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『ミラージュ・ワールド・オンライン』シリーズ

とあるゲーマー双子のお話

作者: 紺海碧

 2022年1月11日に『とあるゲーマー少女のお話』を投稿した際には、ここまで続くとは思っていませんでした。

 たぶん、これで『ゲーマー』シリーズは最後です。

 とうとうシリーズになっちゃったな......。

 後で、シリーズ設定やっとこうかな......。


【おまけ】

 ひょっとして:勇者とか魔王討伐が前につく方の『パーティー』の正しい表記って『パーティ』?(←いまさら)(←『パーティ』と『ギルド』の違いも分からない人はこれです)

 晴れた秋空の下。

 公園の三人がけベンチにて。

 私、川出(かわで) 千尋(ちひろ)、は、プチ家出を決行していた。

 家や学校では泣きたくても泣けないしそんな姿を見られたくないから、という理由でここに来ていたのだが、周りに迷惑だとは重々承知している。

 それでも、こうしないわけにはいかなかった。

 器用にベンチの上で三角座りをして、膝に顔を埋めて、目を袖でぐしぐし擦って、鼻をすすって、かなりの時間が経過したと思う。

 ふと、隣に気配を感じ、私は顔を上げた。


 「あ、ここにいた。

  はい、これ」


 穏やかな笑みを浮かべた女性が、私を見て、ひょいっと何かを渡してくる。

 それは、見覚えのある、彼女のマイボトルだった。


 「ね、(ねえ)さん......」


 そう、彼女は、私の知り合いだ。

 彼女は、学校、並びに私の家の近所に、パートナーさんと、雑貨店兼喫茶店を構えており、私や双子の兄である、百矢(ももや)、とは私たちが小さいころから交流がある。

 しょっちゅうおこづかいを握り締めて訪れていて、なんとなく私は、姐さん、と彼女のことを呼んでいた。


 「秋とはいえ、ずっとここにいたら、風邪をひくよ?

  それ、チャイだから、あったまるよ」


 ちょっと辛いかもだけど、と優しく笑う彼女に、私は思わず、ぎゅっと抱き着いてしまった。


 「姐さーん......、うう」


 「おっと」


 姐さんは飛びついて来た私を、私よりも小さな体で受け止めてくれた。

 そして、ゆっくりと背中を撫ぜる。


 「よしよし、何があったの?」


 私は、泣きじゃくりながら、昨日両親に宣告されたことを、姐さんに語った。

 両親の念願だったマイホームを、とうとう購入したこと。

 しかし、その場所はここ、旅空(たびそら)、ではなく、県庁所在地でもある隣町、中丘(なかおか)、であること。

 一月にそこに引っ越すこと。

 それに伴い、入学して一年にも満たない高校を、そして生まれ育ったこの町を、離れなければならないこと。


 「そっか......」


 「うえーん、やだよう、もう姐さんところの子になりたい......」


 「それは無理かな......。

  うちには、歩人(あゆと)さんや、音羽(おとは)がいるし」


 「マジレス」


 「あ、ちなみにね、さっき、うちを出る直前、歩人さんに抱き着いて、百矢君が同じことを言ってたよ」


 「うわあ......」


 何やってんだ兄貴。

 私もひとのこと言えないか......。

 今の私と兄貴のやっていることは、ほぼ同じことだから。

 私はすっと姿勢を立て直し、チャイをすする。

 その姿を見て、くすくすと、だけど全くいやな感じはしない笑いを、姐さんが零した。

 しばらくして、姐さんが口を開く。


 「ねぇ、前、私が、『桃華(とうか)』出身だって言ったの、覚えてる?」


 「えっ、う、うん」


 桃華、というのは、正式名称は、私立桃華学園、という、全寮制の中高一貫校で、旅空にある、割と地元では有名&進学校だ。

 ちなみに私や百矢が通っているのは、普通の県立高校である。

 ほんとは行きたかったんだけどね、お許しがでなかったのだ。


 「ちょっと昔の話をしても、いいかな。

  私の、あの時の話......」


 「聴きたい!」


 そう間髪入れずに答えると、姐さんははにかんで、ゆっくりと語り出した。


   *   *   *


 「そうだったんですね......」


 「うん。

  まあ、というわけで、私は置いて行かれる側だったんだけど、でも、あのときの、あんな私でも、すごい出会いがあって、そして、ここまで来れた」


 そう言って、姐さんは、大事そうに、いつも首にかけている碧い石がはまったペンダントを、握り締めた。

 それは、時々見る、彼女のくせ。


 「だから、きっと、上手くいくよ、千尋ちゃんも」


 「そうかな......」


 「それに、千尋ちゃん、当時の私と違って、話上手だもん。

  あと、あれを辞めないと、というわけでもないんでしょう?

