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まだ改善点はある。

十夏の告白


 彼女は儚かった。

二週で散る桜よりも、七日で鳴き止む蝉よりも。

真白な石が転がる海岸で、水平線を見つめていた。


"生き物は、命を落としてから、より輝くの"


そう言って微笑みながら、空に煙を吐いた。



・・

 二〇二二年五月二十七日


 毒殺事件と聞き駆けつけた現場は、異様だった。

白いワンピース、小綺麗な化粧、真っ赤な口紅が青白い肌をより引き立たせていた。

ベッドに横たわった遺体は、白い花束を抱えており、色のない空間が広がっていた。

部下の土谷が後を追いながら喋り出す。

「被害者は田川すみれさん十八歳。京都府の高校に通っていたようです。死後十二時間以内で、争った形跡はありませんが、首の動脈に注射痕があり、注射器が見つかっていないことから他殺の線が濃いと・・

「この花、スミレですよね。」

鑑識の荒木が口を挟んだ。

「ガイシャの名前…だな」

「随分と手の込んだことをするもんやねぇ…」

ふふ、と笑いながら荒木は作業に戻る。

「気味悪りぃよ」

口角を引き攣らせて呟く男の横で土谷は苦笑いを浮かべた。


・・

男は柳孝一、三十八歳。大阪府警察刑事部の刑事だ。色黒でガタイが程に良く、昭和風の端麗な顔つきをしている。

「ちょっと前はその辺でタバコを吸うても怒られんやったのに、生きにくい世の中やな」

「僕吸わないのに連れてこないでくださいよお、」

「うるせぇ。大体な、お前は気い弱そうなのが丸見えなんや。そんなんやったら舐められるぞ。堂々としろ、堂々と。」

「はァい、すみません」

「はァいじゃなくて、ハイ! 元気よく返事せんかい」

全く、とため息を吐きながら、柳は事件記録・検死結果と睨めっこをしていた。

死因はテトロドトキシンによる中毒死。外傷もなし。部屋からは被害者どころか誰の皮膚片や髪の毛の一本すら出ていない。状況から見て他殺とされているが、どこから手をつけるかと頭を抱えながら、これから洗う人間の名簿を流し見る柳の目が止まった。

「夏目…」

「知り合いですか?こっちから京都に通うん大変ですねぇ」

「おい土谷、すぐ車出してくれ」

「え、あ、はい。了解です!」

走り出す土谷の背中を少し見届け、聞き込み行ってくる、と部署を出て足早に車に乗り込んだ。頭には、"夏目"がこだましていた。


・・・

 二〇一五年十月、府内の中学校で女子生徒が、中毒死した。名前は確か、そうだ、石井瑠夏。良く日焼けし、いかにもスポーツ少女といった見た目だ。

少し肌寒くなってきた教室、六限目の授業中。突然に痙攣を起こし、ほどなくして息を引き取った。

ここまでは時たまある話だ、中毒症状を起こし亡くなってしまう者は少なくない。が、事情聴取を始めてすぐにそうではないことが分かった。

奈津とかいう女子生徒の証言だった。

「痙攣起こして泡吹いてたんですけど、レイが近寄って、ルカの口ハンカチで拭いて、赤いグロス塗ったんです。で、香水をシュッ、て。」

確かに、遺体の口元に付着物はなく、ほんのり柑橘系の香りがした。

レイ、というのが、その夏目家の次女だ。色白で、綺麗な黒髪を一つに束ね、真っ直ぐ切られた前髪の下から眠そうな目が覗く。

「最期くらい綺麗でいたいじゃないですか?」

そう答えた彼女は、見送る時まで表情を変えず、柔らかく微笑んでいた。











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