百年ぶりの試験
「アヅチ?あぁあ・・・はんっ、落ちぶれ貴族か・・・」
鼻笑いをするとヨハンはアトシに興味を失い、目の前までせまった木造の扉を叩いた。
アトシが複雑そうな顔をしていると、例の上司が「気にするな」と耳打ちした。
普段は厳しいが情に熱いこの男は、部下からの人気が高い。
「・・・どなたか」
扉の向こう、張りのある、まだ青年と呼べる年齢を思わせる声だった。
ヨハンが王都からの使者であることを告げると、慎重に扉が開かれた。
「・・・サラヤ=スルガ殿か」
「ええ」
中から出てきた男が『剣の天才サラヤ』だと使者全員が分ったのは、彼の隙のないたたずまいや腰に携えた上等な剣だけでなく、彼が噂に違わぬ美男だったからに違いない。
彼の青紫色の瞳が、他の者より一瞬長く、アトシをとらえた。
「・・・準備は整っております。ただいま呼びに――」
「もう来た」
王が指名した王位継承者候補は、五十人のうち愛妾たちが産んだ七人の子供、そして王妃が産んだ十五歳になる息子だった。
王の口からその名が挙げられた時、朝議に集まった臣下達は凍ってしまったかのように驚愕した。
中々御子が授からなかった王妃の懐妊に国中が喜びの声をあげたのも束の間、子供は死産したと伝えられていたのに、十五年たった今、王は「ギリス」の名を口にした。
「各地に住まう我が愛し子の内、十五を過ぎ、勉学と剣を収める子供は、男女を問わず王位継承の資格があるものとする。わたしが指定した全員が旅に出、樹海にある赤い石、『王の証』を持参し、王都まで登城せよ。これを断る者は王権を放棄したとみなし、この旅を断念したものも王権を放棄したものと見なす」
旅へ参加することを表明したのは、七人の子供の内五人だった。拒否した二人は女である。男女を問わず王権を与えるとゆう言葉は歴史上三回目、そして王位継承の試験を行うことも、実に百年ぶりの出来事だった。