  えっと、ミラージュ・ワールド・オンライン、だっけ」


 ミラージュ・ワールド・オンライン、というのは、私が百矢と共にやっている、VRMMO物のゲームのことだ。

 以前、おすすめのゲームとして紹介したことがあり、その際姐さんは、「もうファンタジーはおなかいっぱいかな......」と遠い目をしていたことを、思い出した。


 「うん、そうだけど」


 「なら、きっと、全てが変わってしまうわけじゃあない。

  そこが、きっと、心の支えになってくれるよ」


 「ううーん......」


 確かに、そうかもしれない。

 だけど。


 「私は、この街が好き。

  姐さんたちが好き。

  だから、離れたくないのに......」


 はあっとため息をつく。


 「そっか......。

  でも、引っ越し先が中丘なら、すぐ来れるよ」


 「......」


 「それと、一番千尋ちゃんが嫌だったのは......、()()()()()()()()()()()()()、じゃあない?」


 「っつ?!」


 思わず私は目を見開いて、姐さんを凝視した。

 普段ふわふわとして見える姐さんは、このように、鋭いところがある。

 それはまるで、探偵のような。


 「千尋ちゃんは、変化を嫌う子じゃあないもんね。

  決まったことは仕方ないとしても、その気持ち、ちゃんと伝えた方がいいよ。

  千尋ちゃんたちのご両親なら、きっと、受け止めてくれるよ」


 「そ、そうかな......」


 「そうだよ」


 そう姉さんが言った時、着信音がした。

 姐さんの携帯に、メッセージが届いたようだ。

 私が冷めかけたチャイを飲んでいる間、メッセージを読んでいた姐さんは、私が飲み終わったのを確認し、ベンチから立ち上がった。


 「噂をすればなんとやら。

  うちに、ご両親が来店したみたいよ」


 「おうっふ......」


 ということは、兄貴は捕まったな。

 今までありがとう兄貴。

 兄貴のことは忘れないよ。

 そう胸の中で呟き、そっと私は手を合わせた。

 その様子を知って知らずか、姐さんがこう、持ちかけてきた。


 「さ、行こう。

  なんなら、うちで話し合いなよ。

  夕食、食べて行けばいいし」


 「い、良いの?」


 姐さんの作る料理は美味しい。

 私は思わず、ごくりと唾を飲み込んだ。


 「うんうん。

  うち、すごくお世話になってるし、なにより、門出のお祝いをしなきゃ」


 そう言って、姐さんは手を差し出してくれる。


 「あ、ありがとっ......」


 私は差し出された手を取り、立ち上がった。


 「そうだ、中丘といえば、私の友達がいるんだ」


 「えっ、そうなの?!」


 そう、他愛もない話をしながら、道を辿る。

 その夜は、姐さんたちのおかげで、忘れられない夜となった。


   *   *   *


 納得はしたけど、心の整理はつかない。

 その状態で数週間が過ぎ、思いがけない転機が訪れることとなる。

 MWO、ミラージュ・ワールド・オンラインが、ゲームの祭典においてブースを出すこととなり、パーティーメンバー全員がチケットを無事手に入れることができたのだ。

 日付はばらばらだが、日程が合うメンバー同士でオフ会的なことをしよう、と提案を受けたぼくたちは、二日目である今日、三日目参加メンバーで、最終打ち合わせのため、パーティーハウスのメインルームに集まることになっていた。

