中編
飲み会開始から暫くはお互いの会社の愚痴を言い合った。
不思議なものだ。久しぶりに会ったって言うのに遠慮というものがない。
何年も一緒だったんだ、腐れ縁に近いかもしれない。
特にそれを感じるのはこいつが嘘をついている時の癖を分かっているからかもしれない。
まあ、きっと俺の方だけだと思うけど。
既に大分酔っ払った後輩が顔を赤くしながら前を向く。
「そういえば先輩覚えていますか?」
「何を」
「大学二年の時、先輩言ってましたよ。俺は好きな人に白馬に乗って迎えに行くんだって」
「そんなバカな事言ってたか?」
「言ってましたよ、私それ聞いてこの人って本当に馬鹿だなってこっそり思ってました」
「今言っちゃったら結局こっそり思ってた意味ねえじゃん」
「あ、そうだ。あはは!」
焼き鳥を頬張りながら後輩は楽しそうに笑った。
こういう明るい素の姿は、彼女の魅力だと思ってる。
じっと見ていると後輩が俺を見た。
大分酔ってきたのか目が座っている。
「先輩はぁ……恋人とかはいるんですか?」
「いねえよ、いたらお前と飲みに来てねえよ」
これは間違いない。
「あはは、そうですよねえ。じゃあ好きな人は?」
「……いねえよ」
「あはは、先輩は流石ですねえ……」
こめかみを掻きながら言うと後輩は、楽しそうに笑った。
からかわれているようで居心地が悪い。
「そういうお前はどうなんだよ?」
「ええ? いませんよう」
口元がムニムニと動いている。
「はい、ダウト」
「え?」
「俺はお前が嘘をついた時の癖分かってんだよ、ほらほら正直に話せ」
悪のりして不用意に聞いて、それで聞かなければ良かったと思った。
後輩はこれまで見た事の無いような照れた顔をして、俯きながら言った。
「実は私、プロポーズされちゃって、きっと近いうち結婚するんです」