異例の役割
隊長は渋い声で、そして本人には聞こえない小声で呟いた。
「お前達も知っているだろう?十五年前の虹の話を・・・王子達の中でもギリス様は異質だ。試験中狙われる可能性が高い。それを心配した教育係の――あの美剣士の提案で、弟のマニス様が影武者となられるそうだ。よって我々はマニス様を丁重に扱い、警護しなければならない。アトシ、お前が異例の役目を受けたわけ、わかったか?」
上官が名指しすると、部下の視線がアトシに集まる。
アトシは小さく頷いた。
「足元にも及びませんが・・・瞳の色と髪色が似ていますね」
「そうだ。今までギリス様の教育係として側に仕えていたサラヤ殿が、王位継承権を巡る旅に同行せんのはおかしい。マニス様はギリス様の役を、お前はサラヤ様の役をするために選ばれたのだ」
アトシは小さく頷いた。その髪色は黒。瞳は青紫色をしている。サラヤほどではないにしても男前の部類だ。背丈も体つきも、似てなくもない、という雰囲気だ。
「マニス様はこのことを御存じで・・・?」
アトシが聞くと、隊長は何かを諦めるかのように小さくかぶりを振った。
「長い散歩程度にしか思っていないそうだ」
◇ 道中 坂 ◇
山を降り、たんぽぽが自生した坂道の土手を行くいっこう。
マニスは土手に下りてたんぽぽをつみだす。
「マニス様、何をされているのですか」