後編
「お、おお。おめでとう。良かったじゃないか」
「ありがとうございます、先輩に伝えなきゃなって思ってて」
「俺は親か」
「先輩みたいな父親は要りませんよ」
後輩はクスクスと笑った。
俺はジョッキをグイっと飲み、枝豆を一気に口の中に放った。
「そういえば大学の時先輩と一度だけ付き合った事ありましたね」
「……二日で別れた奴か」
「先輩モテるから」
「あれは結局お前の勘違いでただの女友達だったじゃないか」
「ふふ……そうですね」
付き合って二日で二股をかけてると誤解されて別れて、結局それっきりだった。
「先輩は好きな人に想いを伝えなくて良いんですか?」
何言ってんだ……と俺はこめかみを掻く。
「……だから俺は好きな奴なんていねえって」
後輩は苦笑いを浮かべながらも何も言わず枝豆を一粒噛んだ。
「おい、大丈夫かよ」
「うう……頭痛いです」
現在俺は後輩を背負って駅に向かっていた。
高校の頃より実った気がするがそれを言うとセクハラって言われそうだから黙った。
耳元で後輩の唸り声を聞きながら歩き、ようやく駅が見えた。
「あー……ちょっと良くなったのでこの辺で大丈夫です、ありがとうございます」
「いいえ」
後輩はたんたんとさっきまで酔っていたとは思えない軽快なステップで地面に降りた。
そして良い笑顔で敬礼する。
「先輩、私幸せになりますね!」
「……ああ、幸せになれ!」
後輩は振り向かず改札の中に入っていく。
俺はほう……と小さく息を吐いてから彼女の姿が見えなくなるまで見送ってから踵を返す。
飲み過ぎたせいだろう、少しだけ胸に痛みを感じた。
終わりです。
読んで頂きありがとうございました。