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九尾の狐 エピソード3

 僕はマルカとヨハを連れて、三番アーチを探す。

 行き交う人々は平和な顔をしている。昔と違って、今の社会全体が平和になったので、あまり気にしたことがなかったが、とてつもなく素晴らしいことだと思えてきた。

 僕はその素晴らしいことを壊そうとしたのだ。

 僕は一体?

「雷蔵様」

 マルカの声ではたと気が付く。

「雷蔵様~~。上の空から戻りませんと~~。あそこの人です~~」

 僕はヨハの指差す人物を確認した。


 三番アーチの中央に立つ女性がいた。二体のノウハウを連れ、こちらを見つめていた。行き交う通行人はこちらを見ると、笑顔が薄れどこか緊張した顔になる。

「お金が先よ。あなたを数体のノウハウがライフルで狙っているから」

 紫色の口紅と赤い長髪、大きなサングラスが印象的な長身の30代の女だった。白い派手なスーツ姿だった。一定の距離で立ち止まっている。

「君が……。九尾の狐だね」

「お金は?」

「雷蔵様……周囲に狙撃銃を持ったノウハウが6体隠れています」

 マルカの声にヨハも険しい顔をしていた。

 僕は気にせずに話をした。

「確か10憶だったっけ。後、原田はどこ?」

「違うわ……20億よ」

「20……ちょっと高くないかな?」

「私の方が有利……命よりお金が大切なら断ってもいいわ」

 僕は舌打ちしてマルカに目で合図をした。

 マルカはこくんと頷くと、九尾の狐のところへ僕の携帯を持って行った。

 両手を挙げてマルカが近づくと、金を貰うべく九尾の狐は、隣のノウハウに指示をだし、小型の端末パソコンを持ち出させた。精算すると、ノウハウが首を傾げた。

「……」

「僕との約束は10憶だったよね。命より金が大切なら請求してもいいけど」

 マルカは10憶しか支払はなかったのだ。替わりに九尾の狐に小型の拳銃を緊急不可視高速モードという人間の目には決して見えない速度の行動をとって向けたのだ。ノウハウにもこの芸当は無理だ。


 膠着状態になった。


「私は20億と言ったわ」

「いいや、10憶と聞いた」

 僕も多数の銃口を向けられているのだろうけど、大して気にしないことにした。

「ふー……もういいでしょ。姉さん」

 僕は驚いて振り返った。

 そこにいたのは、会社で見たまんまのスーツ姿の河守 輝だった。

「どうして? 君が? ……こんなところに?」

 僕は九尾の狐の妹が河守だということが意外だった。

「今、仕事から急いで帰って来たのよ。雷蔵さんには、もう言ってもいいかな。原田さんには協力してもらっているし」

 いつもの気楽な調子で河守が、ここからそう遠くない喫茶店を指差した。九尾の狐も片手を挙げて周囲の狙撃銃を持った複数のノウハウを引っ込ませたらしい。僕の方へと歩いてきた。

「事は大きすぎて、私たちだけじゃ無理なのよ」

「……?」

「雷蔵様。その人も河守様も丸腰です」

 マルカは僕の顔を心配そうに見つめている。僕はこっくりと頷くと九尾の狐と河守の後について行った。

 ヨハは警戒した顔から心配そうな顔をした。

 

 喫茶店の店内は人が疎らで、コーヒーの匂いだけで落ち着く場所だったが、九尾の狐の指示で窓際には座らないようにした。奥のテーブルに向かった。

「周囲はノウハウが警戒しているわ」

 九尾の狐はそう言うと、コーヒーと砂糖を頼んだ。

 マルカは僕の隣に座り、ヨハは傍の丁度、僕が窓際から守られる位置に立った。

「雷蔵さんは、スリー・C・バックアップのことをどのくらい知っているの?」

 河守は正面に座ると、開口一番その言葉を口にした。


 河守の隣の九尾の狐は大き目のサングラスを外した。なるほど、目の辺りが河守にすごく似ている。

「うーんと、ノウハウを人間に近づけるための技術をC区が開発をした。それがC区の全面的技術提供案。スリー・C・バックアップの要……くらいは」

 僕がそう言うと、河守が辟易した。

「雷蔵さん。ノウハウ……つまり、国家規模のアンドロイドたちを人間に近づける技術は、どれくらい凄いと思うの? それこそ20億円でも安いわよ」

「?」

 九尾の狐は小型の端末を開いて見せ、僕の携帯を差し込んだ。支払った10憶の金が戻ると、九尾の狐が別の検索画面を写した。僕は気になった部分を見た。それには、こう書かれていた文があった。

「ノウハウに4千万人の老人の介護をさせる?」

「そう……C区は元々B区の一部で、前奈々川首相(晴美の父親)は老人福祉も視野に入れていたの。ノウハウが介入すれば、この国は安泰だということになるわね。何故ならお金があまり掛からないから……」

 九尾の狐はそう指摘した。

「うーん。それくらいのことだったのかな?」

「それだけじゃないわ。現奈々川首相(晴美)はこの計画には前々から反対していたの」

 河守が言った。


 確かに晴美さんならそうするだろう。

「変だよ。晴美さんは可決したはずだ。……それに、そんなことでは僕たちは襲われない」

「違うわ!」

 河守は急に真面目な顔をして叫んだ。

「この計画には裏があるの。エレクトリック・ダンス……。スリー・C・バックアップは表向きなの。……その裏では65歳以上のお年寄りを強制的に介護福祉を必要とさせることができる政策を打ち上げ。利益をA区から機械的に搾取していくことを目的として、この表舞台(社会)から老人を完全に排除していく。そう、社会から隔離をして利益を自然に生み出すための研究所にしてしまう計画。それが、エレクトリック・ダンスよ。そして、もう一つ……可能性として高いのは……現奈々川首相の暗殺よ」


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