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セバスチャンではございません

連載中の作品の中の一編を短編に書き直しました。


ちょっと一文だけ書き直しました。

 私の名前はセバスチャン・・・ではございません。

 セバス・セバスティアが正式な名前です。

 セバスティア家当主の長男は必ずセバスと名付けられます。

 ちなみに弟はモーリスです。


 セバスティア家は代々某侯爵家にお仕えしております。

 普通の貴族家と違うのは、長男は王都の別邸、次男は領都の本宅で使用人たちを束ねます。

 そしてセバスティア本家はその次に生まれた子供が男女関係なく継ぐのです。

 現在セバスティア家の当主は年の離れた妹が務めております。

 そして長男と次男には結婚する権利がありません。

 一生を主の為に尽くす。

 次に主にお仕えするのはセバスティア子爵家の長男と次男。

 私たちはその育成をすればよいのです。

 上の甥は私の下で次期家令として修行中。

 下の甥は領都の本宅で弟にしごかれています。

 どちらも優秀ですので、そう遠くない将来に私たちの地位を譲り渡すことになるでしょう。


 話がずれてしまいましたね。

 そうそう、なぜ私がセバスではなくセバスチャンと呼ばれているかでした。


「アンナちゃんなの」


 そう仰るアンナお嬢様はその時二才。

 領都の本宅から王都の別宅に移られて初めてのお目見えの時でした。

 金色の髪と透き通るような青い瞳はご当主様ゆずり。

 とても愛らしいお方で、私たち使用人はすぐにこの方を大好きになりました。

 亡くなられたお母様は他国の低位貴族のご出身とのことで、お嬢様のお口振りにもところどころ砕けたところが見えました。

 きっとお母様は愛情を込めて『アンナちゃん』とお呼びになっていたのでしょう。

 

「アンナちゃんはおかしをめしあがるわ」

「アンナちゃんをおだきもうしあげて」


 使用人の言葉をマネされているのか、ご自分に敬語を使われるお嬢様のお可愛らしいこと。

 甘やかし申し上げるつもりはございませんでしたが、侯爵令嬢としてのマナーをお教えする為注意が多くなる侍女長よりも、ずっと親しくしていただいたかと思います。

 そしてお嬢様が上京されてひと月ほどしたころでした。

 突然お嬢様が私のことをこうお呼びになったのでございます。


「アンナちゃんはセバスちゃんが大好き ! 」


 持っていた書類を落としかけました。

『ちゃん』とは、私のような使用人をそのような温かい可愛らしい敬称をお付け下さるとは !


「セバスもアンナお嬢様が大好きでございますよ」


 一瞬で気を取り直してそうお返しすることが出来た私は褒められていい筈です。

 その場にいた者たちは最速で去り、控室で大爆笑したそうですから。

 その後で侍女長から使用人に敬称をつけてはいけないと叱られておられましたが、「セバスちゃんはアンナちゃんのお家の大切人だから」と聞き入れていただけず、そのうち面白がってお館様までが『セバスちゃん』とお呼びになるようになりました。

 

 あれから三十年近く。

 いつしか私は『セバスちゃん』ではなくセバスチャンと呼ばれるようになり、その由来を知る者も今では少なくなりました。

 なにしろ当のお嬢様、いえお方様が覚えておられないのですから。

 お婿様を迎えて生まれた新たなお嬢様は、私の事を『セバスチャンさん』とお呼びになります。

『ちゃん』に重ねて『さん』とは。

 これは二重敬語になるのでしょうか。

 私としてはぜひ呼び捨てにしていただきたいのですが。


「セバスチャンさんはこのお家の大切な人ですもの」


 お母様と同じようにおっしゃる。

 お優しいお心はお血筋ゆえでございましょうか。


 たくさんのセバスがお仕えしてまいりました。

 これからも多くのセバスがお仕えするでしょう。

 ですが、『セバスちゃん』とお呼びいただけるのは私だけ。

 ええ、私だけです。

 すでに墓誌には『セバス・ちゃん・セバスティア』と書いてもらうよう遺言を残しています。

 さあ、それでは今日も甥のセバスを鍛えましょうか。


 できることならもう少し長生きをして、アンナお嬢様のお孫様をお抱き申し上げることができますように。

お読みいただきありがとうございました。

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