 しかし、ログインしたところ、誰もいなかった。

 ......シュガーに至っては、理由は分かるけど。

 いや、誰もいない、というのはちょっと違うか。

 メインルームのカウンター席には、頬杖をつき、アンニュイな雰囲気を出した、白髪金眼の少年がいた。

 服装からして職業(ジョブ)は剣士であるとわかる彼は、シリウス。

 ぼくやゲーム内においても双子、ぼくの姉で通っているシュガーが所属する、パーティー『ストレイヤーズ』の、メンバーの一人だ。


 「こんばんは、シリウス」


 「お、おう、こんばんは、ソルト」


 にこり、と優しい笑みを浮かべる彼は、しかしながら、絶対に怒らせてはいけない人物の一人であることを、ぼくは知っている。

 外見も内面もイケメンだけどね。

 ぼくはとことこと近づいて、隣のスツールによじ登った。

 ぼく、現実では平均身長超えてるんだけど、ここではチビなんだよ。ねぇシリウス、そんな微笑ましいものを見る目で見ないで。

 ぼくはなんとか座り、シリウスの方を見て、昨日からずっと訊いてみたかったことを尋ねた。


 「シリウス、昨日、どうだった?」


 昨日、シリウスと、彼の相棒ポジションにいる戦闘型魔術師の、リック、は祭典に参加していた。

 その為、昨日はログインしていなかったのだ。

 あ、でも、ネタバレはなしでお願いします。


 「あ、ああ、うん。

  すごく楽しかったよ」


 「お、そっか~」


 「だけど......」


 そういって、シリウスはカウンターに突っ伏した。


 「リックが、現実(リアル)の知り合い、ってかクラスメイトだった......」


 「Oh」


 それは、何と言ったものか......。


 「学校で、どんな顔して会えばいいか、分かんない......」


 「まぁ、頑張れ」


 そう言うしか、ないよね?

 ちょっぴり途方に暮れていると、二つの足音が、こちらにやってきているのが聞こえた。

 見ると、ぼくの待ち人である、シュガーと、メンバーの一人で職業(ジョブ)は支援型魔術師な少女、モモ、だった。

 ただ、普段と違う点が二つある。

 顔を上げたシリウスの視点の先は、二人の頭と腰。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 カラーリングはそれぞれ二人の髪の色に合わせられていて、感情に合わせてぴこぴこと動いているところといい、なんともリアルだ。

 何故、二人があのような格好をしているのかというと、先日、シリウスの地雷の上でタップダンスを踊るに等しい行為をして怒らせてしまい、そのお仕置きの最中だからだ。

 期間は一週間。

 それでいいのか、と最初は思ったが、すぐにその認識は間違いであるとわかった。

 その理由は......。


 「やっほー()()!」


 「()()()......」


 そう。

 あのアイテムの効果のせいで、な行や語尾が強制的に猫語になってしまうのだ。

 一体、こんなアイテムをどこで手に入れたのだろう。


 「やっぱり、これ、恥ずかしい()()()

  はやく一週間過ぎ()()いか()()()


 「www」


 シリウスはというと、スクショを撮りつつ、爆笑していた。

 相手に大ダメージを与え、自分は楽しめる。

 なるほど、理想的なお仕置き(罰ゲーム)である。

 そっとぼくは、目の前に広がるカオスから目を逸らした。

 シュガーたちは、自業自得である。助ける気は毛頭ないので。

 シュガーの心のHPは0だが、モモ、お前は完全に楽しんでるよな?

 このカオスは、数分後、リックがシュガーとモモに憐みの目を向けつつ、シリウスを回収してクエストに向かったことにより、終結を迎えた。

 リックに引きずられてメインルームから退出するシリウスを見送りつつ、ぼそっとシュガーが「......尊い()()()......」と呟いたのを、ぼくは聞き逃さなかった。

 補足すると、シュガーは俗に“腐男子”と呼ばれる存在である。

 ......実際の人物で掛け算するのはやめなさいって、前に読んだ本で書いてたの、忘れた?


   *   *   *


 次の日。

 とうとう、私たちが参加する、イベント当日である。

 私と百矢は、時間通りに、待ち合わせ場所である、会場の最寄り駅に辿り着いた。


 「うわ、人がいっぱいだな。

  これ、どれだけの人が、イベント参加者だろ......?」


 「半分はそうじゃない?

