序章
荘厳なる、そして厳粛なる場内。
玉座の麓まで敷かれた絨毯の道は、これまで起こった下らない茶番劇の被害者達の血の色だ、と若き王は思った。
金糸と銀糸の刺繍が施された白純の衣は、その背に纏わりつくマントは、若者の心情を隠したがるように長い。
玉座の側に立つ灰色髪の男は、その手に王冠帽を持っている。関白だ。
静かな緊張が王室に張りつめ、大名・貴族・高官達が花道を作って頭を下げている。
衣の裾と絨毯が擦れる音が小さく続き、やがて白衣の若者とそのうしろに控える美剣士は玉座の側へとたどり着いた。
関白である叔父から祝詞を頂くと、事前に説明のあった通り、手を合わせその場に跪いた。若者のあたまにそっと、拳ほどもある赤玉のついた白帽がのせられる。
関白が横に控え若き王が玉座に座ると、うしろに立っていた美剣士が剣を抜いた。
金の飾りがついた鞘から高い音が走り、白銀に輝く直刃が掲げられると、会場から歓声が湧き上がった。
まだ幼さの残る顔立ちをした新王は、未だ興奮冷めやらぬ場内に向って視線をあげ、おもむろに皆の顔に巡らせてゆく。それだけで場内の沸きあがりはじょじょに収まり、王が口を開く予感に居住まいを正す。
その声は決して大きなものではなかったが、滴が水面を揺るがすように、王室の端にいる者にまで届く凛としたものだった。
「わたしがここにたどり着くまでに、多くの者達の力をかり、己がいかに皆に支えられ生きているのかを実感した・・・王とて人。わたしはただの人間だ」
会場がわずかに動揺するが、王の声は続いた。
「王は神ではない。王は人であるからこそ、王である自分を律さねばならぬ。わたしは今日をもって王となり、国民のため、一生を捧ぐと宣言しよう」
沸騰した熱湯のように会場が沸いた。