国の西側ガロリア
「静粛に。王はまだお話を続けられるっ」
会場に入って初めて、王の左となりに控えていた美剣士が声を上げた。会場がしんとなり、右となりにいた関白のヨハナが眉を寄せる。若き王はすと立ち上がった。
「・・・沢山の者が死んだ・・・」
―――――・・・
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◇国の西側、ガロリア◇
最近王の体調が芳しくなく、王位継承権を争う試験を開催する、とゆう御触れがあったのは、年が明けて間もなく、外套なしでは外が歩けない季節だった。
霜の張った地面を歩く足音が数人分、馬小屋のようなボロ家に向って続いている。
「本当にアレが・・・?」
白い息を吐きながら思わず呟いたのは、新兵だが異例の大役を任された若き青年、アトシだった。側にいた大柄の男、彼の上司が低い声で答える。
「御身分を隠す為だ。周りの住人も彼らの出生は知らぬ」
「そりゃあ、こんなボロっちい家に住んでるのがおおごしょが生んだ跡継ぎ様だなんて誰も思いはしないんでしょうけど・・・」
「口を慎まんか」
「すいません」
「前々から気になっていたが、君は東のなまりが酷いね」
黒ヒゲに軍人らしい体つきの上司に比べ、貧相なほど細い体の男は、家名だけでのうのう生きているヨハンとゆう男だ。現王ハクホの弟、関白ヨハナの息子であるが、臆病と軟派と自己愛と言ふ言葉を掛け合わせて擬人化すると彼になる。
国の行く末より自分の枝毛の心配を重きにおく男なので、同僚の評判は滅法悪い。特にアトシの上司は彼と何もかもが対極にあるので折り合いが悪かった。
「はい。生まれも育ちもオンエナのジェジェ、アヅチ家の長男です」