  えっと、噴水広場は......」


 私たちはぼやきつつ、駅のすぐ外にある噴水広場に向けて、歩き出した。

 目印は、以前リーダーがくれた、パーティーのシンボルマークがあしらわれたバッチ。

 さて、モモはどこに......。

 噴水広場に辿り着いて周りを見渡すと、私たちの同年代と思しき男子たちの集団を見つけた。

 ......いや、ひょろひょろ男子が、他の男子に、取り囲まれてる?

 私は彼の胸元を見て息を呑み、とっさに駆け出した。

 同時に、百矢も駆け出す。

 百矢も気付いたのだろう――彼の、メンバーズバッチに。


 「「ごめんっ、待たせて。行こう!」」


 「?!」


 「「ごめんねぇ、この子、連れなのでー」」


 私たちはそう言いつつ、彼の背中を左右から押して、噴水広場から連れ出したのだった。


   *   *   *


 「それでは、自己紹介をば」


 「あ、うん......」


 「ごめんな、唐突で......」


 少しあの場所から離れて。

 私たち三人は、周りに配慮しつつ、向き合っていた。


 「私は、ソルトこと、川出 千尋。

  高校一年生です。

  よろしく!」


 「僕は、シュガーこと、川出 百矢。

  千尋とは、双子の兄妹。

  よろしく」


 「えっ、ぼ、僕は、瀬尾(せお) 賢太郎(けんたろう)......。

  えっと......、中学三年生、です。

  こ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 モモは、年下だった。

 おいおい、「うわ、陽キャだ......」って、顔に書いてるぞ。


 「でも、お二人、本当に、双子だったんですね......」


 「おう、まあ、いつもこう息ぴったりではないけどな」


 「ねー。

  ねぇ、(けん)、って呼んでいいかな?

  なんか、『モモ』って呼ぶのもあれだし」


 「僕たちのことも、呼び捨て・敬語なし、でいいから」


 いつもそうだしね、と続ける百矢に、モモ、いや、賢はまだ、戸惑いを隠せないようだ。

 ......ねえ、さっきの子たちとなんかあったって、現実(リアル)では初対面の私たちでも分かるよ。

 だけど、私たちは、仲間でしょう?

 どうか、怖がらないで。


 「......。

  じゃあ、百矢、千尋......。

  さっきは、ありがとう。

  助けてくれて......、ほんとに、嬉しかった」


 私と百矢は顔を見合わせ、顔を綻ばせた。


 「ううん、仲間を助けるのは、当然だよ」


 「おう!

  じゃあ、今日は、楽しみますか!」


 「「おお~!」」


 まだ恥ずかしげな様子の賢とともに、私たちは会場に向けて歩き出した。

 このとき、ちょっと先の未来で、いくつもの“再会(であい)”が待っているとは、私は夢にも思っていなかった。

 ただ、分かっていたのは、今日は素晴らしい一日になる、ということだけだった。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 ここで、いくつか本編では出せなかった設定と裏話をば。

 裏話の方は、薄々気付いている方もいるとは思っています。そう、冒頭に出てきた『姐さん』は、あの子が成長した姿です。しかしあの子、今後筆者の別作品で主人公してもらう予定があるので、この話はここまでにしておきますね......。ネタバレ予防です、はい。

 設定の方は、この双子の転入先は、ちらっと出てきた、シリウスとリックが通う学校です、っていうことですね。MWOや『ストレイヤーズ』をがっつり書くということがあれば、いずれ出てきた設定ですが、自分でゲーム(とはいっても育成もの)をしたり他の方の素敵な作品を見ていると、「かっこいいアクションとかステータス書くのムリ!」となってしまったので、潔く諦めます。ちなみに、結局、三つの本編どれも登場することのなかったリーダーとシャドウも、同じ学校に所属しています。リーダーに至っては、シリウスやリックのクラス担任です。ただ、この二人、現実ではきょうだい、という設定はありますが、本編には出てこなかったため、本名や性別、リーダーに至ってはプレイヤーネームさえ決定しないままでした。

 では最後に、双子の一人称です。


 百矢:僕 ⇒ シュガー:シュガー


 千尋:私 ⇒ ソルト:ぼく


 それでは、このまさかの三部作にお付き合い頂いた皆様、本当にありがとうございました!

 また、別の作品でお会いしましょう。

 紺海碧でした。

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