた。

「なので、プロフィールデータが破損し、何者かに破壊されたノウハウが15体だけしか、現場に残っていないッス。製造元も判別できないっていうし……。死んだ人は生き返ってよく覚えていないって言うし……。すみません」

 美人のアナウンサーは首を垂れる。

「でも、またまたあの男が関係してるみたいですね……藤元さん?」

「え……へ……? ええ、そうですね」

「一体? どこにいるんですかねー……? 藤元さん?」


 美人のアナウンサーはピンクのマイクをくたくたの藤元に向ける。

「え……へ……? ええ、そうですね」

 藤元は顔をタオルで拭きながら、元気のない表情をして荒廃してしまった那珂湊商店街を見回していた。

「……なんか知っているッスか?」

「え……へ……。ええ、そうですね」

 美人のアナウンサーの眉間に皺が寄って来た。

「以外とA区の藤元さんの家にいるッスか?」

「え……へ……。ええ、そうですね。もうどこかへ行っちゃったけど……」

 美人のアナウンサーはニッコリ微笑むと、藤元をヘッドロック。アンド。ピンクのマイクで刺す。そして、ぐりぐり。

「てめー!! 藤元ーー!! 私の謎の男――!! 日本の救世主――!! 今現在独身生活真っ只中の20代後半の乙女心をどうしてくれるんじゃ――!! 謎の男のことすぐ教えろーー!!」

 番組はそこで終わった……。


 深夜の1時30分。

 マルカと原田が戻ってきた。

「雷蔵さん。云話事サイバータウンの情報屋に向かったマルカちゃんや、俺が聞いた博田 定則。二つの情報を合わせると、どうやら、敵はC区の霧島インダストリー社の興田 守だけじゃないんだ。敵は大勢いる。裏でC区の重役のほとんどが関わっているみたいなんだ」

 マルカはキッチンへ行くと原田のために紅茶を淹れた。

「そうか……。まあ、10憶の金くらいじゃ済まない計画だから。C区がこぞって関わるのは、仕方ないかな」

 僕は欠伸をしながらそういうと、九尾の狐の方へと向かう。


 九尾の狐は相変わらず砂糖を大量に入れたコーヒーを飲んで、質素なテーブルで端末をカタカタと弄っていた。その顔は疲れを知らないかのようだ。

「何か情報は入ったかい?」

 僕の言葉に、

「ええ。でも、もう少しだけ待って……」

 しばらくすると、九尾の狐は端末から顔を上げ、河上を呼んでこちらに向いた。

「まずはエレクトリック・ダンスの話からね。今ある情報だと確かに5千万人の老人を社会から隔離して介護や援助をノウハウが独占する。それに、変わりはないわ……。ただ、利益を国から永続的に搾取するだけじゃなさそうね。まだ、裏があるわ」

「姉さん。それって、どういう事。まだ、何かあるの?」

「ええ」

 僕は事の大きさにまた欠伸が出そうになったが、

「まだ……裏がある……か」

 僕は欠伸をした。

「後、現奈々川首相の暗殺は二週間後の選挙の時のようね」

 僕はそれを聞いたら真っ青になった。

「どうしよう……晴美さん……」

 気が遠くなりそうで、仕方ない。


 アンジェとマルカとヨハを連れて、C区と戦争するにも敵が多すぎるし、不明なところも多い。

「雷蔵様~~。大丈夫ですから~みんないるじゃないですか~~」

 原田が抱きついているヨハが自信のある声を出した。

「そ……そうだね」

 河守は僕を見つめると、

「あなた……。少し強くなったわよ」

「へ……?」

「そうね……14日後の現奈々川首相の暗殺を阻止するために、これからどうするのか具体的に考えましょ」

 河守が普通の美貌の髪をなびかせ、白いテーブルに腰かけた。


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